クリスマスイブ
クリスマスイブだというのに、プレゼントをもらう相手も、する相手もいない。
わびしいかぎりだ。
バイトは深夜のシフト。
午前中のうちに掃除がすみ洗濯も終わった。午後は寝る以外なにもすることがない。
ノラが帰ってきた。
「見まわりに行ってたのか?」
「いや、アイツとデートしてた」
あの白猫と会っていたのだろう。
へへへとニヤついてから、ノラが昼メシの催促をしてくる。
「メシはまだなのか?」
「ちょっと待ってろ」
ごはんに残ったミソシルをかけ、いつのようにネコマンマをこしらえてやった。
「たまには、ちがうもんをくれ」
「魚の残りもやってるだろ」
「あれはいかん」
「なんでだ?」
「ホネがのどに刺さるんでな」
「ゼイタク言うな」
「ゼイタクといえば、アンタ、キャットフードというもんを知ってるか?」
「もちろんだ。オマエ、もしかして食ったことがないのか?」
「ああ、一度もない」
「食いたいのか?」
「アイツから聞いたんだがうまいそうだ」
「うまいかどうかは知らんが、そんなものを買ってやる余裕、オレにはないからな」
「一度でいいから食ってみたいんだ。アイツが食ってるもんをな」
「じゃあ、もらえばいいじゃないか」
「それがくれんのだ。アイツとは、まだそこまでの仲じゃないんで」
「なら、早く仲良くなることだ」
「そのうちな」
ノラは鼻を鳴らしたが、ネコマンマはしっかり残さず食べた。
午後、商店街に行った。
小雪が舞って、いかにもクリスマスイブらしい。
はなやかさの中あてもなく、ただブラブラとアーケードの通りを歩きまわった。
ふと、前に見たペットショップが目に入る。
今朝、ノラからキャットフードのことを聞いていたばかりなので、今日はついフラリと店内に進み入ってしまう。
店の奥に、いくつものゲージが並んでいた。
それらには商品のペットが入っており、そうした中には子猫も何匹かいた。
子猫は食事中だった。
食べているのはキャットフード。
こんな子猫のときから、ノラが口にしたことのないキャットフードを食べている。
――同じ猫でも、こうもちがうのか。
ノラの顔が目に浮かぶ。
――そうだ!
なぜだかノラにクリスマスプレゼントをしてやりたくなり、キャットフードを買った。
粉雪の舞う中。
――クリスマスもいいもんだな。
家路の足どりが速くなる。
――プレゼントは、やっぱり夜中に、こっそり置くべきなんだろうな。
今夜のことを考えながら、いつかしらクリスマスソングを口ずさんでいた。




