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第7話 「ドラゴンスレイヤーの称号」

 「燃え尽きろ!!」

 目の前には黒炎が広がっていた。純白を覆う漆黒。この世の理を焼き尽くす絶対の力。

 それが、いまだかつて見たことのない大きさで視界を黒く塗り替えていた。。


 「洞窟の中に入ったものは別?」

 ドラゴンからの死刑宣告を受けた俺はそれを否定するべく言葉を紡いでいた。

 (私には守るものがある。守るために必要ならその選択肢もあるということだ。)

 直接的な言葉は口にせず、しかし強い声が響いた。穏やかな雰囲気が崩れ、二度目の死を覚悟していた俺の耳に。

 「ぴよっ!」

 雰囲気をぶち壊す鳴き声が響いた。

 「・・・・・」

 (・・・・・)

 俺とドラゴンは互いに気まずい雰囲気を脱すべく音の出どころを見た。

 エアブレイカーは頭に乗った白い冠を頭を振って落とすと、とことここちらへ歩いてきた。

 ひよこだ。燃えるような赤い羽根を揺らしたひよこが迫ってきていた。

 (・・・この子はフェニックスだ、今生まれたばかりだがな。)

 俺の頭に図々しくも乗っかっている羽毛を見て、そう告げた。

 (フェニックスは人間にとって貴重な薬になる。仮に捕まれば永遠に利用され続けるだろう。成鳥の状態なら自己責任だが、生まれて間もないこの子がそうなるのはあまりに不憫だ。)

 人の頭の上で丸くなっているこのひよこはフェニックスらしい。俺には赤いひよこにしか見えないが・・・・・

 「こいつを守っていたのか?」

 (偶然この洞窟で見つけたのだ。神獣の気配がするから探してみたら卵があったのでな。保護して持ち帰ろうとした矢先に人間に見つかってしまった。)

 本来は発見した人間を追い返した後すぐに卵を持って帰ろうとしていたらしいのだが、孵化が迫り卵を動かせなくなってしまったのだそうだ。

 簡単ないきさつを聞いた俺は

 「だったらもうこの洞窟にいる必要はないってことだよな?すぐにそのひよこを連れて帰ってくれよ。」

 (そうしたいが、外の人間が厄介だ。私が洞窟の外に出ればまた攻撃を仕掛けてくるだろう。外の連中の技量では私に傷一つつけることは出来ないだろうが。近づいてきた奴らを振り払うのに直接爪や尾が当たってしまえば殺してしまう。)

 完全に攻撃する意思はないことを表明してくれたドラゴンだが、その危惧はもっともなことだ。しかし俺が洞窟内に入って短くない時間がたっている。回復した奴らがいつ侵入してくるとも限らない。だから。

 「お前はちょっとやそっとの事じゃダメージは与えられないんだよな?」

 (人間の攻撃などいくらくらってもダメージにはならん、特別な加護をもったものは別だがな。)

 そういって俺の右手を見て。

 (貴様の右手に宿っている力なら私を殺すことが出来る。)

 そんなとんでもないことを口にした。

 (それはこの世界のものではないだろう?およそ人間の扱える力ではないな。)

 「そんなにすごい力なのか?」

 (その力は神の力だ。この世界にはそれに対抗できるものは無い。魔王だろうがドラゴンだろうが、はたまた不死の存在すら焼き尽くす。そういった力だ。)

 「詳しいんだな。」

 (ドラゴンの叡智をなめるな。人間とはレベルが違う。)

 言われてみれば、知能が高くて人間よりも寿命がはるかに長い伝説の生物は人間とは比べるべくもないほどの知識を宿しているのだろう。

 「話を戻すけど、お前は普通のことじゃダメージを受けない。ならその子はどうなんだ?フェニックスっていうんだから不死、つまり死なないのか?」

 (いや、この子は完全な不死をまだ得てはいない。成鳥することで不死を獲得するのだ。)

 くそっ!予想がはずれた!作戦を考え直すか?

 (なにをする気かは知らないが、私が守っていればこの子にダメージがいくことは無い。)

 「??」

 俺の疑問に答えるように。

 (私は魔法が使える。この子に魔法で作ったバリアをはる、そのうえで私が庇ってやればおよそどんな攻撃でも防ぐことは出来るだろう。)

 俺はその言葉に口の端を歪め。

 「だったら、俺に考えがある。」

 値踏みするかのようなその視線に耐え、続けた。

 「乗るか?」


 ――洞窟の外――

 「おい、一人で突っ込んでいったやつが戻ってこないぞ!」

 「あいつゴブリンにやられたやつだろ?!」

 「なんであんな馬鹿なまねをっ!!」

 サトルが洞窟に入った後しばらくして討伐隊の面々は落ち着きを取り戻していた。

 「俺たちも行くかっ!?」

 「あんな坊主一人で行かせられねえだろ!」

 洞窟に侵入しようとする者まで現れ始めていた。

 そして数人が侵入を試みようとした直後――

 洞窟の入り口に黒いもやが現れた。洞の入り口を塞ぐように現れたそれは・・・『黒い炎』だった。黒いカーテンの向こうには純白のドラゴンが見える。まるで苦しんでいるかのように暴れ咆哮を上げている。

 状況を理解できないでいると。

 「離れろ―っ!!」

 黒いカーテンから声が聞こえた。いや、声の主は少年だ。ゴブリンに重傷を負わされた少年が右手に黒炎を携え叫んでいた。

 「崩れるぞーっ!!」

 続く言葉の意味を討伐隊の皆が同時に理解した。そして――

 「うわあぁぁぁ!!!」

 洞窟の周辺にいた人間は叫びを上げ走り出した。巻き込まれないように。

 少年の言葉の意味したもの、それは洞窟の崩壊だった。

 入り口を中心に、焼かれた岩は支えを失い落ちていった。

 「あぶねえ・・・」

 事態を巻き起こした張本人が呟いた一言をきっかけに。

 「よく無事だったな!」

 「中でなにがあった!?ドラゴンは!?」

 「あの黒いのはなんだ!?」

 口々にぶつけられる質問に少年は――

 「いきなりで悪かったな。さすがに外に説明してる時間が無くて。」

 と謝罪と前置きをし。

 「ドラゴンは崩れた洞窟の中だ。」

 「生き埋めにしたのか。しかしドラゴンはあんなダメージでは死なないだろう。」

 そう言って崩壊の後へ向かおうとしている男を引き留め。

 「あの黒いのは俺の力だ。すべてを焼き尽くす『黒い炎』だ。」

 そういって右手を掲げ笑った。

 「この炎でドラゴンを倒してとどめに洞窟の崩落に巻き込んだんだ。」

 そういってなかの出来事を説明する少年は自信ありげに口を歪めて。

 「もっともこいつはドラゴンだろうとなんだろうと例外なく焼き尽くす。洞窟を崩したのは余計だったかな。」

 その言葉に討伐隊は歓喜の声を上げ。

 「うおおおおおお!!」

 「一人でドラゴンを倒したのか!!」

 「ドラゴンスレイヤーの誕生だ!!」

 少年の功績を称えた。


 一通りの説明を終えると少年は。

 「すぐにでもドラゴンの死体を確認したいだろうけどさ、あの炎に巻き来れると危ないからまた出直そうぜ。どうせ死体は燃え尽きて残ってないんだしな。」

 そう言って討伐隊と伴に街へ帰って行った。


――洞窟内――

 洞窟が崩落する少し前の時間に遡る。


 「俺がこの洞窟を崩して外に出てドラゴンは倒したといって討伐隊に説明する。」

 (しかし、連中も馬鹿ばかりではない。洞窟の崩落に巻き込まれたところでドラゴンにダメージが無い事などわかるのではないか?)

 「そうだな。その通りだよ。普通ならな。」

 俺は右手から炎を呼び出し、にやりと口を歪めた。

 それだけでドラゴンは俺の言おうとしていることが分かったのだろう。

 短く息を吐いて。

 「確かにそれなら外の連中も納得するだろう。しかし良いのか?」

 「なにがだ?確かに外の人たちには嘘をつくことになるのは心苦しいけど。」

 (違う。ここで私を倒さなくていいのかと聞いている。貴様の炎ならば私を倒せるうえに私を倒せば莫大な経験値が手に入るぞ。)

 「ああ、そういうことか。」

 「今なら子供とはいえフェニックスもついてくるぞ」

 たしかにこんなおいしい状況はないな。これがゲームなら一も二もなく飛びつくところだ。でも――

 「こんなになついてくれたひよこを経験値の為に手にかけられるほど大人じゃないよ。あんたにしたって体をはってこいつを守ってたんだ。そんな相手を俺は倒せない。」

 (甘い男だな。)

 「甘党なんでね。」

 軽口を交換し、いざ作戦を実行しようと気合をいれると。

 (感謝する。いずれこの借りは返させてもらおう。)

 「期待しないで待ってるよ。」

 さてやりますか!


 右手から『黒い炎』を呼び出し洞窟内を黒く染めていく。

 (また会おう。)

 その声に振り向くと、金色の瞳がこちらを見ていた。右手を上げ視線に答えると外まで一気に駆け抜ける。

 後ろでサービスのつもりか下手糞なアドリブが見えた。案外、愉快なやつなのかもな。また会うことがあれば大根役者ぶりを指摘してやろう。

 妙な親近感を感じさせるドラゴンに苦笑し、手筈通り作戦を決行する。

 中の住人の無事を願って――




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