十一月十日之事_____三十六話目
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昼休みの作業車の中、串カツが嫌な話を切り出した。
「昨夜の会合で先輩の家の事が出ましたよ。地域長が今夜お邪魔するとか。」
教団の連中は 俺が退会した後も定期的に なんのかんのと理由をつけて家を訪問してくる。
串カツの家も信者の家庭なのでこうして定期的に情報を得ては流してくれるのだ。
それくらいして準備しないと、相手の家に多人数で押しかけて玄関の破壊くらい普通にやらかす連中なので対応が間に合わない事があるのだ。
実際、信者同士の内ゲバで夜逃げした家庭が幾らかあるのを串カツも俺も知っている。
「今夜か…………どうするかなあ。」
「先輩、あれでしたら俺お邪魔しておいて連中に釘刺す様にしますけど?」
串カツもよく分かっている。
世間の目は気にしないバカばっかりだが、常識的な身内の目だけは何故か気にする連中なのだ。
真性ガチロリ同人作家が常識的……という件でまあどんな連中かは想像が付くだろう。
「妹達には会わせんけど…それでも良いか?」
「ええー!? ………というのは冗談で、ちょっと相談もあるんすよ。」
「相談?」
「大した事じゃないんですけどね。先輩の妹ちゃん、神道に詳しそうだったんでちょっとだけ聞きたい事があるんすよ。」
「相談ねえ……。そんなら、うちで飯食うか? 」
「良いんすか? じゃあもう一人女の子連れて行きますんで、よろしくっす。」
そう言うと車から降りて、現場のピンク電話からどこかに電話をしていた。
◆
夜、帰宅して待っていると串カツがやってきた。
えらく可愛らしい少女を連れている。
「こんばんわーっす。」「こんばんわ」
「ああ、よく来たな、上がって上がって。」
「いらっしゃいませー。」
稚日と俺で応対する。
居間の座卓にはすずぽことクズの葉が座っており、鍋の用意をしている。
「「「こんばんわ〜」」」
「こんばんわ、鍋なんすね! これお土産です。」
と言って、ジュースのペットボトルとビールを差し出す串カツ。たまには気が効く。
人数が多いので鍋が二つ、中身はどっちも味噌ちゃんこである。
「えーっと、そちらの方は食べられるんでしょうか?」
稚日がちょっと微妙な物言いをするので焦る。
「おい、稚日…。」
「ちちうえ……この娘 付喪神。」
「…………え!?」
思わず少女を見つめてしまった。
見た目10歳くらい?見ようによっては13歳とか14歳とか?
いや、でも どう見ても人です。 ただ確かに別嬪過ぎるとは思う。
実はうちの女性陣も大概に美人揃いなのだ。
一番、普通に近い容姿のクズの葉ですら雑誌のモデルくらいなら余裕で成れるレベルなのだ。
稚日やすずなんて正直なところ 色々と不安で大都市なんかには連れて行けない。
で、この娘は その中に入っても全く遜色無いくらいには容姿が整っているのだ。
フッと串カツを見ると目がバッシャバッシャと泳いでる。
「カツ、どこで攫ってきた?」
「先輩、酷え! 俺、そんな事しねえっすよ!」
「口では何とでも言えるからな。」
「先輩、信じて!」
串カツは無視して女の子に質問だ。
「お嬢ちゃん、お名前は?」
女の子は串カツの袖をくいくい引っ張って質問している。
「ねーねー、あたしのなまえってなに?」
「夢見るゆめみちゃん、AAAタイプ っすよ。」
「じゃあ、あたしのなまえは ゆめみ、よろしくね。」
「カツ〜。」
「いや、だから相談あるって言ったじゃねっすか!?」
どうやらこの娘の存在が相談事って話らしい。
それにしても付喪神………いや、うちのたぬき組ときつね組を見てるからか、どうしても違和感がなあ。
「それでお鍋ですが、ゆめみちゃんは食べられますか?」
稚日が改めて聞いている。
「ねーねー、食べてもいいの?」
「ああ、良いっすよ。」
「じゃあ食べまーす!」
カツも随分疲れてる感じだな。
真面目に相談に乗ってやるか。
その前に…………
「稚日今から家に来ようとしてる連中を家にたどり着けなく出来るか?」
「はい。出来ますよ?」
「じゃあ、絶対辿り着け無くしてくれ。」
「分かりました。 宜しくない気配もしますので、永劫辿り着けなくしますね。」
「先輩…ちょっと聞きたいんすけど…先輩の妹ちゃんって………。」
俺と稚日のやり取りを見て何か感じたのか串カツが稚日の事を聞いてきた。
「他言無用で頼むぞ。 神様だ。」
「…………えーと。」
「稚日女尊と言って、日本神話にも出てくる女神様だ。天照皇大神の妹に当たる。天津神の織姫で縁結びの神様。色々あって俺の妹になった。ここでの名前は加東稚陽16歳って事になってる。」
「よろしくお願いしますね、櫛名田様。」
「…………よろしくっす。…………あのー。」
「まだなんかあるのか? お前も付喪神の居候が出来たんだろ。取り敢えず納得しろ。」
「はあ………。」
◆
「ぽこちゃん、お鍋美味しいねー。」
「ゆめみちゃんこれもおいしーよ?」
「………これもオススメ。」
「あ、すずちゃんありがとー。」
ゆめみちゃんも短時間で随分と馴染んだ様だ。やはりこういう時は鍋に限るなあ。
「ところでゆめみちゃんが付喪神化したのっていつよ?」
「この前、先輩送った日の直後っす。家に帰ったら飾ってたゆめみが動き出したんすよ。」
どうやらうちに来たときに神気に当てられて、そのとばっちりで付喪神化したらしいな。
良し!黙っておくか! ………どう考えても俺の所為だからな。こういうのは黙っとくに限る!
「ところで、カツ。 お前実家暮らしだよなあ。親は大丈夫なのか?」
「今のところは〜って感じですね。」
「お前が仕事の時は家に来る様にしとくか? 幸いうちはみんな神様か神使だからな。付喪神に必要な事も教えられるはずだしな。」
「良いんすか!?助かります!」
「お任せ下さい。櫛名田様。ちゃんと夫婦の縁は結んでおきます!」
「え!?」
「お任せ下さい!」フンス!
稚日のやる気が絶好調だ。
ここは任せるしかあるまい!
しかし、アレだな。当事者が自分じゃ無いとマジで楽しいな、こういうの。
いいぞ稚日、ドンドンやれ!
混ぜるな危険 という言葉が身に染みます。




