九月二十五日之事_____二十二話目
不定期更新中です。スミマセン。
「こんにちわぁ、慎太郎さん とんとご無沙汰にしやして〜。」
先日、新たな稚日女尊の勧請以降 一時帰宅する頻度の上がった安寿さんは時折ぽこの様子見と食材等の差し入れに来てくれる。
ただ、やはり色々有るようで こちらでゆっくり一晩過ごす、と言う迄には落ち着いてはいない様だ。
「ぽこがほんに お世話になり通しで心苦しうてー。」
「気にしないで下さい。 自分も原因作ったうちの一人なので、恐縮されるのも申し訳無いんで。」
こうは言ったが 実際には原因どころでは無く俺がトドメを刺した感があるんだよなあ。
ホント関係各位には申し訳ない。 悪いのは大体 相談役と その次くらいにほんの少し 俺です。
「ぽこは可哀想なんやらんけんど〜あちらでは 何とな色々ありんしてなあ…大人の濁り見せるんも何やと思いやんして〜。」
本当ならば ぽこもお社の方に連れて行きたいそうだが、オトナの事情が絡んだ何かがある様子。
詳しくは言ってくれないものの 恐らく平常運転とは違った理由を匂わせていた。
教えたいなら 遠慮なく教えてくれて良いのよ?
それにしても、相変わらずの謎方言では有る、が何となく意味は分かるような感じからして関西近郊の方言だろうとは思っていたのだが 話の流れで つい聞いてしまった。
「安寿さんの方言って独特ですね、どちらの言葉なんですか?」
「へ?」
「いや、安寿さんの方言の話ですよ〜。余り聞かない言葉なのでどちらかな〜と。」
「ん? あてぇの言葉、そないに訛っとりやすか? はて…そないな言初めて頂戴しやした。……でも、きっと慎太郎さんの気の所為や居らっしゃらんやろか?」
「…………え〜と…。」
「あてぇは 住まいは ほぼ粗播州からは外れた覚えがおへんのすが〜。言葉なぞうちの父御とそないに変わらんもんと思うてやした。」
驚いた事に、どうやら安寿さんには謎方言の自覚がなかったらしい。
結局、謎方言は謎のままであった。
「ところで、ぽこはどちらに 居りならんやしょ?」
「ああ、今はすずと遊びに行ってますよ。」
「……あの なずなはん所の娘御……。仲良うしてやらしゃろうかしらん?」
「ええ、とても仲が良いですよ。あの二人と十柱の付喪神とで 良く遊んでます。」
「そうでやすか……一先ず安心しやした。 ……ほうでも、互いに化かすのが身上のケモノやよって、中々に今のままも難かしおすが…。特にきつねは情が絡むと深く化かすもんゆえに難しおす。」
不安そうな表情の思案顔で娘達の関係を心配する安寿さん。
なずなさんとも知り合いの様で 話を聞く限りじゃ そう仲も悪くなさげな感じなのに、スーパーでのあの態度。
きっと何か有ったんだろうと思う…。それに今も決して嫌ってる風の感じじゃ無い。
「ほな 慎太郎さん、あてぇはそろそろ お暇しやす。ご機嫌よろしう。」
「稚日も居なくて大したお構いも出来ませんですみません。」
安寿さんの来訪が稚日が買い物に出た直後だった為、留守だったのだ。
「いいええ! 稚日女尊様が居らっしやなったら 恐れ多しうして、あてぇなぞ口も利けやせん〜。」
「どうぞ〜、 稚日女尊様には良しなーにお伝えなんしょ〜。」
そう言って恐縮しきりで帰っていった。
……小さいからそうは見えないけど 稚日ってやっぱ偉いんだなあ。
◆
「おや? これは〜?」
買い物から帰宅した稚日が台所で安寿さんからの差し入れを見つけた様だ。
「お兄ちゃん、ただ今帰りました。 …それでこれは…。」
「お帰り〜。それ、安寿さんからの差し入れ〜。さっきまで来てはったんや。」
壁を挟んでそんなやり取りをしていたら、台所から顔を出した稚日が…。
「お兄ちゃん、神饌酒があります。 味見してみますか?」
と言う。
聞くと赤酒とかいう稀少な酒だとか、俺も赤酒は産地と名前だけは聞いた事がある。熊本で作られているとかなんとか。…興味を惹かれたのでちょっとだけ味見をさせて貰う。
盃にひと口分……何というかレモン水の様な…これって酒か?
「これは赤米と言う古い種の米を 数え12までの処女が五日の精進潔斎の後、一口ひと口、丁寧に食んで壷に戻し、宮水で薄めて蔵で寝かせた物です。内容が内容なので今では殆ど作られません。」
……多分、俺の聞いた赤酒とは違うな。うん。 ていうか、これって酒の括りに入れていいのか?
一部の好事家はホイホイ飛び付きそうだが……主に串カツとか。
「今は神々も 今の人の作る清酒を好むので 稀少ではあるのですがそれなりに呑む量は確保出来るのです。」
なんだかとっても嬉しそうですね、稚日さん。
「わたくしと姉神様はこれが大好きで……折に触れては二人で頂いたものです。」
それはもう、うっとりと酒の思い出を語り始める稚日……マニアックだなあ。
それにしても前に聞いた、おおひるめさんの話って ちゃんと稚日だったんだ。
確かにこれは酒精が低いから 余り酔う事も無いだろう。
「これは夕餉の後の楽しみが出来ました。」
何とも嬉しそうに呟く稚日。
是非ともお一人で愉しんでくざさい。
まだ、お兄ちゃんは 少女の涎を盃で飲めるほどには上級者では無いのです。
ともかく、『お酒はほどほどにね、』と一応釘は刺しておいた。
お読みいただきありがとうございます。 気に入って頂けたら幸いです。
もし、安寿さんの謎方言が分かりにくい、と言う方が居られるようでしたら教えて頂けると対策練ります。
評価、ご感想、誤字報告もお待ちしてます。よろしくお願いします。




