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ポコぽこポン!  作者: いぐあな
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九月二十七日之事_____二十三話目

不定期更新中です、ごめんなさい。

「ただいま。何してるんや?」


随分と日の暮れた薄暗い庭先の、玄関からほんの少し奥の生垣の陰に こんもりとした影二つ。

仕事から帰ると玄関先で生垣に向かってしゃがんでいた。

付喪神のたぬき隊きつね隊も同様に生垣の根元を覗き込んでじっとしている。


近づいて声を掛けると一斉にこっちを見上げ「しーー。」っと口の前で指を立てる。

『り゛ーーーーーーー』

と、若干濁った平坦な調子の 虫の鳴き声が聞こえる。

この お世辞にも綺麗とは言えない鳴き声は おそらく エンマコオロギ。

片田舎とは言っても住宅街の人家の庭先で鳴くのはこいつ位だろう。


「そんなに聴きたいなら 今度、鈴虫とか買って来ようか?」

気を付けて小声で聞いたのだが、虫の音は止まってしまった。

二人は立ち上がりつつ、要らないと言う。

こうやって庭でそっと聴くのが良いのだそうだ。

そう言って少し移動して、先程と同じ様に虫の音に耳を傾けて始める。

『り゛ーーーーーー』


子供には子供なりのこだわりがあるのだろう。

邪魔するのもなんなので、俺は家の中に入る事にした。


二人の虫の音聴聞会に配慮して、音を控えめに玄関を入ると 奥から話し声が聞こえる。

襖を開け挨拶を、と手をかけたところで

『お兄ちゃんに言ってはいけないのですか?』

『左様。言えば詮無い物になるでしょうな。』

『しかし、それでは誤解されるやも…。』

『互いの為。(こら)えなされませ。』


聞こえた台詞で 出るに出れなくなったので玄関まで戻って「ただいま〜!」と声を出す。

気持ち 声が裏返った気もするが今更だな。


襖を開けて稚日(わかひ)が出てくる。

「お帰りなさい、お兄ちゃん。お疲れ様です。」

普段と変わりなく見える……。

来客はなずなさんで、編み物を教わりに来たそうだ。


「ああ、なずなさん いらっしゃい。」

「ダーリン 邪魔しておるぞ。……ん〜、えらく顔色が悪いのう。何ぞあったかや?」

何とは無しに仕事の所為にしてお茶を濁す。

この時、思わずなずなさんから僅かに視線を外してしまった。 失態だ。


「………ダーリン、何があった? 」

やはり すずの母親だけあって人を見抜く目が異様に鋭い。


「………もしや、あのたぬき女御(にょご)から何ぞ言われたか?」

が、今は情報量の不足で 勘違いしてくれているので このまま勘違いしていて貰おう。

「ああ、いえ 大した事では………。」


「ふうん。……きつねは情絡みで化かすとたちが悪い、とでも言われたかや?」

少し……ほんの少しだけ驚いた風に見せる。視線、動作、を常人では気付かぬ程度 ほんの少しだけ。


「いえ……。」そう答える……反応で釣れたかの様子を見る。 俺、何やってるんだろうな……。

「安寿め、己を棚に上げて ようも言うてくれるわ。ダーリン、気を付けよ。 たぬきは相手を破滅まで追いやってから『ああ、しまった。やり過ぎた。』などと言う (たわ)けた化かし方をするでのう。」

……釣れた。

「え、そうなんですか?」

「うむ。油断し過ぎて信じ込むと 生命まで落とすやも知れんぞ。」

「……気を付けます。」

そう言って誤魔化し その場を離れた。


釣れた、などと言ったところで……それで 俺が誤魔化したのは、相手なのか それとも 自分なのか…一体どっちだ?

複雑な今の心境を流してしまいたくて 風呂に入る。



「ふう〜。」


湯船で茹でられながら考える……。

考えないようにしても頭の中で勝手に不安や疑問が増殖するのだ。自身では止められない。


稚日(わかひ)は なずなさんに 【俺には言えない】しかし【言わなければ誤解を招く 】だろう 相談事をしていた。

そういえば 以前にも『相談しなければならない事が…』と、俺を気にしながら誰かに言っていた気がするな。その時の相談事は 結局 俺は受けていない。


ああ…秋祭りの夜、稚日(わかひ)が酔ったのは大日孁(おおひるめ)さんとの相談事の席だったか。


こうして考えると 俺って結構蚊帳の外なんだな…。

他人との距離感をうまく掴めない俺じゃ仕方ないか……。

無意識に この家族ごっこの関係に何かを期待してたのかもな。


ひょっとしたら これも誤解なのかも知れないけれど……。


他人に期待なんかするからこんな事になる…。

……でも、もう少しくらい化かされてたかったなあ。


もしこのまま、ずっと黙ってたら化かされて居られるのかなあ。

さっき、もうしばらくで良いから ぽこやすずに付き合って虫の音聴いとけば良かったなあ……。


考えずにいられないのに 考えるほどに泥沼…。

結局、流すどころじゃ無えなー。



風呂から上がるとなずなさんは既に居なかった。


「お兄ちゃん、余り食が進まない様ですが 美味しくなかったですか?」

夕餉の箸も進まず、心配される。


「そんな事ないよ。いつもと同じくらい美味しいよ。」

秋刀魚の塩焼きは好物なのだが、不思議な物で何故か味がしない。

砂を食む……とは、上手く言ったものだ。


我ながら、疑心暗鬼に過ぎる とは思う。

誤解かも知れないじゃないか……。

それに、疑おうが疑うまいが所詮ごっこ遊びなのだ。


よく考えろ。 (たばか)るほどの値打ちが俺なんかに有るのか、を。


今まで通り。……そうだ、今まで通りで。



そうすれば、きっとまだ夢を見て居られる。

読んでいただきありがとうございます。


もうしばらくは不定期更新となりそうです。ごめんなさい。

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