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今年の誕生日

 来週、オレの誕生日がくる。

 プレゼントをくれるカノジョどころか、友だちさえもいない。

 なんとも淋しいものである。

 と、なれば……。

 自分で自分にプレゼントするしかない。だが、さすがにそれはむなしい。

 そこで、商店街にあるタバコ屋で宝クジを十枚だけ買った。

――夢だけでも。

 そう思ったのだ。


 この日の夕方。

 ナワバリの見まわりを終えたノラが、いつものように玄関先でメシを待っていた。

 さっそくネコマンマをこしらえてやる。

 誕生日のことを話し、ノラに問うてみた。

「オマエの誕生日はいつだ?」

「知らん」

「生まれたところは?」

「わからん」

「ぜんぜん覚えてないんだな」

「ああ」

 ノラが淋しげに顔を上げる。

――そうだ、ノラにも夢を!

 ノラに宝クジをやることにした。

「これ、オマエの誕生日プレゼントだ」

 一枚をノラに渡す。

「なんだ、これは?」

「宝クジというもんだ。運がよければ、大金が手に入ることもある」

「なら、いらん」

 ノラは宝クジを返してきた。

「なんでだ?」

「金、ワシらは使えん」

 ノラの言うとおりである。

 猫がスーパーで、魚を買う現場を見たことがない。

「そうだな」

 せっかくだから宝クジはやったことにして、とりあえずオレがあずかることにした。

 どうせ当たらない。

 宝クジ、これは夢なのだから……。


 誕生日の日。

 この日に合わせ、宝クジの当選番号を確認した。するとなんと五等の五千円が、それもノラにやった一枚が当たっていた。

 ノラが来るのを待って、

「ノラ、すごいぞ。五千円が当たっていたんだ」

 さっそく幸運を教えてやった。

「よかったじゃないか」

「喜ぶのはオマエだ。当たったのは、オマエにやった一枚だからな」

「ワシはいらんと言っただろ」

「遠慮せんでいいから、なんでも欲しいものを言ってみろ。オレがかわりに買ってやる」

「じゃあ、靴」

「オマエ、靴をはくのか?」

「はかん」

「じゃあ、なんで?」

「アンタにやる。前に欲しいって言ってただろ。誕生日プレゼントだ」

 ノラがニヤリとする。

「ありがとな」

 今年の誕生日は、おもいがけずプレゼントがもらえることになった。

 メシを食い終わって、ノラが玄関先で丸くなる。

「なあ、家に上がらないか。靴のお礼に、なんかごちそうするぞ」

 ノラを誘ってみた。

 ノラがうなずく。


 今年の誕生日。

 ちょっとだけ賑やかになりそうだ。


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