夜の邂逅
どうか穏便に済みますように、と主任は心の中で神に祈った。
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「やっぱりだ! こんな簡単にできるなんて君は才能があるよ!」
月が頭の上にかかる頃、ボクは興奮気味に叫んでいた。
目の前には、ボクとそう背丈の変わらない裸の少女がいる。
少女は大きな瞳をキョロキョロ動かし、物珍し気に自分を眺めている。
『どう? 簡単?』
魔族の言葉で話しかけると、少女は反応を示し首を横に振る。
『せまいです。体が押しつぶされているように感じます』
少女の目は一つしかない。
なにを隠そう、彼女は先ほどまで見上げなければならなかった一つ目の巨人なのだ。
『慣れる』
簡素な魔族言語しか話せないのがもどかしい。
「しかし、思っていたより簡単だったぞ……人型の魔物がこんな簡単に人に化けられるんだったらまずくない?」
いや、たしか巨人は人に化けて、人を襲うという伝承があったよね。
その辺りが関係しているのだろうか。ボクは研究者気質じゃないからよくわからない。
魔物を人間社会に受け入れやすくするには、見た目を変えてしまうのが一番だ。
ボクなんて見た目が普通に人間だから、違和感なく人間社会に入りこめている。
巨人を人間社会に受け入れろ、といきなり言っても難しいかもしれない。けれど、見た目が人間サイズであれば反発は少し軽減できるだろう。
仲間になるには、見た目が近しい、のが一番だ。
ボクだって人間とオークと、どっちと仲良くしたいかと聞かれれば見た目の同じ人間を選ぶ。
良い悪いはおいておいて、そういうものだ。
「でもまさか、こんなに幼かったとは……」
親と別れた巨人の年齢は思っていたよりずっと幼かった。せいぜい十歳前後か?
頼れるものもなくタルミアまで逃げてきたと思うと、少しだけ感傷的になる。
関わらなければなんとも思わないのに。こういうところが知性ある生き物の弱さだよね。
頭をポンポンと撫でてみるが、ボクとあまり背丈が変わらないのでどこか締まらない。
「ん? 誰か来たね」
砂利道を踏みしめ駆ける足音が耳に届く。
こんな夜更けに、月明りぐらいしかない暗闇の中走るなんて何かあったんだろうか。
怪しい……!
「だーれだ?」
次第に近づいてくる足音の主を牽制する。
「あなたは……サラちゃんだったわね。私、アンナよ。ギルドで会ったけど覚えてない?」
アンナさんが息を切らしているのは村中を走り回っていたからだろうか。
「ああ、覚えているよ。熟練冒険者のアンナさんだったね」
「そのアンナよ。あなた魔物を見張ってるんですって? 危険だから代わりに来たわ」
どこに居るのよ、と頭を上にして巨人を探すアンナさん。
「アンナさん、ここだよここ」
黙っていてもいつかはばれてしまうので、ボクから巨人の居場所を教えることにする。
ボクの指さした先には裸の少女。
ボクが男だったらお金で少女の春を買ったと思われるだろうが、あいにくボクは年端もいかぬ美少女だ。そんな勘繰りはされっこない。
「あなた……そういう趣味があるの?」
「いや、ないよ!?」
いや、好みで言うと男より女。中でも若い方が味がいいからあながち間違いではないけれど……ここは否定しておこう。
少女が一つ目なのは暗さと距離があるのとでアンナさんには見えていないのだろう。
「……まあいいや。信じないならそれならそれで」
さよならーと手を振るが、アンナさんは杖の先を一つ目少女に向ける。
「冗談を言っている……わけではなさそうね」
杖の先を巨人に指したまま、アンナさんは距離を詰めてくる。
いよいよ彼女の目にも、少女の大きな一つ目が映ったのだろう。
「いい? サラちゃん。魔物って本当に危険なの。巨人はBランクの魔物よ? Bランクの魔物はね、死ぬまでに一度だって出会ったら不幸なレベルなの。村がなくなるぐらい大変なの。人化してるなんて最悪よ。知恵が回る証明なんだから」
ボクを少女から引き離そうと、腕を掴むアンナさん。
「アンナさんはこの子をどうするつもりなんだい。もうこの話は辺境伯の判断を待つってことになってるんだけど?」
「サラちゃん見かけは幼いのに嫌な言い方をするのね……」
手を出すなと言わんばかりのボクに、アンナさんの手にこもった力が抜ける。
「わかった。見張るだけよ。もちろん、その一つ目の魔物が危険じゃなければね」
やれやれと言いながら腕を放すアンナさん。
「わかってくれてうれしいよ。ありがとう」
「ただね、サラちゃん。あなた、冒険者ランクは駆け出しでしょ?」
「うん」
「わたし、この町唯一の単独でランクCの冒険者ね。パーティーを組んでたときはBランクね?」
「うん」
「その、一つ目の魔物が危険じゃなければ、私はどうこうしないわ。逆に、その魔物が危険だったら、クリストファー伯爵様も被害の出ない内の討伐を望まれるわ」
何か気になる言い回しだね。
なんというか、言葉遊びをしているような回りくどさだ。
つまりアンナさんは何を言いたいんだ?
「これは断罪なり。聖女の意思を具現し、悪しき心を貫き断罪せん! 『ファイアランス』!!」
あれよあれよという間にアンナさんは魔法の槍を完成させた。
「ちょ……「『射出』!」
静止を聞く間もなく、アンナさんは巨人に向けて火の槍を打ち出した。
槍はボクの横をかすめる軌道で、後ろの巨人少女めがけて高熱をまき散らしながら迫りくる。
遅れました。申し訳ありません。
追記:
巨人のランクがCランクとなっていましたので、Bランクに修正しました。




