出会い
転居した翌日。
とりあえず挨拶をと、バイト先のコンビニに足を運んだ。
仕事は二日後の九時からだと説明を受けた。店長以外はパートやアルバイトで、六人が三交代のシフトを組んでいるという。
その帰り。
この町の中心部にある商店街に足を向けた。
商店街は幹線道路からそれた旧道にあり、コンビニのある場所からそれほど遠くなかった。
近づくにつれアーケードの屋根が見えてくる。
通りの入り口からのぞき見るに、新旧の店舗が両側に立ち並んでおり、昭和と平成の時代が混在しているかのようだった。
――こんなだとはな。
少なからずおどろく。
そこは思っていた以上に、人通りが多く活気があったのだ。
帰ると玄関先に、昨日見かけた白黒の猫が寝そべっていた。
そいつが顔を上げて問うてくる。
「アンタ、ここに住むんだな?」
「ああ」
「よろしくな。ワシは前からここをネグラにしているもんだ」
「じゃあオマエ、ここで飼われてたのか?」
「いや、ワシは野良だ」
「なら、なんでここにいる?」
「寝る場所として使ってるんだよ。前の住人がいなくなって、メシはもらえなくなったけどな」
この野良猫は祖母の飼い猫ではなかったが、どうやら食べ物だけはもらっていたようだ。
「前の住人って、おばあさんだっただろ」
「そうだが、アンタ知ってるのか?」
「もちろんだ、オレのおばあちゃんだからな」
「じゃあアンタ、ここの住人が、なんで帰ってこんのか知ってるだろ」
「亡くなったんだ。半年前、入院してた病院でな」
「そうだったのか」
「知らなかったんだな」
「ああ……」
野良猫がじっと顔を伏せる。
「それでオレが、この家に住むことになってな」
祖母のことが思い出され、ふいに涙がこぼれ出そうになった。
その夜。
玄関先で寝ている野良猫に問うてみた。
「おばあちゃんがいなくなって、オマエ、メシはどうしてるんだ?」
「こまっているというのが正直なところだ。寒くなると、食い物が減ってくるからな」
「なら、オレがメシをやろうか?」
「ほんとか!」
「おばあちゃんの続きをするだけだ」
「ありがたい」
「それで、メシはネコマンマでいいんだろう。どうせオレも、そんなものしか作れんし」
「ああ、食えるだけでいい」
「じゃあ、明日の朝からな」
こうした訳で……。
この家に住みついている野良猫にメシをこしらえてやることになった。
祖母の顔が思い浮かぶ。
――きっとこれって、おばあちゃが遺した縁なんだろうな。