第8話 「偽りの対価」
ドラゴン騒ぎから1週間ほどがたった。
ドラゴンスレイヤーの名声を得た俺はというと・・・・
相変わらずソロプレイヤー街道まっしぐらだ。最近はソリストなんて言葉も流行っているらしい。個人主義にやさしい世界だ。
ドラゴン討伐直後はまるで英雄扱いだった。ギルドからは特別報酬が出たし、生まれて初めて表彰なんてものも受けた。自分の周りに人だかりが出来るだなんて元の世界では考えたこともなかった。初めてのモテ期と言ってもいい。
そんな流行の男へと華麗に変身した俺がなぜいまだにパーティーを組んでいないかというと・・・
冒険者カードの仕組みに問題があった。このカードには倒したモンスターとその数を自動で記録するという便利な機能があるのだが、こいつが厄介だ。皆様お気づきだろうが、俺はドラゴンを倒した男として名を挙げた。つまりカードにはドラゴン(正式名称はわからん)が記載されていなければならない。しかし!!
あるべき名前がそこにはない。俺のカードに記載があるのはゴブリン×1・・・・
パーティーを組む場合、相手に身分証明として自分のカードを見せるのが一般的なのだが、俺はカードを見せることが出来ない。もちろん、必ずカードの提示が求められるわけではないのだが、俺の場合は別だ。ドラゴンスレイヤーの冒険者カードなんて誰だってみたい。俺だって立場が逆なら見せて見せてとせがんだだろう。
ともあれ、無事偽りの称号の対価を実感しつつ今日もごみを焼いている。
「まあ、街の人が声かけてくれるようになったのはよかったよな。」
あと、特別報酬のおかげで懐は潤ってるし。この特別報酬に関しては初めは断っていたのだが、表彰の後宿に帰ると部屋の中に置いてあった。さすがに突っぱねるわけにもいかずとりあえず財布にしまった。
今日の分の仕事(ごみを焼いているだけ)も終わりに差し迫ったころ、不意に声を掛けられた。
「あなたが噂のドラゴンスレイヤー?」
俺の輝かしい称号を口にするのは誰かと思い振り返ると――
一瞬で目を奪われた・・・この世のものとは思えない白い美貌の少女が微笑んでいた。
少女は噂のドラゴンスレイヤーを見に来たのだという。なんでもドラゴンを討伐したという情報はこの街だけに留まらず今や国中に広まっているのだそうだ。噂の内容は凄腕の魔法使いや異国の賢者などが主流となって広まっているらしい。
・・・剣士ですけどね。
一通り噂の内容を聞き終えふと俺は自己紹介をしていないことに気づき口を開くと。
「自己紹介が遅れたわね。私の名前はブラン。職業は賢者よ。」
いたずらっぽく笑いながら先手を取った。
「・・・俺はヤマダ・サトル。職業は剣士だ。」
俺は動揺を隠すようにテンプレ通りの自己紹介を口にした。
「そう、よろしくねサトル!へえー剣士なんだ・・・?」
終わりに連れて声のトーンを落としていき。
「剣士!?魔法使いじゃないの!?剣なんて持ってないでしょ!?」
声を張り上げこちらに詰め寄ってきた。トーンを落としたり上げたり忙しい子だな。
「まごうことなき剣士です。剣はそろそろお金が貯まったから買おうと思ってる。」
「剣士のくせに剣を持ってないってどういうこと!?その黒い炎はなに!?」
「まだ駆け出しの身なので。こいつは魔法じゃないんだ。説明が難しいけど特殊なスキルだと思ってくれればいい。」
そう説明するとブランは
「なるほど、そういうことか。」
少し考え込むようにした後、妙に物わかり良く納得した。
「それじゃあ本題に入りましょう!」
「本題?」
「そう。私があなたに会いに来た本当の目的。」
妙に思わせぶりにそんなことを口にした。
「本当の目的?噂のドラゴンスレイヤーの仕事ぶりを見に来たんじゃないの?」
思い当たる節のない俺は軽口で相手の出方を伺うと。
「そんなに構えなくても手荒いことはしないわよ。」
くすくすと笑いながら一歩近づき。
「私とパーティーを組みませんか?」
そういって俺に手を差し出してきた。反射的に手を取ろうとしてすんでのところで思いとどまった。落ち着け!落ち着け俺!!この1週間何度もパーティーには誘われた。だけど皆最終的に断られた。その理由を思い出せ!
「悪いんだけど」
そこまで口にして続きは遮られた。
「別に冒険者カードを見せろとは言わないわよ?」
見透かしたように俺の言葉を切り捨て、微笑みながら手を差し出してきた。まるで俺にはその手を取らない選択肢はないのだとそう言うように・・・
「なんで」
少女は最後まで言わせてくれない。
「別に私はドラゴンスレイヤーを仲間にしたいんじゃないの。あなたの仲間になりたいと思ったから誘っているのよ。」
涙がこぼれた。思えばヤマダサトルという個人をパーティーに誘ってくれた人間はいただろうか?初めてパーティーに誘ってくれたセイヤはあくまで転生者として同郷の好として誘われたのだろう。次に誘われたのはドラゴン討伐後だ。この時に声を掛けてきたのは皆ドラゴンスレイヤーを欲しがっていた。だから冒険者カードを見せられないと言うと皆不振がって離れていった。
初めて会ったこの少女は自分のなにを評価してくれたのだろう。今までこの少女とあったことは無い。この少女は街の外から来たと言っているのだ、当然接点などない。
「あなたとパーティーを組んだら楽しそうだから。」
俺はそんなにもわかりやすいのだろうか。察しの良すぎる少女に苦笑していると。
「男がくよくよ泣かない!」
そういって差し出していた手で俺の涙をぬぐい。
「それで?どうするの?」
そう言って優しく笑っていた。
「俺は駆け出しで、下級職で、剣士のくせに剣を使えない。でもそんな俺でよかったら。」
そういって手を差し出すと。
「まったく、断られたかと思ったじゃない。」
優しく差し出した手を取ってくれた。
――そのころの女神様――
「あらあら、ずいぶんあの子に気に入られたみたいですね。初めはどうなることかと思いましたがあの子と一緒なら大丈夫でしょう。」
心の底から嬉しそうに笑っていた。