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桃の証明書

作者:神崎 創
 昨年だったかその前だったか、いつだったか記憶がちょっと曖昧である。
 職場の隣にあるテナントのおば(あ)さんから、桃をいただいた。
 大きくて瑞々しい桃だった。
 おば(あ)さんいわく、福島の知人から送ってもらったのだが食べきれないのでおすそ分け、とのこと。
 なるほど、福島産か。
 職場に戻ろうとすると、おば(あ)さんに呼び止められた。
 桃を入れたビニール袋の中に、紙切れが入っている。
 放射能の問題があるので、その検査を済ませた証明とのことだった。

「そうなんですか。わかりました」

 帰宅して、私はその桃を食べた。
 現在住んでいる地域ではあまり桃が手に入らないこともあって、美味いと思って食った記憶がある。
 食い終わってから、ふと思い出して放射能検査証明だとかいう紙切れを開いてみた。
 なんか、理系のレポートのような、私にはよくわからない数字がなんじゃかんじゃと記されていた。
 私は熟読することなく、その紙を捨てた。
 興味がないというか、そこまでしなくてもいいと思った。
 福島県産の桃だからといって、放射能がどうとか、私はまったく意に介していなかった。
 だから、証明書なんぞ目を通すことなく桃を食ったのである。
 というか――わざわざこういうものをつけておかなければ福島産の物を忌避する人がいる、ということなのだろうか。
 何となく、悲しい気持ちになった覚えがある。

 偶然ながら、震災当時相馬に住んでいたという方から直接体験をうかがったことがある。
 あの震災の影響(物流という間接的なことをのぞけば)をほぼ受けることのなかった地域に住んでいる私にとって、それはテレビやネットを通して知った事柄よりも、はるかに生々しく感じた。
 地震や津波ばかりでなく原発によって重大な苦労を蒙った方々がいるという事実は確かで、そのことを否定したり斜めに受け止めてはいけないように思う。自分がされたら悲しく思うことを、他の人にやってはいけない。
 他人はともあれ、私はせめて態度として、福島とそこにいらっしゃる方々に対して真摯であろうと思い続けてきた。
 だから、私には桃に証明書なんか不要だった。
 福島の桃です。
 ただそれだけしか伝えられなかったとしても、私は躊躇なくその桃を食ったであろう。
 あの震災に対して私は大したことはできなかったけれども、今もなおこういう気持ちを持ち続けている人間が、少なくとも一人、ここにいる。
 福島にいらっしゃるどなたかの一人にでも伝われば、幸いだと思っている。 
勝手ながら、感想は拝辞します。

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