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領主様到着

――――――――



「辺境伯様が到着されるぞ!」


先ぶれの使者の報告を受けて冒険者ギルドは騒然となった。


これを機に辺境伯の目に止まり、仕官できるかもしれない期待に、ここが戦場となるかもしれない不安に、ギルドがざわめいた。


そしてボクは、


「頭痛い……」


冒険者ギルドの丸机に突っ伏していた。

昼間に外に出たせいで体調不良になってしまっている。


ギルドの喧騒が頭に響いてボクの気分をどんどん下降させていく。


ガンガンする頭に、ついうるさいと叫びたくなる。

なんて言ったっけ、この状況。二日酔いだっけ?


ボクのほかに、同じ机を囲むのは、ギルドの主要メンバーとターニャ、アンナさん。

今日辺境伯に謁見するのはギルドメンバーとターニャで、ボクとアンナさんはターニャの見張りの役割となっている。


どうなるかは出たとこ勝負なんだけれど、主任さんが言うにはおとなしく話の通じる魔族ならタルミアの街なら受け入れてもらえる可能性は高いとのことだ。


もしターニャを討伐することになったらどうしようかな。

辺境伯はこの地の領主らしいから、命令には逆らわずにターニャを討伐しようと思っていたけど、一か月一緒に居ちゃうとどうにも愛着が湧いてしまった。


その時は一緒に別の地にでも逃げようかな、なんて考えるぐらいに一か月は長かった。

まあ、逃げるぐらいならなんとでもなるだろうと甘い見通しを持っているからだけど。


「行ってきます。アンナさんたちはここで待っていてください」


ギルド長と主任さんが辺境伯の出迎えにギルドの扉を開けていった。

受付さんはギルドに残り、歓待の料理を運ぶよう近くの冒険者や料理人に指示を出し始めた。


「ボクもうちょっとこうしてるから、リラックスして待ってたらいいよ」


ターニャが突っ伏すボクに火トカゲのコートをかけてくれる。

彼女はボクが日光に弱いのをよく理解してくれていて、気にかけてくれる。

ボクが人間ではないのも、同じ魔物同士うすうす理解しているようだ。


なんとなく魔族語で探りを入れてくるが、直球でボクに聞く勇気はまだターニャにはないみたいだ。


アンナさんには、まったくばれてないと思う。

ただの笑顔素敵な美少女としか映っていないはずだ。



「辺境伯様のあれ、軍隊じゃないか?」


「このまま戦争にでも行くのか……?」


外から様子を見て帰ってきた冒険者たちが口々に辺境伯の様子を伝えている。

大人数で来たんだね。


でも、巨人と一戦やらかすならそれくらいの方が安心だろう。

にわかに立ち込める不穏な雰囲気にターニャがしがみついてきた。

言葉がわかるようになって、不安になったのだろう。


『だいじょうぶ』


そう伝えて頭をガシガシと撫でてやると、ターニャは大きな瞳を閉じて少し口をゆるめた。





「良い。かしこまる必要はない。今回は話を聞かせてもらいに来たのだ」


ギルド長と辺境伯が話しながら冒険者ギルドに入ってきた。

あの先頭の人が辺境伯かな?


辺境伯は髪や口ひげが白髪に染まっていて老いていた。

しかし黒色の鎧が見事に映えるがっしりとした大柄の肉体は背も曲がっていない。

文官タイプではなく、武官タイプだろう。生涯現役、素直にそう思える肉体だ。



「歓待の宴の後に、顛末をお話いたします」


「あいわかった」


穏やかな物腰で辺境伯はギルド長と段取りを確認すると立食パーティーが始まった。

もちろん冒険者ギルドに全員が入れるわけではないので、タルミアからはボクらと有力冒険者らが、領主側からは辺境伯とお付きの騎士三人とその部下らが参加となった。

外ではあぶれた冒険者や辺境伯の騎士たちがギルドの周囲を囲んでいる。



ま、立食パーティーなんて名ばかりで、ボクらは最初の席から一歩も動けないんだけどね!

辺境伯のお付きの騎士や部下から敵意をビシビシと感じる……。

ターニャが巨人である報告は当然いっているわけだから、暴れないか監視の必要があるもんね。敵意むき出しで見られるぐらいならパーティーが終わるまで奥で待っていられたらよかったんだけど、ギルドや領主にとって巨人から目を放すのは防衛上好ましくないみたいで認められなかった。

うう、すごく見られてるのが落ち着かないし、頭も痛いけど……温かい肉が美味しい!

普段は食べていないような柔らかな肉は、筋がなくなるまで煮込まれ香辛料がたっぷり効いている。添え物の葉もしなびていないし奮発してる。


いつも食べられたらいいんだけどなあ……ああ、冷えた麦酒が飲めるなんて……うれしい。頭痛い。


「うん?」


口いっぱいに肉料理をほおばっていると領主と目が合った。

失礼かもしれないけど、ほっぺたいっぱいのまま頭をぺこりと下げておく。

すると辺境伯もブドウ酒の杯を持ち上げて返礼をした。


「……あの子が……姫」


「おい、聞いておるか。おいアラン」


ボクを見た領主は、一番近くの騎士さんになにか耳打ちしようとした。

けれど、騎士さんはボクをじーっと見ていて領主の話が耳に入っていない。

大丈夫かなあの騎士さん、不敬罪で処罰されたりしない?


たしか辺境伯っていうとめちゃくちゃ地位が高いんじゃなかったっけ?


伯爵だよ伯爵!


「巨人……問題ない……姫……やれるなら……」


「しかし……」


王に一番近い身分が侯爵だっけ? 

侯爵はおおむね王様の血統で、その次ぐらいが伯爵じゃなかったかな。


そんな人がわざわざこの辺境のタルミアまで軍を引き連れてくるのは、世界樹に関連する出来事は重要視されている証明だよね。

ターニャのことも穏便に済むといいなあ。



上流階級のみが話すことを許された居心地悪い立食パーティーもつつがなく進んでいくと思われたとき、


「そういえば、巨人を保護した冒険者はどなたかな?」


辺境伯がギルド長に尋ねた。

大きな声ではなかったが、誰もが辺境伯の動向に注視するこの会場では、その発言はさえぎられることなく端席でおとなしくしているボクらの下まで届いた。


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