十月十五日之事_____二十七話目
お読みいただきありがとうございます。
朝更新のつもりが寝落ちしてお昼更新になりました。
独り身に戻ってからはひたすら仕事に没頭した。
何も考えられない生活が欲しくなった。
前に現場で知り合った他業種の職人さんが
「嫌な事や悲しい事が有っても現場職は仕事をしてたら気が紛れるから良いよなあ。」
なんて言ってたのを思い出して その人のやり口を真似てみたのだ。
で、社長に頼み込んで 夜間の仕事を取ってもらい昼夜仕事漬けの日々。
昼間の現場が終わると会社に戻ってシャワー浴びて仮眠、その間 会社の洗濯機で洗濯、夜中現場に出る時に乾燥機に放り込み、現場から戻ると またシャワー浴びて仮眠洗濯乾燥〜の繰り返し。
職人はその気になれば このルーチンで三カ月や半年くらいは簡単に仕事漬けになれるのだ。
三人が姿を消した家にはあれから碌すっぽ帰らなかった。
夜間仕事が切れた日の夜に戻ったのみだ。
その時も結局は 一人では家に居たくなくて呑みに出て朝まで呑んだので 家には何しに戻ったのやら…。
「先輩、お疲れっす。しかしさすがにこのスケジュールは無理があるんじゃ無いっすかねえ。顔色もすっげえ悪いっすよ?」
「かもなあ。でも当分 家に帰りたく無えんだよなー。」
実は当分どころじゃなくてどこか遠くに行きたいレベルで帰りたく無いんだけどな。
「ひょっとして今晩も夜間ですか? 先輩マジで倒れますよ?」
「倒れて入院したら家に帰らなくて済むかなあ……。」
串カツは心配してくれてるが こいつも以前同じように『昼夜 昼夜 昼夜 昼 昼夜』な感じで半年くらい働いてたのになー。
「先輩、疲れ過ぎて心の声がダダ漏れっす。自分の時は言われた事やってただけっすから状況全然違うっすよ。」
そこに通り掛かった社長に串カツがチクりやがった。
「社長からもちょっと言ってやって下さい。先輩、昨日辺りから車の運転とか目開けたまま寝てる感じに蛇行したりするんすよ。」
「寝てねえつってんだろ。ちゃんと仕事もこなしてるわ。」
「ふむ……予定はーっと。 カツ、お前来週は昼はこいつと一緒に現場行け、んで運転させるな。 で、慎は明日の日曜は夜無し。で19まで出たらしばらく休みや、良いな?」
そんな感じで、あっさり社長に片付けられてしまった。
「慎よ、何があったか知らんけど 落ち込んだのを仕事で紛らわす様な没入の仕方すると身体壊すぞ。仕事は楽しくやってなんぼや。」
「……………………はい。」
そうは言われても、仕事が無くなったところで家に帰りたく無いのは変わらない。
明日の夜も長いだろうなあ………また飲みに出るか。
まあ、今晩の夜業までが無くならずに済んで良かったと思おう。
昼の作業日報を書いてる合間に洗濯っと。
『お兄ちゃん、盥と洗濯板はどこですか?』
「え?」
洗濯機を操作しようとして ふと稚日の声が聞こえた気がした。
『え! この四角い物が勝手に洗濯をしてくれるのですか?』
「…………ふふふ」
なんだかちょっと嬉しい気がした。
『へんなお兄ちゃんですねえ。』
さて日報を書いて仮眠仮眠っと。
◆
目が覚めた。鳴り響く目覚ましの頭を叩いて止める。
「夢には出てくれないんだよなー。」
目を閉じて一人言ちる。すると見える姿と聞こえる声。
『ちちうえ、おはようございます。』
『とーちゃん、おはよー。』
嬉しいけど……辛いなあ。
これから、ずっとこんな調子で生きるのか俺。
浦島太郎の玉手箱は乙姫の救いの手だったのかも知れないな…。
海の女神と過ごした神の時間は三日が人の世の数百年に優った。
原典では三日では無くひと月だったか、三ヵ月だったか。
老人になった浦島はその後、只々海を眺めて暮らした。
彼は何を想って余生を過ごしたのか……今なら俺も分かる気がする。
彼の耳には涼やかな乙姫の声が聞こえ、その目には彼女の微笑みが見えていたのだろう。
自らの手で捨てた 乙姫との幸せな日々を想い出し、それに浸る余生。
神の時に人が歩みを揃えた三ヵ月の浦島の帳尻合わせが玉手箱。
ーーーーだとしたら、
人の時に神が歩みを揃えた三ヵ月の俺のそれは何だろう……。
もう俺、別に玉手箱で良いんだけどなあ。ホント。
さてと、途中 コンビニ寄って夜間の現場だ。
◆
コンビニでおにぎりを買おうと手に取る。
『わたくしは[おにぎり]と呼ぶより[おむすび]と呼ぶ方が好きです。作った人は食べる人を想ってその想いを結んで作るんですから。』
カゴを持った稚日がそばに居る気がした。
魂が重なる縁とは なんて残酷なんだろう。




