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第6話 「違和感の正体」

 なにかがおかしい・・・・

 考えろ、考えろ!!

 なんだ?なにが気になっている?


 超常の存在、ドラゴンとの戦闘はおよそ戦闘とはよべない一方的なものだった。

 巨大な爪が振り下ろされれば大地を抉り、尾の一振りは木々をなぎ倒し森を平地に変える。甘かった!近づくことができれば倒せるなんて考えて浮かれていた自分を殴り倒してやりたい。

 討伐?戦闘?バカか!?誰一人近づくことも出来ないじゃないか!!爪も尾も直接当たることすらなく蹂躙されている。振り落とされる爪に振るわれる尾に、それらが起こす衝撃は触れる事すら許さない。


 討伐隊の面々の悲鳴が木霊する。既に半数は動くことすら出来ずに倒れている。

 まだ立っている面々も自棄になり叫び声を上げ突撃するもの、武器を落とし呆然と立ち尽くすものに分かれていた。

 たった一人を除いて・・・


 純白の美しさに呑まれていた男は正気に戻ったところで違和感の原因に頭を働かせていた。状況は最悪、誰一人ドラゴンに一太刀浴びせる事すら許されない。

 だが・・・・

 なぜドラゴンは直接攻撃しない?

 あいつは最初に発見した位置から一歩たりとも動いていない。一歩踏み出しその爪で引き裂けばものの数秒で全滅させられるだろうに・・・・

 動けない理由があるのか?見たところ怪我をしているようには見えない。ならば洞窟のなかになにかがある・・・?なにかを守っている?

 周囲を確認する。散々蹂躙され、皆大なり小なり傷を負っている――

 そう、傷を負っているだけだ。誰一人死んではいない。

 「殺す気が無く、洞窟に近づけたくないだけ・・・?」

 ぽつりとそうこぼすと、違和感は確信に変わった。

 「だけど」

 ドラゴンは敵意は無いから引き上げようなどと言っても誰一人耳を貸すものはいないだろう。それは俺の言葉が信用できないなんて甘いことではなく。

 「こんなパニック状態じゃ・・・」

 俺が思考の海を漂っている間に討伐隊の面々は戦う意思を投げ出したものしかいなくなっていた。悲鳴を上げる事しかできないもの、泣きながら祈りを捧げいるもの、周囲の人間に怒鳴り散らすもの。

 地獄絵図だ。

 動けるものは俺しかいない。大丈夫。俺の考えが正しければあいつは俺を殺さない。

 あとは踏み込むだけだ。

 「っ!!」

 空気を肺に送り込み一息に駆ける。

 「小細工はなしだ!」

 白い爪が大地を割るのが見えた。構わない、死なない攻撃だと思えば歯を食いしばるだけでいい。足だけは止めるな!!走れ!走れ!!走れっ!!!

 大地を割る衝撃を耐え、顔を上げると。

 「!!」

 初めて感情がみえたな。今の一撃で他の冒険者のように吹き飛ばされ心が折れると思っていたのだろう。明らかな動揺が金色の瞳に宿っていた。

 だがそれも一瞬、感情を消した瞳は尾を振り上げていた。巨大な尾が俺に当たると誰もが思っただろう。盾も鎧もつけずにこの一撃は防げない。

 次の瞬間、肉のひしゃげる音が響・・・・・かなかった。

 尾はピタリと動きを止めていた。

 「お前は俺たちを殺す気はないんだろ?」

 伝わると思って出た言葉ではない、反応に期待していたのでもない。

 しかし答えはあった。

 (気づいていたのか?)

 それは確信めいたようで、それでいて驚きも内包したような響き。それは洞窟の中に転がり込んだ俺にだけ聞こえた。

 いいや、聞こえたのではない。頭の中に響いたというべきか。それは確かに声だった。空気を震わせなかっただけで。

 (驚かせてしまったな。すまない。この『声』は貴様の頭の中に直接流し込んでいる。)

 「話せるのか!?」

 テレパシーのようなものか、頭に響く音は意味のある響きを俺に与えていた。

 そして言葉が通じると思っていなかった俺は反射的に疑問を口にし。

 (竜は高い知能を持っている。人間の言葉は理解できるし、このように会話もできる。実践するものは少ないが。)

 そんな言葉に驚愕していたが、すぐに切り替え。

 「お前は俺たちに危害を加える気はない。お前はただこの洞窟に人を近づけたくないだけ。そうだな?」

 単刀直入に伝える。望んだ答えが得られるのを願いながら。

 (その通りだが、驚いたな。私を相手に普通に会話が出来るなんて。)

 ドラゴンの言葉にひとまず安どしていると。

 (しかし)

 短く区切り。

 (この中に入ってしまった者は別だ。)

 希望が絶望に塗り替えられ、足元が崩れていくのを感じていた。


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