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伝説の目覚め

悲鳴、怒号、苦痛のうめき。鎧がこすれ金属と金属がぶつかり合う不快な音がボクを眠りから目覚めさせる。


うるさいな……ボクはまだ眠いんだ。


「早く来い! 潰されるぞ!」


「待って! 待って!!」


「中が狭い! この部屋で迎え撃つぞ!」


幾人かの音が近づいてくる。

それと、正面から流れてくる風に乗って、いくつかの匂いが鼻をくすぐる。

香りからして男が二人、女が一人……それと鼻が曲がりそうな魔物の匂い。

ボクがわかるのはそこまでだった。目も開かなければ指一本動くこともできない。



ただ……誰かにとって逼迫した状況だということはわかる。


「ここは……牢獄か? ミイラが一体鎖に繋がれてやがる」


「いいから来い! 扉閉めるぞ!」


重い音と共に、空気の流れが遮断される。

魔物の匂いは消え、後に残ったのは乾ききった喉に唾液が漏れんばかりの芳醇な香りだ。

同時に――扉に重い激突音。


「うわっ……長くはもたねえぞ……これ」


「いいから構えるぞ」


「我が力を食らい眼前の敵を凍て付かせよ……『アイスボール』! いつでもきなさい」


彼らは迎え撃つつもりのようだ……が、声に怯えがある。

彼らは確実に勝てるかの確信がないのだろう。


彼らが死んだら、魔物はこの部屋を縄張りにするだろうか。

いや、それどころか彼らを殺した後、動けないボクまでおいしくいただきますしてくるかもしれない。


それは勘弁願いたい。

ボクはまだ人生に飽いていない。


「きみ、ケホッゴホッ。君たち」


自然と彼らに話しかけていた。

久方ぶりの発声だ。喉が痛みを訴え、ついむせてしまう。


「死体がしゃべった!?」


「スケルトン? いや、リッチかもしれない……くそ、こんな時に」


驚愕、戸惑いそして焦り。彼らの気持ちは痛いほどわかる。

だから剣を突き向けるのはやめてくれ。刺さったら死ぬから……ほんとにやめて。


「君たち。君たちの敵は何だ? 君たちさえ良ければボクが手を貸そう。」


鎖で壁に繋がれた腕をガチャリと揺らす。

錆びた鎖はもう少しで外れそうだ。けれど、干からびたボクはパワー不足でそれすら壊せない。


「う、動いた……」


「壁に封印されているのか。今の内に倒した方がいいんじゃねえか?」


「アンデットだったら普通に刺したぐらいじゃ死なないわよ。私らじゃ無理よ」


剣で胸を刺されたらボクは死ぬけどね。


「結論を逸らない方が良い。ボクはこうして、ケホッ。こうして君たちと意思疎通ができている。それに封印されていて動くこともできない。ほら、扉の向こうの何かよりは危険度は低いとは言えないかい?」


会話をするのはいつぶりか。

人とのコミュニケーションってこんな感じでいいんだったか。


「しゃべる魔物なんて気味が悪すぎる……」


剣を構える音が聞こえた。

まずい。選択をどこかで誤った!


「待て待て待て君たちは扉のあれに勝てるのかい? 勝てないからこの部屋に逃げ込んできたんだよね。ボクならそいつに確実に――勝てるとは言わないが少なくとも時間は稼げるだろう。君たちに危害を加えないことも約束しよう。何よりここで君たちが殺されてしまっては、外の魔物は次にボクを襲うだろう。だからこその提案だ。どうだい? ボクと君たちは運命共同体だってことは理解してくれたかな?」


寝起きで回らない頭を必死に回転させ、彼らを説得する言葉を紡ぐ。

何だって目覚めたと思ったらいきなり命の危機にさらされなきゃならないんだ。

何のための封印なんだ。もっと厳重に、誰も近寄らせないぐらい強力なのを用意してほしかった。


「お、おい……どうする?」


目には見えずとも彼らが困惑しているのが雰囲気で伝わる。


「ほら、ボクを見てくれ。こんなに細い腕だ。こんなに白い脚だ。どこにも危険なんてありはしない。ボクはただちょっと封印されているだけの女の子なんだ。いたいけな封印少女を相手に君たちは手に持つ恐ろしい獲物を向けようというのかい? いやいや、そんなまさか。そんなオークめいた人じゃないはずだ」


「う、胡散臭い」


どうしよう。話せば話すほど墓穴を掘っている気がする。


「ほっておくのが一番良い気がするわ」


「だな。これが迷宮のトラップだったら目も当てられん」


彼らの最終判断が下った。

哀れな干物ミイラのボクを見なかったことにするらしい。


それきり彼らは騒ぐボクを無視する。

魔物が扉にぶつかる音も激しさを増し、いよいよ扉が破られた。


「放て!『アイスボール!』」


ボクにあたる余波でさえ肌が凍ていくような低温。

女の呪文と共に戦いの火蓋は切って落とされる。


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