冒険者と一緒に
「――ボクらはこれで共闘する理由がなくなったわけだけど、君たちに戦闘の意思はあるかい? ボクはないんだけど」
ミノタウロスの生死を確認し、一息ついて彼らに向き直る。
彼らに敵意がないと伝えるためにスマイル多めな笑顔で話しかける。
あどげない少女のほほ笑みだ。害意のないことが伝わるどころか、何人か恋に落ちちゃっても不思議じゃない。
「……私たちも戦闘する気はないわ。だからこそ、それ以上近づかないで」
あれ? 冷たくない?
ボク美少女だよ?
「そ、そうかい。まあ、仕方ないな……」
まだ温かいミノタウロスの骸に腰を下ろす。
彼らとの距離は五メートルほど空いている。共に戦った仲としてはいささか寂しいものがあるが、ボクは得体の知れない魔物だ。
問答無用で襲われない分だけ心を許してくれているといってもいいのかもしれない。
「ボクは何もしないから、早くそこの彼を治してやるといい。治癒魔法は使えるかい? それか最低限できるだけの治療をしてここから出るといい」
女は頷き、見張りを別の男と代わると斧を持った男へと治療魔法を施していく。
氷魔法に補助魔法を操る女、か。攻撃魔法を使えるだけでも優秀なのに、別系統の回復魔法も使えるなんて、かなり優秀な人間だ。男たちもパーティーを組むような対等な立場とすると、彼らは相当優秀な冒険者じゃなかろうか。
「なあ君。君たちは何しにここへ来たんだ?」
見張りを交代した男に尋ねてみる。
「……」
「だんまりは嫌だ。ボクらは友だちじゃないか。迷宮の奥深く、共に魔物を打ち倒した仲間だ。そうだ、サラちゃんと気軽に呼んでくれて構わないよ?」
ウインク一つ飛ばすと、男はほかの二人と視線を合わせてから話し出す。
「俺たちは冒険者だ。俺のランクはD。チームを組んだらランクCだ。サラ、ランクはわかるか?」
「全然わからないね。とはいえ、ミノタウロスを相手にできるかどうか辺りの強さがランクCぐらいとはわかるよ?」
「パーティーランクCっていえば、街でそこそこ名の知れてる冒険者パーティーなんだ。トップには遠いがな。と、まあそんな俺たちだが、ここには宝探しに来たんだ」
「宝探し?」
なんとも甘美な響きじゃないか。
莫大な金銭、魔力のこもった道具、人知を超えた武具。金銭に執着はないけれど。魔道具ならボクも見てみたい。
「ああ、なんでも見るもの全てを虜にするほどの逸品だって話だ。詳しくは一切わからん」
身を乗り出したボクに気をよくして、男の舌も軽くなる。
「それは凄い……ボクも見てみたいな」
「ただ……もうこれ以上は無理だわな。タロスのやつが負傷しちまったし、ミーナの魔力も枯渇寸前だ。ま、命あるうちに引き上げだ」
とんだ無駄足だったと苦笑いをする男。
「それがいい。必要なら入口まで共に行こう」
「ああ、それはありがたい……んだが、ここに居なくていいのか? ほら、迷宮の奥を守るとか」
「ん? 構わないさ。ここはボクの拠点ってわけじゃないしね。それより君たちが帰れず迷宮で骨になる方がボクには悲しいよ」
よよよ、と泣きまねをする。
「いや帰るだけなら大丈夫だ。それより外は危険だから出ない方がいいと俺は思うぜ!?」
「何を慌てているんだい? ボクならそこそこ強いから大丈夫—―いや、眠っている間に周りの強さが変わっている可能性もあるか……」
ボクのことを案じてくれているらしい彼の言葉には耳を傾ける必要があるか。
どうしたものだろう。
「俺はちょっと向こうで今後のことを仲間と話してくるわ」
「んー。ああ、行ってくるといい。どうしようかな……外」
彼は勢いよく立ち上がり仲間の元へ走っていった。
よほど仲間が心配なのだろう。美しい絆だ。
「おい、あいつ外に出るつもりだぞ……!」
「はぁ!? あの子封印されてたのよ? さっきの戦い見てたでしょ。どう考えてもやばい案件じゃない……」
「案外悪いやつじゃないんじゃないか? 敵意はなさそうだし」
「それでも、よ。封印を解いたのは私たちよ! 何かあったら私たちの責任になるわ。最悪討伐してこいなんてなったら……」
なにやら彼らも今後のことで揉めているらしい。
だんだん声が大きくなってきていて、部屋の外にいる魔物を呼び寄せかねない。
ここは年長者としてボクがそのあたりを教えてあげる必要があるね。
「君たち。ここで話していても建設的な意見はでてこないだろう。街へ帰って、ミノタウロス討伐の祝勝会でもしながら楽しい気持ちで話した方がいいんじゃないかな? そうだ。なんなら街まで送っていくよ。うん、それがいい。ボクも最近の情勢がわからなくて不安なんだ。さあさ治療も終わっただろう? さっさとこんなところから出よう」
腕の繋がった大男タロスの背中をバシバシと叩き、彼らを先導する。
人間もなかなかどうして頑丈だ。離れた腕だって魔術で治っちゃうんだから。
「みんな迷わずついてくるんだよ? 一人で迷ってしまったら出られないかもしれないからね」
罠などかからぬようキョロキョロ見渡すけれど、ボクは罠探しの練習なんてしたことがない。正直何もわからないけれど、やらないよりはマシだろう。
「ああ、そこに落とし穴があるから踏まないでえええええ!!」
「え? あ、あああああああぁぁぁぁぁぁぁ」
せりあがる地面――ボクが穴に落ちている—―と風を感じながら適材適所の偉大さを知るのだった。