戦果上々?
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「お帰りなさい——って酷いケガじゃない!? 大丈夫ですか!?」
もう一、二時間もすれば空も白み始めるそんな時刻
一人の若くプリティーな新米冒険者が冒険者ギルドの扉を開けた。
その新米は、そうボクだ。
悲鳴に近い声を上げたのはまだ若い、女性の受付さんだ。
扉が開く音で目が覚めたのだろう、よだれが口についている。
彼女は寝起きに血だらけのボクを見て、重傷者と勘違いしたようで、パタパタと箱——たぶん救急セットだ——を持って駆け寄ってきた。
「痛いところない? 怖かったよね!?」
できる男然とした前の受付さんとは違い、こちらは慌て者だけど慕われるタイプだね。
彼女はボクの体に『外傷がない』ことを確認するとほっと溜息をつき、ようやくボクが担いでいる荷物に気が付いた。
「あ、森ウルフの納品だったんですね! わあ、すごいんだねえ……って凄い数……」
受付さんが絶句している。ふふん、ちょっと嬉しいな。もっと褒めてくれたまえ。
ボクは担いできた樹をぽいと放り投げて、括り付けた紐をほどいて受付さんに渡す。
「血抜きとか内臓の処理とかしてないけれど、そういうのはギルドに任せてもいいのかな?」
計19体の森ウルフだ。森へ出る前に聞いた相場なら、1体300インだから、ええとええと5700インにはなるよね?
指でおりおりしつつ、今夜の稼ぎを考える。
5700インなら、銀貨5枚と銅貨700枚だね!
汚れきった服代は銅貨でそろえるとして、銀貨5枚は貯金かな。
「主任! 主任! 来てくださいー!」
受付さんがカウンター奥の部屋に呼びかけると、眠そうな顔をした前の受付さんが出てきた。
そうか、彼は主任というのか。これからはそう呼ぼう。
主任さんボクの方を見て、一瞬顔を固くしたものの、すぐに受付さんと一緒に大きな森ウルフ———―ボクに傷を負わせたやつだ———―の死体を丁寧に調べ始めた。
「とうとう森ウルフリーダーが確認されましたか……。サラさん、詳しい話をお聞かせいただけますか?」
主任さんたちは凄いんだなあ。
ボクには体が大きい森ウルフにしか見えないんだけど、彼らには普通の森ウルフとの差異がわかるらしい。
「いいけど……体を拭くものをもらっていいかい? べとべとなんだ」
受付さんがタオルとタライに入った暖かな湯を持ってきてくれたので、それで体を拭き拭き事態を話し始める。
主任さんはボクが服をぽいと脱いだ時から反対側を向いている。なんてできる紳士なんだ。
「というわけで喋る森ウルフリーダーは、あるじに歯向かうものは、って言っていたからおそらく強力な魔物が控えてるんだろうね」
話終わると、主任さんは受付さんと顔を見合わせて頷き合う。
「森ウルフの異常繁殖は、『主』が原因だったんですね。タルミアの街の食糧事情としては有難かったですが……見えている危険を放置できませんね」
調査部隊を送りましょう、と主任さんは目の前につけたガラス細工を光らせて言った。
「適任は誰がいいですかねー」
間延びした声で、受付さんが話すと
「アンナは、今は無理ですね。『黄昏幻樂団』のタロスたちに任せましょう。ギルドの規定違反をそれで帳消しにするようギルドマスターには俺から伝えておきます」
主任が答え、てきぱき物事が決まっていく。
あの、ところでボク暇なんだけど……。
「失礼いたしました。今回の成果は、森ウルフが18体で5400イン。森ウルフリーダー1体が3000インで、計8400インでいかがでしょうか。それと、ギルドカードを提出してくださればDランク相当の魔物を十分に討伐したこと、ギルドに有益な情報をもたらしたこと、サラさんのもともとの魔力と身体能力を考慮しまして、Dランクに書き換えさせていただきます」
主任さんに言われるがままにお金を受け取り、冒険者ランクをDランクにあげてもらった。
彼にはボクの苦手なできる人のオーラがあって、いまいちボクのペースに乗せられない。
さすが荒くれもの達を相手にする接客業の主任だね!
「ありがとう、ございます」
何となく負けた気分になって、お金と新しいギルドカードを受け取って帰る。
「多くの冒険者はDランクで冒険者を終えるの。Cランクに上がるのは並大抵じゃない。だから、ランクに固執して焦っちゃダメよ?」
背中に受付さんの忠告が飛んでくる。
彼女は若くして、無理して潰れた冒険者をたくさん見てきたんだろうね。
優しい忠告に、ちょっぴり胸が温かだ。
冒険者、というか人間の何がすごいって主任さんの説明通りなら、冒険者ランクBの人だったら吸血鬼やドラゴンと出会っても生き残るどころか勝つ可能性だってあるんだよね。
タロスたちだって、出会いが格好付かなかったからボクの評価は低めだけどああ見えてCランクのパーティーらしいからワイバーンとか倒せるんだよね。
下手すりゃボク負けるよね?
封印が解けてから割と余裕かましていたけど、そもそもボク封印されちゃってるしね!
命を大切に、無理せず着実に歩いていこう。
慢心してはすぐ足元をすくわれてしまう。気を付けよう。
受付さんの言葉で強くそう思った。
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「それでは第一回、ギルド主催の緊急対策会議を始めたいと思いますー」




