表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/26

冒険者アンナ

でも、表立って反論する者はいない。

冒険者ギルドの意向は示されたし、巨人の脅威はさっきの一暴れで明らかになっている。冒険者の多くは戦意を失わなかっただけで、勝てるとは思っていなかった。

少なくとも『普通』の冒険者じゃ太刀打ちできないぐらいに魔力を纏った一つ目は強かった。


だから、彼らはギルドの判断を許容する。冒険者は命を張る何でも屋だが、命を捨てたいわけではない。冒険者ギルドが責任を取るというなら無理に戦う必要もないわけだ。


ま、幸いなのは巨人に攻撃の意思がなかったことだね。

巨人が村を落とす気で襲撃していたら、総力戦となっていただろう。


被害は軽微。村の柵とボクの短剣が壊れたぐらいだ。

――せっかくもらった武器だったのに……残念だ。


「また『黄昏幻樂団』か。最近あそこいい感じだな」


「前に封印の洞窟に潜ってから妙にギルドからの指名が多いわね」



『黄昏幻樂団』ってボクの封印を解いた冒険者たちだっけか。

そうか、彼らは優秀な冒険者なんだったね。この村で数少ないCランクパーティーだったよね。彼らのおかけげボクも自由になれたんだ。感謝しないと。



「そして、サラさん。あなたにも一つ指名依頼をします。巨人と意思伝達が可能な理由は問いませんが、辺境伯の沙汰があるまでに人間社会の基本を教え込んでください」


主任さんは笑顔を顔に貼り付けてボクに依頼を出す。


ボクだから――いや誰でもわかるね――主任さんが怒っているとわかる。

絶対怒ってるよね?

というかボクの正体が魔物だってばれてたりする!?


完璧に守り通してきた自負のあるトップシークレットを握られているかもしれないという恐怖と、主任さんから発せられる威圧感によってボクはただただ首を縦に振るしかなかった。


「ま、任せてよ。うん。任せて任せて」


「よろしい。では、この場は解散とします」



包帯と傷薬の入った救急箱をギルドの受付さんがボクに渡して、この場は解散となった。

主任さんはため息を吐きながら、受付さんと共にギルドへ戻っていった。


冒険者たちもさまざまな表情を浮かべながら解散していく。……明日からボクらの周りは荒れるかもしれないね。



「まあ、なにはともあれ……」


まだ手を上にあげたままの巨人は、どうしていいかわからず途方に暮れた様子だ。

所在なくたたずみ、ボクを見つめる巨人の姿はどことなくなついた森狼のようだ。

群れからはぐれ、行き場を失い、人にすがりつく感じが特に。


「なにはともあれ、面白いことになりそうだ」


退屈は死に至る病と聞いたことがある。

世界樹の攻略に加えて今度は人と魔物の共存か。


ボクが寝ている間に、世界はこんなにもわくわくを撒いていてくれていたなんて、にくいねえ。



「今夜から特訓だね、巨人君」


伝わらないと思いつつ、巨人の脚をぽんぽんと叩く。

魔力を扱えるほど上位の巨人種だ。人語なんてすぐに扱えるだろう。




――――――――


「はあ!? それでおめおめと帰ってきたって言うの!? 子どもに任せて!?」


冒険者ギルドの酒場は端的に言うと、戦場だった。


中心地に居るのは一人の女性。年は20代後半だろうか。

彼女の名前はアンナ。この村唯一の単独Cランク冒険者だ。以前は相棒とパーティーを組んでBランクパーティーとして活動していた。しかし、相方は森に沈んでしまい今はソロ活動をしている。

長いローブに使い込まれたとんがり帽子が示すようにアンナは魔術師である。

彼女の扱う魔法は『火』属性。そして、火が持つ性質と呼応するかのように、彼女の性格は激情家であった。


「巨人よ! 巨人! いくらおとなしいからってあんな小さな子どもに任せて……見損なったわ!」


アンナが森から帰ってきたとき、ギルドの酒場では冒険者や情報屋たちが所狭しと集まり、話に華を咲かせていた。

これからどうなるかと不安をこぼすものも居れば、商機とばかりに詩を吟じる詩人、すぐさま手紙をもって出発した――させられた――『黄昏幻樂団』について嫉妬混じりに愚痴を零す者などさまざまだが、話題の多くには一人の少女が付いて回っていた。


流れ者の新人冒険者、サラの噂だ。


巨人との闘いを見た者は仲間に誘おうと相談し、見なかった者は半信半疑で噂を肴に酒をあおる。


そんなときにアンナは森から帰ってきた。

そして、事の顛末を聞いた彼女は、爆発した。


主任は、先に『黄昏幻樂団』のタロスたちを出発させておいてよかった、と心から思った。



「私が巨人を始末――はまずいわね。もうクリストファー伯爵様まで話が上がっちゃうんだから……監視するわ。あなたたちがあのサラって子にどれだけ期待しているか知らないけれど、あんな小さい子に負わせていい問題じゃないわ」


アンナはカウンターに焼け焦げた魔物の死体を置くと、止める間もなく出ていった。


「た、頼むから刺激しないでくださいよ……あの子を……」


タルミアの街最大戦力であるアンナと吸血姫サラがぶつかるようなことになれば、結果はどうあれ街の生活力は激減するだろう。

タルミアの食糧事情は冒険者によって維持されている。アンナとサラの持ってくるだろう魔物の肉は保存食になるし、アンナの火魔法は冬を越すための大きな助けとなる。

万が一、二人が共倒れなどしてしまったら今年の冬は開拓街が維持できなくなるかもしれない。

どうか穏便に済みますように、と主任は心の中で神に祈った。



――――――――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ