仲直り
バイトは午後が当番である。
昼まではヒマでやることがない。今日もネコマンマをこしらえ、ナワバリの見まわりに出ているノラを玄関先で待った。
――ノラも大変だな。
道路をのぞき見ているところに、若くてきれいな女性が山の方向から歩いてくる。
――どこかで見たことがあるような。
そう思っていると……。
女性はいきなり立ち止まり、あらっという顔でオレに目を向けた。
「もしかしてコンビニの?」
「はい、そうですが」
あわててうなずいてみせる。
――そうだ!
コンビニに来るお客さんである。どうりで見覚えがあると思ったはずだ。
「おはようございます」
女性があらためて挨拶をよこす。
「おはようございます」
いらっしゃいませと、つい言いたくなり、店員であるかのように頭を下げていた。
「失礼します」
女性は笑顔を残し、大通りに向かって立ち去っていった。
どうやら近くに住んでいるようだ。
仕事以外で、若い女性と挨拶するなどめったにないことだ。しかも、きれいな人と……。
「おい、いい女じゃないか」
ノラがニヤニヤしながら帰って来る。
「コンビニのお客だ。残念ながらな」
「だと思ったよ。アンタ、モテねえから」
「いらん世話だ。そんなことより、ミケと仲直りできたのか?」
「そのことなんだが……」
まだ仲直りができてないのだろう。
ノラは浮かない顔をした。
「イリコがほしいんだ」
「ミケにやるんだな?」
「ああ」
「それで許してもらえそうか?」
「わからんが、といって、ほかにいい方法も思いつかんしな」
「待ってろ」
イリコを三十匹ほど袋に入れ、それをノラに持たせてやる。
ケンカの原因はオレにもある。
うまくいくようにと願いながら、ノラのうしろ姿を見送った。
その日の夜。
バイトから帰ってから、玄関先で寝そべっているノラに仲直りの件を聞いてみた。
「どうだった?」
「うまくいった」
「よかったじゃないか。では、あのイリコがきいたんだな」
「いや、イリコは関係ない」
「じゃあ、イリコはやらなかったのか?」
「ああ、みんなオレが食った」
「どういうことだ?」
「いやな。イリコをやる前に、ミケの方からあやまってきたんでな。かわいいヤツだよ」
ノラがのろける。
まったくかわいげのないヤツである。
なにはともあれ、二匹が仲直りできたことはよかった。
一度でいい。
オレもカノジョとケンカをして、仲直りなんてことをしてみたいものだ。




