十一月六日之事_____三十五話目
お読みいただきありがとうございます。
寝落ちしたので朝に間に合いませんで、この時間です。すみません。
日曜日。
神社となった我が家は その存在の本質が 隔離世と現世の間に移動して固定されたらしい。
そうするとどうなるかというと………今 目の前で 八畳敷の畳の間が五百畳敷にも感じられる広さの板間になっている。
そこをぽことクズの葉が一所懸命に雑巾掛けのまっ最優先。
なんか昔を思い出しちょっと懐かしくなって一緒に雑巾掛けしたりして……なんだか楽しいわ。
「とーちゃん、雑巾掛け上手いなー。」
「人間に負けてられない!」
いやあ、いい汗かきました。
雑巾掛けの後は すずちゃん先生の体術教室 が始まるよー!
クズの葉がすずからポイポイと良いように投げ転がされてます。
ずっと見てると どうやら柔道とは違い、組まずに当て身や無手の足払い、直突きから入るスタイル。
合気や柔術、小太刀術の混合だろうか? まあ剣術からの派生技ならそうなるのかも。
ぽこは先ずは柔軟体操と受け身、これは体術系の基本なのでしっかりと学ばねば怪我をする。
前に 後ろに と、回転受け身で コロコロー、コロコロー、と転がる様子を見ていると何故だか癒されます。
柔道では前方への回転受け身のみ なのでやはり合気の要素が入っている様だ。
この受け身と言うのは柔道では初心者の学ぶ基礎なのだが、古流の柔術ではこれが出来ると小目録や中目録の切り紙が貰えたりする。
目録とは段階的免許の事で 流派にもよるが貰える順に小、中、の目録、そして次は免許皆伝、奥義 秘伝の類、となる。
柔道は 柔術の『投げられる事で身体を使って、受け身や投げの技術を学び覚える 』というのをより単純にシステム化して 技術の習得を非常に簡単な物にしてしまった。
で、今のぽこの様に先ずは受け身…となっているのだ。
柔術 本来の形で投げられる事で学んでいるスタイルのクズの葉が等々逃げ出した。
しかしすずに回り込まれ、持っていた扇子でおでこを叩かれている。
「ギャン!」
という悲鳴と共に泣き出したクズの葉。流石にちょっと……。
「ゔえええええええええええええ〜!」
「あのーすず…。」
「…………ダメ。手加減したらすずが危ない。」
そう言われると中々に口出し出来ません。
仕方ないのでぽこと一緒にコロコロ回って受け身の練習でもして置く事にします。
「ぽこ〜もう目が回う〜〜。」
「お茶ですよ〜。」
稚日がお茶を淹れてくれる。やはり美味い。
お茶受けは壺漬けのたくあん。
クズの葉もどうにか泣き止みたくあんを齧っている。
それにしてもなんでこの娘 うちに居候してるんだ?
そういえば詳しく聞いてなかったなー、と思い、聞いてみた。
「私、神様になる試験、何回も受けてて でもずっと落ちてて、前にいた神社のお社さんに『今度落ちたら帰って来るな』って言われちゃいまして〜。それなのに落ちちゃって…………。」
それって発破掛けただけじゃね?とは思ったのだが迂闊な事も言えないので遠回しに聞く。
「落ちたのは仕方ないけど連絡してみた? してないなら心配してるかもよ?」
そんな 『 あ! 』みたいな顔でこっち見られても困りますよ。クズの葉さんにすずしろさん。
板間がこれだけ広いと反響して電話してる声が結構響くねー。
怒られてる様だ。まあそりゃそうだろう。
合否の連絡もなしに一週間近く姿眩ましてたんだから。
あ、すずと電話代わった。
結構長いな。ずっと話してるのか?
あ、切られたっぽい。
「どうだった?」
「心配掛けるな!って怒られました。」
「で帰って良いって?」
「…………いえ、それが『うちの社だと甘えるから次の試験までみっちり扱いてもらえ』って。」
すずを見やると
「適性が無いと断ったのにお願いされて電話切られた。」
「まあ、アレだ。…………がんばってね?」
◆
夕方、稚日とすずが何やら言い争っている。
珍しい……と言うか初めてじゃ無いのか?こんな事。 俺にはこんな光景を見た覚えがない。
すぐそばでクズの葉が困った顔でオロオロしている。
「そんなのだめです!」
「しかし、弟子は師匠の背中を流すもの。」
「二人ともどうしたん?」
仲裁に入ろうと事情を聞く事に…。
「お兄ちゃん あのですね、すずは今夜お兄ちゃんと一緒にお風呂に入るのにクズの葉も一緒だと言い張るのです。」
「弟子は師匠の背中を流すものだから…………。」
「そんなの駄目です!」
ああ、なるほど。
「良し!分かった!」
「お兄ちゃん!何言ってるんです!?」
稚日は俺に食って掛かるが すずは喜色満面で頷いている。
「そう言う事なら師匠の立場を優先すべきだな。これからはクズの葉と一緒に入る様にして貰おう。」
すると何故かすずの動きが固まってしまった。
関節から錆びついた音が聞こえてきそうな動きでこちらを見て来るすずに、
「師匠の背中を流させるそんな大事な仕事を邪魔しちゃ悪いから、弟子が卒業するまでは俺とお風呂入るの無しな。頑張れよ、すず。」
と励ましてみた。
「そうですね!そしたらぽことわたくしが週に二度づつ入れます。」
入りません。どさくさ紛れに稚日からは何を言ってるのか根拠が全く不明な妄言が飛び出す。
「予定変更。今夜クズの葉はすずの代わりにあねうえの背中を流す。」
ひと仕事終えたー!みたいに ふぅ と溜め息を吐きながら額の汗を拭うすず。これ、そんな額に汗する程の事なのか?
俺としては単純に これ以上一緒に入る女性を増やしたくないのだ。
またぞろ嫁候補増やされても困る。
「ん?お兄ちゃん どうしました?」
ごきげんな稚日に言っておく。
「もしすずと入らなくなっても お風呂の回数、増えたりしないよ?」
「それはおかしいですよ!お兄ちゃん!」とか言ってるがちっともおかしくありません。
誤字とか乱文は遠慮無く教えてくださいますと助かります。
どうぞお願いします。




