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襲撃

――――――



始まりの時を告げるかのように蝙蝠の群れが木々から飛び立った。

同時に、そこかしこで『身体強化』の魔法を唱える呟きがボクの耳に飛び込んでくる。


「ゴードン君。相手はどうやら正面からボクらを叩きつぶすつもりのようだ。早く仲間を起こしてくるといい」


ボクは立ち上がり首を回して準備運動を始める。


ザザザと不自然に連続して聞こえる草のこすれる音の方に目を凝らすと、闇に紛れ尋常ではない速度で近寄ってくる男たちが見える。

彼らは一様に剣を握っていて、話し合いに来たようには見えない。


「ん?」


風切り音と共にたき火の薪がはじけ飛び、小隊の見張り場は闇に包まれた。

薪を吹き飛ばしてなお地面をえぐった物体に目をやると、木の矢が一本刺さっている。

強化された肉体で打ち出された矢は砲弾と見まごう威力だ。


「灯りを狙ったのか、ボクを狙って外してしまったのか。判断が難しい、ね!」


視界が急に悪くなり、狙いがぶれた襲撃者の剣先を避けながら、襲撃者の首に短刀を差し込む。

ボクには灯りなんて必要ない。夜の生き物たる魔物の眼をもってすれば今は昼間と変わりない。死んだことに気付かなかった襲撃者の髭の本数だって見て取れる。


――――覚悟していたよりずっと襲撃者たちのレベルが低い。実力者なら魔力で強化していないナイフなんか突き刺したらナイフの方が折れてしまう。これは行幸だ。


「さてさて……なんか楽しくなってきたね」


短刀についた血がもったいないのでチロチロ舐めながら、再び飛んできた矢を素手で叩き落とす。手に痛みが走ったけれど、しょせんその程度。魔力で強化したところで木の矢じゃこんなものか。



魔法使いが出てくるまでは近づいてくる襲撃者を倒しておこう

死んだ襲撃者を、てきとうな集団に投げつけながら魔法使いの登場を待つ。

ただ、この程度の盗賊団なら魔法使いだって大した力は持っていないだろうけど……。



そうして謎の少女の乱入により不運な盗賊団は壊滅したのであった。



――――――



「とまあ、そんなわけで大活躍したのが謎の美少女冒険者のボクってわけさ。どうだい?」


襲撃者を壊滅させた後、暇を持て余していたら護衛対象が話を聞かせてほしいと頼み込んできたので臨場感たっぷりに今夜の話をしてあげた。


ゴードンたちの護衛対象は老紳士と少女だった。

彼らは商売でタルミアの街に向かっている途中だったらしい。

かなり大きな取引らしく、商売敵が襲撃をかけてくることは予想されていたようだけど、まさか襲撃者が二十人を超えるとは思っていなかったようだ。中でも、魔法使いがいたことを話したときは老紳士は肩を震わせながら事態の重さに慄いていた。


まあ、魔法使いなんて出てきたら普通そんな反応になるよね。


人間は多かれ少なかれ魔力をもっている。その魔力を消費しながら自身の体を強化したりするわけだけど、魔法使いと呼ばれる一部の人間はその魔力が桁違いに多いのだ。

訓練をほとんどしていない魔法使いでも、熟練冒険者ぐらいの力はあるし……熟練した魔法使いは一人で街を潰すことだってできる。


いやー、あれは悪夢だった……。どこにいるかわからないボク一人を倒すために街に火の石を落としてきたんだから……。

あのとき辺りは地獄とみまごうばかりの混沌となった。泣き叫ぶ子ども、子どもを探す親。いつも夕方安くお肉を売ってくれる顔見知りの肉屋の家は火に包まれていたし、香り良く美しい花を咲かせる花屋の主人も燃えていた。


当時を思い出すと今でも背筋が震えてしまう。

魔法使いは破壊に関しては右に出る者なしの化け物だ。

初級魔法使いだったけれど、そんな魔法使いが一人居ただけでも事態の重さは子どもだってわかる。


「ゴードンさん。その、彼女の言っていることは事実なのでしょうか」


紳士が嘘であってほしいという願いを込めて、ゴードンに確認を取る。


「多少誇張されちゃいますが、おおむね事実です。火魔法使いの存在は我々も確認しました」


夜に大きな灯りが灯ったものだから居場所バレバレで間抜けな魔法使いだった。

火力は十分にあった……んだろうけどボクに狙いをつける前に終わってしまった。


「そう……ですか」


紳士は眉を抑えて深いため息を吐く。

何か言おうと何度か口元を動かしたけれど、彼は結局何も言わなかった。

簡易なテントに当たる風の音だけが場を支配する。


「おじい様、これは好機なのではないでしょうか」


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