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冒険者ギルドの夜


「では、こちらがギルドカードになります。今日のところはこれでお帰りください。明日からのご成功を祈っています」


そうか、今日は依頼を受けられないのか。

思ったより時間が空いちゃったね。どうしようか。


————そうだ。エリーゼに会いに行ってまともな服を用意してもらおう。エリーゼの商店はこの街で数少ない大きな建物だから場所だってもう覚えている。


日も落ちちゃってるけど会えるかな?


もらったギルドカードを大切にポーチにしまいこみ、お礼を言って冒険者ギルドを出る。

エリーゼに無事会えたら何を注文しようかな

まずは動きやすい靴でしょ? あと普段着も要るよね。あとは宝物を見つけて持って帰るバックパックでしょ……。


「ギギギギルドマスター大変です! とんでもないナニカが街に入ってきました!! 至急対策会議を!!」


扉を閉めた直後、悲鳴に近い叫び声が冒険者ギルドの中から聞こえてきたけれど、冒険者になれたことで浮かれていたボクにはよく聞こえなかった。



——————————


「よし、行ってきますか!」


昨日、すでに閉まっていたエリーゼの店の扉をどんどん叩いて開けてもらい、無理言って用意してもらった服に袖を通す。


上は藍染した簡素な綿作り、下は素材をそのまま活かした枯草色のこれまた綿作り。

靴はさすがに綿ではない。動物の皮をなめして底に木を敷いた木のブーツだ。

……自分で思うけれど、冒険者というより農作業している方が似合いそうなコーディネートとなってしまっている。


マ、マントがあるから旅人っぽくはあるよね。

ボクは形から入るタイプなのだ。お金が入ったらなんかすごそうなのを買おう。リザードマンの鱗をあしらったプレートメイルとかいいね。冒険者っぽいよね。


そしてゆくゆくは信頼できる仲間とともに息を潜めてドラゴンのねぐらに潜入。やつの貯めこんだ古代の魔法具を奪取する!


「うーん、楽しみだ。栄光のロードをひた走る! いってくるよおやっさん」


「おう、といっても夜だがどこいくんだ?」


「ふふふ、ボクのプロフィールにほれ込んだ冒険者がギルドで待っているのさ!」


『踊る兎亭』のおやっさんにいってきますの挨拶をして砂利道を走る。

小さなタルミアの村—―いや街だっけ?—―は道もまだまだで、石畳の整備もされていない。


そしておよそ一分ほど走ったら、冒険者ギルドに到着した。

扉をバーンと開け放ち、冒険者ギルドに乗り込む。


「さあ、誰かボクと一緒に夢あふれる冒険をしようじゃないか!」


くふふ、どうだい将来有望なボクに群がる冒険者が……いないね。


「うわぁ本当に来ちゃった……い、いらっしゃい」


奥のカウンターで受付さんが何故かため息を吐いている。

日も落ちているせいか、利用者はほかに二組しかいない。

一組は見た顔だね。えーとミーナとタロスとリーダーの名無しさんだ。こっちを見てひきつった顔をしているけど、何か困ったことがあったのかな。彼らにはタルミアの街を紹介してもらった仲だ。ボクにできることなら手伝いたいね。


もう一組は、若い女性だ。いかにもなとんがり帽子をかぶっている。

魔法使いかな?


「夜なのにうるさい子が来たわね。受付さん、相手をしてあげなさいよ」


む、失礼な女性だ。

無視だ無視。


「やあ、ミーナにタロスだったね。この前はありがとう。最近知ったんだけど冒険者ランクCってすごいんだね。ぜひボクと一緒に世界樹探索しないかい?」


見知った顔に声をかける。

彼らはミノタウロスを相手にできる実力者だ。


「……や、やあ。良い夜だな。だけど俺たちはすでに前衛は足りてるんだ。コンビネーションもあるしな。な、なあ?」


「そ、そうね。そういえば、アンナは仲間を探していなかったっけ?」


「はあ、探しちゃいるけど前衛よ。そんなやわっこい子じゃないわ。ランク幾つよ?」


あえなくタロスたちに振られてしまった。

失礼な女性がボクを見る。


「ふふん。昨日冒険者になったばかりだからまだEランクさ! でも近い内に世界樹の開拓者として名を馳せる予定さ!」


「はいはい。そういって戻ってこなかった人を何人も知ってるわよ。命は大切にね?」


あ、煽ってくるなあ……。

気付かないうちにボク何かアンナさんの機嫌が悪くなることしたのかしら。


「いやいやいやいやアンナ! サラさんはかなりすごいぜ! お前にぴったりだよ。こう見えて肉体派なんだ! な!」


「そうよ! アンナにピッタリよ! 性格も穏やかだし言うことなし!」


「やたらこの子の肩を持つわね……。でもEランクならごめんよ」


「いや、悪くないかもしれません。いかがですかアンナさん?」


受付さんまでボクをアンナさんにプッシュする。

何だろう。この感じ。


「なんか私に厄介事を押し付けようとしていない?」


そうそれ! なんかアンナさんを押し付けられている気がする!!


「そんなことないよー」


「ないですよー」


何だ気のせいだったか。


「どうだか。ま、私はもう寝るわ。サラちゃん。開拓地は経験を積むには厳しい土地よ? 体が満足に動くうちに移動をお勧めするわ」


ジョッキを飲み干したアンナさんは、受付さんにお金を支払い出ていった。



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