冒険者適正
しどろもどろになりながらとっさにてきとうな言い訳をする。
だけど言うに事を欠いて、独自魔法ってなんだよ。聞いたともない。
受付さん納得してくれるかな?
「ふむ。血統魔法ですか……そういうでしたか。この条件ですと詳細不明でパーティーは組みづらいと思いますが、それでもよろしいでしょうか?」
丸ガラスを光らせて受付さんはボクを見つめる。
威圧感がすごい……。
「は、はい」
思わず敬語になってしまう。
「それでは最後に、この水晶に手をかざしてください。サラさんの魔力量と適正を測ります」
受付さんはカウンターから水晶玉を取り出した。
水晶玉は透き通った透明で拳大ほどの大きさだった。力をこめれば砕けてしまいそうなもろさを感じる。
「ここに血を一滴たらしてください。保有魔力量や適正能力の診断を行います」
ほー、いつの間にやら便利になったものだ。
自分の実力が客観的にわかれば無茶をすることも減るだろうし、適正にあった仲間を探すこともできるだろう。
それが血一滴で測れるようにするなんて、魔法使いの質はボクが眠る前よりさらに高まっているようだ。
……優秀な魔法使いとは絶対敵対したくないね。
「ほいほいっと」
錆びたナイフじゃボクの柔らかで玉のような煌く肌は傷つけられないから、自分の爪で人差し指の腹を切り裂く。
すると傷口からぷくっと赤い点が浮かびあがり、かぐわしい香りが鼻をくすぐる。
舐めとりたい誘惑にかられる前に、水晶玉に指をぐりぐりと押し付ける。
さすがに自分の血を舐めたいなんてはしたなすぎる!
「はい、結構です……よ……!?」
水晶玉は血に混じるボクの魔力を受けてみるみる内に黒く染まっていく。
瞬く間に黒一色に染まり切った水晶は、やがて音を立ててひび割れてしまった。
黒色だと何の適正があるんだろうか。
勇者とか、聖女とかそういう選ばれし存在でなくてもいいから、ちょっとカッコいい職業の適正があるといいな。
騎士とかいいよね。カッコいい。
「ど、どうだい? ボクは素敵な職業に向いているのかい?」
なんというかドキドキだ。
「そ、そうですね…………。そうですね。保有魔力はかなりのものです。職適正は水晶が黒色に染まりましたので、…………『斥候』が適正となっております。職業募集では『盗賊』と言われることもあります。この場合の盗賊は犯罪人の意味ではなく、冒険者の前衛で探索を得意とする者を指します」
どこか早口で説明を終える受付のお兄さん。
それから受付さんはギルドカードを渡すとこまごまとした説明をしてくれた。
「サラさんの冒険者ランクはEランクです。はじめは皆さんEランクからの始まりとなります。冒険者ランクで重視されるのは強さと信頼性の二点です。この場合の強さは単純な戦闘力の話だけではなく危険や困難を回避、乗り越えるしぶとさや判断力も含んだ指標となります。各ランクの説明をいたします。
Eランクはゴブリンやコボルトを退治できる程度です。身体強化が使えるサラさんなら数日後にはDランクになっていると思います。
Dランクは森熊を正面から倒せるぐらいです。Dランク上位層は迷宮に潜りミノタウロス、グリフォンを討伐できるぐらいになります。多くの冒険者はDランクとなります。
そして、Cランクからはベテランクラスとして扱われます。村単位では太刀打ちできない大蛇、ワイバーンなんかの大型の魔物、ラミアやリザードマンの『群れ』のような知能ある生き物たちを討伐できることが目安です。個人でCランクの冒険者は少なく、パーティー単位でCランクと認定されるチームが少数います。タルミアには現在二チームCランクがいます。
Bランクに分類される魔物は、ドラゴン、巨人、ライカンスロープ、吸血鬼、シーサーペントなどです。これは街消滅の危機があるほどの魔物たちで、巨大であったり、高い魔力と知能を有しています。この辺りの魔物は本来国が動いて対処すべきほどの災害です。それらの災害に対処できる冒険者がBランクになれます。Bランクは数人で軍隊に匹敵する力を持っている証明になります。当然ですがBランク冒険者はほとんどおりません。
Aクラスは、たった一匹で国の存亡に関わるような魔物です。
八つ首の巨大竜、海に潜む島、山を背負う亀、国食いなどのおとぎ話の存在です。
出会ったら死ぬ、そんな規格外を放り込む危険度がAランクとなっています。
Aランクの冒険者は現在空席です。
以上になります。
基本的にギルドを通した依頼をこなしていくか魔物や動物の素材をギルドに売却することで貢献度がたまり、試験を合格してランクが上がります。
何か質問はありませんか?」
……長くて途中から聞いてなかったなんて言えない。
とりあえず役に立ちそうなものを狩ったり見つけたらギルドに届ければいいんだよね?
あとは、Cランクからは実力者扱いされるってことだね!
それだけわかれば十分だきっと!
遺跡で出会ったパーティーはCランクらしいからかなり強かったんだねぇ。
首を横に振って、疑問はないと受付さんに伝える。
「では、こちらがギルドカードになります。今日のところはこれでお帰りください。明日からのご成功を祈っています」




