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場違いな冒険者たち

 

 完全な闇の終わり。唐突に目蓋を差す光。

 身体に重力が戻り、音が次第に鮮明になる。風の吹く音、人の話し声、弦楽器と金管楽器のハーモニー。楽しげな音色だ。

 瞑っていた眼をゆっくり開くと、瞬間的にホワイトアウト。すぐには目が慣れず霞んで良く見えない。それも数秒のこと、目が慣れるとそこはかなりお洒落な街中だった。

 青い空に白い雲。建物はだいたい木造で、二階くらいの高さのものしかない。それは建築様式からか。

 しかし、異様なのはそこにいる者たち。街並みからかなり浮いている。

 黒のタイトレザーアーマーというのが正しいだろうか。かなり身体に密着した、まるでスパイのような出で立ちだ。腰にはメカっぽい剣を吊るし、辺りをキョロキョロ見回している。しかもパッと見ただけでも軽く百人を超える。

 そして、どうやら俺もその一人らしい。

「これは、どうなんだ……」

 自分の身体を見下ろしながら軽く悪態をつく。

 別にダサいとか言うつもりはないのだが、あまり俺の好みではない。

 あと気になるのは視界の右下で浮いている丸いものだ。枠が青色で、真ん中には【2860/2860】と表示されている。

 なるほど。これが体力ゲージか。ちょっと変わった形してんな。

 それはゲームなどで横長棒状のHPバーで記されることの多い命の残量を示すもの。つまり今の段階でこの世界での俺の命は【2860/2860】であるということだ。これが尽きると元の世界、研究施設のカプセルに強制的に戻る仕組みになっている。そこでコールドスリープから目覚めることになるだろう。

 つまり、その時点で報酬を受け取る権利を失うことになるのだ。

 まあ、俺はもっと他の物を探しに来たのだが。

「―――――お兄ちゃんっ!!」

 不意に後ろから話しかけられ、振り向くと見慣れた顔があった。

「おぉ、茜か。思ったより早く会えたな」

 体育会系の屈託のない笑顔に結われた黒髪。そして出で立ちはさながら女スパイ。動きやすさを追求し、出来るだけ無駄な装飾を削ったフォーム。そのため身体の線がそのまま出てしまうので、男が着ると面白味の少ない装備だが、女性だと曲線的なフォルムになるわけで、

 その……うん、悪くない……。いや……むしろありだわ、この装備。

 いけないとは思いつつもついつい見てしまう。もちろん男だからというのもあるが、目の前にいるのが好意を抱く相手なら尚更だ。日常ではありえない出で立ちということもあって視線にも熱がこもる。

「ホントだよ。しばらくは会えないと思ってたからね、心強いよ。それにしてもこの装備すごくカッコいいよね。なんかサイバーっぽくて」

「う、うん……。良いよなこの装備……」

 一瞬視線に気づかれたかと思ったが、妹はかなり鈍かった。

「そういえば、見た目ほとんど変わってないな。顔なんて茜そのものだし」

「そうなのかな? 自分じゃ見られないから分かんないけど、良かったよ。お兄ちゃんも変わんないよ?」

 確かに鏡なんか持たされていないだろうから、自分の顔を見る手段はかなり限られる。何処かにある鏡を探すとか、ショーウインドーの映り込み、もしくは今みたいに知り合いに確認してもらうくらいだろうか。

 まあ、被験者の六千人はほぼランダムに選ばれているから知り合いがいるとか、その中でも俺みたいに身内がいるのはかなりのレアケースだろう。

 とりあえず、顔がそのままなのは少し安心した。

 三門美奈子の説明時に移動後に用意されている身体は出来るだけ本人に類似するものにしていると説明を受けていたが、こうも付け加えられていた。


『しかし、なにせ初の試みであるため、事故も起こり得ると考えて下さい』と。


 つまり顔が似ていなかったり、体格が異なったり、性別が変わっていたり、他人と身体が入れ替わっていたりすることが万が一にでも起こり得るということでもあった。

 彼女の物言いからして確率がかなり低いということは分かっていたが、それでも不安を感じなかったわけではない。

 しかし、その片隅で少し期待もしていたのだ。もしかしたら全く別の身体になっているんじゃないかと。そうなれば新しい自分になれ、楽に力を手に入れるんじゃないかと思っていた。

 甘い考えだったと自分でも思うが、今は変わらなかったことを素直に喜べる自分がいた。

「そういえば、この世界では魔法が使えるんだよね?」

 辺りに目を向けていた茜が訊いてくる。

「あぁ、ここはMMORPGにかなり近い設計ではあるが、並行世界に存在する現実だ。そんな世界のお約束といえば魔法だしな。その他のギミックの仕組みを魔法ってことにしちまえば楽だったってのもあるんだろうけど」

 俺は自分の右手人差し指にはまった指輪の宝石を突き出し、念じる。開けと。

 すると、指輪の宝石から光が照射され、俺の目の前に縦十五センチ、横二十センチほどのホロディスプレイを作り上げる。

 それはメニューウインド。ゲームではおなじみの各種操作をするためのそれである。

 ホロディスプレイには赤、青、緑、黄、紫、ピンクの小さい○が円形に等間隔に並び、○の上にはそれぞれ文字が記されていた。


【赤:STATUS‐ステイタス‐】

【青:EQUIPMENT‐装備‐】

【緑:SKILL‐スキル‐】

【黄:ARTS‐アーツ‐】

【紫:PROFICIENCY‐熟練度‐】

【桃:HELP‐ヘルプ‐】


「これがメニューウインドってやつ? 意外と質素なんだね」

 興味津々に覗き込む茜だが、その質素なデザインはイマイチお気に召さなかったようだ。確かにゲーム大好き男子から見てもシステムデザインの手抜き感は否めなかった。まるで素人が組み上げたゲームのように。

 まあ、三門美奈子は研究者でありゲームなどとは無縁な人生を送ってきたのだろうから、この手の制作は素人。これでも善処した方なのかもしれない。むしろ企業側のスタッフが確認作業を怠ったのかもしれない。

 俺がメニューウインドの赤い○を押すと今の自分のステイタスが表示された。

 そこにはプレイヤーネーム(今は被験者番号になっていた)、レベル、性別、ジョブ、その他基本ステイタスであるHP、物理攻撃・防御、魔法攻撃・防御、回避率、クリティカル率が表示されている。

 その下はスキルやアーツのスロットのようだが、今は空欄だ。更に下、一番下に詳細という文字と共に下向き三角マーク(▽)があり、そこをタッチした時、軽く戦慄する。

 な、なんだよ……これ……。

 ステイタスに追加されたのは信じられない数の項目。身長、体重、視力、筋力、反射神経、体脂肪率、血液型、味覚などの直接的に戦闘とは関係ないんじゃないのかと思うようなものまで全てが数値化され記されていた。つまり、この数値は今の俺そのものってわけだ。

 確かにこんな細部まで丁寧に創り込んでいたらシステムデザインがおざなりになるのも仕方ないかと思えてしまう。これが天才のこだわりなのだろうか。

 どうせ今は初期数値だし、特に見るところもないか……。いや、それ以前にこんなのいちいち見てたら事だな……。

 ステイタスはそれくらいにしておいて、次に青の○を押すと、左に簡略的な人間のピクトグラム。右にいくつかの名前が記されていた。上から、


【男物の隠密行動用タイトレザーアーマー上】

【男物の隠密行動用タイトレザーアーマー下】

【異界のからくり銃剣】


 なるほど。これが今装備している物の名前か。大体予想通りって感じだな。

 それまで淡々と確認してきたが、装備の名前をタッチして浮かび上がった説明に一瞬戸惑うものの、すぐに納得する。


【この装備はプレイヤーのステイタスがレベル20になるように補正する】


 つまり、俺はまだここに来てから何もしてないにも関わらず、レベル20並みの戦闘力を保持しているということになる。

「なるほどな。これが説明で言っていたおまけってやつか」

「どういうこと?」

「この衣装を装備している間はステイタスが補正されてるんだよ。つまり、初心者ブーストって感じかな」

 確かにこれは助かる。

 何故なら、この世界では一切の蘇生手段が存在しない。つまりは現実と全く同じ条件下での報酬をかけたサバイバル合戦ってことだ。

 そんな状況にも関わらず、ずぶの素人が初期装備だと下手をすると被験が始まって数時間で何百、何千人が失格なんてことにもなりかねない。それは運営側としても避けたいのだろう。

 俺は右腰に吊るされた六十センチ強の仰々しい剣を手に取ってみる。

 持った感触は意外に悪くない。重すぎず軽すぎず、長すぎず短すぎない。恐らくかなりの補正が掛かっているのだろう。でなければこんな剣、貧弱な俺が持つことすらかなわないはずだ。

「確かにステイタス(?)が補正されてるのは分かったけど、銃剣って銃なの? それとも剣なの?」

 無知なるお約束的な質問に俺は苦笑しながら答える。

「多分どっちもだよ」

 俺はそう言いながら手にしていた剣の形をしたそれを勢いよく振った。念じながら。

 すると次の瞬間、硬質な稼働音を響かせながら剣だったそれは、数秒のうちに銃に形状(フォーム)変化(チェンジ)してみせたのだ。つまりこの武器は剣であり銃である、可変式なのだ。

 可変式にしたのは近距離肉弾戦型と後方支援型の二パターンの戦闘スタイルを用意することで、苦手な戦法を強要しないという配慮なのだろうが。こんな中世チックな村でサイバー感全開な銃って、実装されたら議論されるだろうな。

「わぁお……。からくりって見た目だけのことじゃなかったんだね」

「みたいだな」

 半信半疑だったとはいえ、ここで何も起こらなかった赤っ恥だ。ボタンやマイクなどがないため変形の鍵が念じる事だという憶測は的中だったようだ。

 変形した銃を軽く触って再び剣に戻し、元々あった腰に吊るす。

 すると、周りでたむろしていた者たちがおのおのに散り始めた。

「あれっ、みんなどうしたんだろう?」

「そりゃ決まってるだろ、始まったんだよ。冒険が」

 それは冒険の始まりを示すものだった。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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