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第4話 「天職」

 ゴブリン討伐の翌日、朝日で目が覚めた俺は、さっそくギルドへ向かい、パーティー募集の張り紙を確認した。しかし始まりの街のくせに採用条件が厳しい!!

 下級職お断りだの、レベル10以下お断りだの、ふざけてるのか!駆け出しの街じゃないのかよ!!

 どこのパーティーの採用条件も突破できず、途方に暮れていると。

 「やあ、サトル!」

 朝から爽やかなイケメンが挨拶をしてきた。

 「お、おう」

 イケメンオーラにあてられ、それ以上言葉が紡げない俺。

 「パーティー募集の掲示板を見ていたのかい?よかったら俺のパーティーに入らないか?まだ俺含めて3人しかいないんだ。」

 セイヤのパーティはリーダーに剣聖のセイヤ、下級職だが高レベルの戦士職の女の子が一人、同じく下級職でレベルは低いが珍しい魔法使い職の女の子が一人の前衛二人、後衛一人の布陣らしい。 

 この世界ではモンスターの討伐をメインに行うパーティーは4~6人で組むのが定石らしい。セイヤとしては悪意なく好意で誘ってくれているのは分かるし、張り紙のパーティーに入れない俺としては渡りに船の誘いだが・・・・・

 だが断る!!絶対にノウッ!!なんか負けた気がするから絶対にこいつのパーティーには入らない。絶対に、絶対にだ!!

 「せっかくなんだけど悪いな他に誘われててさ」

 薄っぺらい湯葉のような見栄をはり、断る。

 「そうか、残念だ・・・・・」

 本気で残念そうにされると心が揺らぐ!!だがっ

 「せっかく異世界にきたんだ、この世界の人とパーティーを組んでみたいんだよ」

 そうそれは紛れもない本音だった。せっかく人生をやり直す機会を与えられたのだから前の世界ではできなかったことをやってみたい。

 「そうだね。無粋なことをしてすまない。」

 そう言って爽やかに去って行った。


 セイヤが去って数時間、気づいたことがある。

 周囲の目が冷たい!!いや、それは正確ではない。正確には憐みの目で見られている。

 なぜだ?剣士なのに剣を持っていないからか?レベルが低くパーティーに入れないからか?

 そんなことを考えていた時にふと声を掛けられ。

 「あの、サトルさん。」

 「はい。どうしました?」

 まるで見ていられないとでも言いたげな顔で名前を呼ばれた。ついてきてほしいというので素直についていくと


 「ギルドの食事っておいしいんですね。」

 食堂に連れてこられ、のんきにそんなことを口にしていると。

 「サトルさん!」

 意を決したかのような声と表情に気圧されながらも、なにを言うつもりなのかと考えていた俺は気づいた。気づいてしまった!!異世界生活2日目にして恋の予感!!冒険者とギルド職員の恋。ありなんじゃないかな、あるんじゃないかな!!

 自分の世界にトリップしかかっていた俺は、次の言葉に現実に引き戻された。

 「この街でパーティーを組むのは難しいかもしれません。」

 「・・・はい?」

 

 お姉さんの話によると、昨日のゴブリン討伐クエストで俺が運び込まれた後ちょっとしたパニックになったそうだ。治癒魔法を使えるものは限られているのでギルド内にはおらず街中を探し回りようやく見つけたのがセイヤのパーティーの魔法使いだそうだ。セイヤのパーティーにはそこで加入し、俺の怪我を治療してくれたと。

 そして大事なのはここからで、昨日の痴態は街中に知れ渡りゴブリンすら倒せない男として名前を挙げてしまったのだそうだ。ゴブリンというのは駆け出しでも装備さえ整えていれば2~3体程度は危なげなく倒せるモンスターのため、ゴブリン1体に苦戦する奴はお呼びじゃないとのことだ。

 そう考えると朝確認したパーティー募集の張り紙にも得心がいく。昨日の今日で一人ではモンスター討伐は無理だと考えるであろう俺が仲間を探しに来ることは容易に想像できる。しかしお荷物などお呼びでない連中は募集の張り紙を撤去した。結果、残ったものは高レベル冒険者の募集の張り紙だけと・・・


 親切にも貧乏くじを引いてくれたお姉さんにお礼をし(ご飯は奢ってくれた)。

 俺は頭を抱えていた。マズイっ!本当にマズイっ!!

 このままでは魔王討伐どころか仲間の一人も出来ずのたれ死んでしまう。レベル上げの為にモンスターを討伐しようにも、この周辺ではゴブリンが一番弱いらしい。

 かといって装備を整えようにも、昨日の報酬は宿代に消えた。

 このままでは宿代すら払えない・・・・

 途方に暮れた俺はなにかしら仕事がないかとギルドへ向かった。

 視線が痛いっ!極力誰とも目を合わさないようにうつむいて受付へ向かう。

 「お姉さん、たびたびすみません。なにか討伐以外のクエストはありませんか?」

 藁にもすがる思いで尋ねると

 「討伐以外ですと、ダンジョンの調査や薬草の採集などがありますが・・・」

 言いづらそうにしているが言いたいことは伝わってくる。ダンジョンの調査は剣士職が行っても盗賊職の護衛しかできないし、採集クエストはそもそも見分けがつかないうえに結局モンスターに襲われる危険がある。また死ぬ思いをしてゴブリンを狩るかと諦めていたところ

 「あまり報酬はよくありませんが、危険のないお仕事があります。」


 お姉さんが紹介してくれた仕事。

 それは、ごみ処理の仕事。この世界では基本的にごみは燃やすのだそうだ。異世界的には珍しくこの世界では紙は貴重なものではないそうだ。ギルドでは毎日大量に書類の廃棄をするがごみの処理スピードが追いつかないのだそうだ。

 それもそのはずで、シュレッダーなど当然ないから書類は燃やすしかない、しかし火をつけるには火打ち石でちまちまやらねばならず、火を簡単に起こせる魔法使いは駆け出しの街にはいない。結果、需要に供給が追い付かない。いいや供給過多になっているのだ。

 「こんなの冒険者の仕事じゃない・・・」

 半ばやけになってこの仕事受けたが、いったい俺はなにをしているのだろう・・・・

 まあ俺の場合転生特典があるから仕事は楽なんだけど・・・・・


 転生から1週間がたった。

 俺のレベルは2になっていた。もちろん討伐になど行っていない。また半殺しにされるし。

 この1週間ひたすらごみを焼き尽くしていた。女神から与えられた力は魔王ではなくごみに向けられていた・・・・

 さて、レベルの話だが、どうやら魔法やスキルなどの能力は使うだけでも経験値が得られるようで無事1つレベルをあげた。

 ゴブリンとごみを糧に成長する勇者なんてきいたことねえよ・・・・

 俺は涙を流しながら今日もごみを焼き尽くす。この右手に宿る『黒い炎』で!!


 ――そのころの女神様――

 「同じ日に転生したのに大分差がついてしまいましたね。やはりあれを選んだ時に止めておくべきだったのでしょうか・・・・」

 サトルが頭を抱えているとき女神様も同じく頭を抱えていた。

 「神の力でごみ焼却のバイトだなんて・・・もちろん行いはすばらしいのですが・・・・」

 今日も女神様の悩みは消えない。


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