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ポコぽこポン!  作者: いぐあな
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九月十八日之事_____十九話目

「ん?どうしたかの、ダーリン?」

「いえ、見事なもんだなあと思いまして。」


今日は朝からなずなさんによるすずの剣の指導が行われている。

素振りは兎に角速い。両足の踵がついた状態のベタ足のまま、構えから振り抜くまでの一瞬で動作中に 想定したのであろう距離を一気に詰める。

素振りだと言うのに木刀を振るうだけでは無く足払いを警戒しているのかの様に(たい)を入れ替え、それでも踵が浮かない。地を滑る様だ。

明らかに本身(ほんみ)すなわち真剣を意識した稽古だ。

色合いからすると 恐らく木刀も真剣を意識して 赤樫などでは無く黒檀か紫檀だろう。

そんな調子での形稽古など余り精錬され過ぎていて舞を踊るかのようにさえみえる。


「なんじゃ?ダーリンも剣を使うのかや? 一手どうじゃ?」

「遠慮致します。自分如きではどう逆立ちしても相手にすらなりませんよ。」

この業前を見たら思わず口調も改まってしまう。


「そうかの? その割には目がモノを言うておるぞ」

カラカラと笑う。

「いえ、自分は所詮竹刀競技の延長ですから。これほどの実戦剣術相手には太刀打ち出来ません。」

嘘だ、高校では実戦とまではいかないが組討ちありの稽古をしていた。

一部古流や機動隊などではやっている筈だ。隙があれば足を払い 投げを打ち 引き摺り倒す。ワザと防具の隙間から首や胸に突きを入れるなんて茶飯事、そんな手荒い剣道。

それでも勝てない、そう思わせる圧倒的な剣武。

何をどうしたらこんな小さな子がここまでなるのだろう。


「そうか?ならば わらわ手ずから鍛えてやっても良いぞ?」


「ここまでなるのに何年掛かります?」

「ふむ…。そうじゃな。此奴でざっと5年じゃったかの?」


俺だってガキの頃から15年 やっていた。

幾度となく爪を剥ぎ 血の小便を流し それでも竹刀を振った。

組討ちに強くなるため 柔道も学び段位を取った。


その程度では足元すら見えない絶対の差が今ここにある。


「10歳の頃に弟子入りしたかったですね。」

身体を壊して諦めた道だ。もう満足した。今は見るだけで充分楽しい。


こちらを見ていたなずなさんが呟く。

「右膝、左肘…右もか、腰も首も…首は二箇所じゃのう。これは強くなろうとしたのか壊そうとしたのか分からぬな。」

「ついでに心臓も若干…お恥ずかしい限りです。」

剣道は技を出す瞬間に発気する。その際 腹の底から声を出し気を相手にぶつける。

その副産物、よくある事だ。


「幾度か観た事もあるが撃剣興行…今は剣道か。アレは不必要に騒ぎ過ぎで些か品が無いのう。」

「かも知れません。」

「まあ良い。剣を振れずとも 見るのも稽古、教えるのも稽古、たった今、こうして生きる全てが剣の稽古のうちじゃ、ダーリン。」

「はい。」

実戦の剣を知る存在の言は軽い一言すら重い。


最後、一本の立会いを終え互いに礼をする なずな様とすずしろ。 とても良い稽古を見せて頂いた。



「ちちうえ〜。」

戯れ付くすずを撫でて褒める。

「いやあ、すずはホントに強いなあ。」

「……………はい。」

うっすら頬を染め 珍しく照れている。


お茶を淹れ二人に差し出し稽古の労をねぎらう。

「そういえば ぽこに教えて貰うとかは出来ないんですか?」

せっかくだし遠慮なく聞いてみた。

「あのたぬきの娘御か。あれは母御から(じき) 薙刀を習うじゃろうからな。変な癖を付けると後々(のちのち)苦労する。それはあの者が可哀想じゃ。」


やはり指導者は単純に教えれば良いと言う訳では無いのだ。

どうすればより良く成長するのか、剣士として、人として。………もう業前のみの話では無くなる。

人ならざる神だからこそ見える終着点、か。


「そういえばチラッと聞きましたが、新撰組を指導されたとか?」

「ん? ああ、そんな事もあった。指導などでは無かったが確かに(しご)いてはやったのう。」

「指導じゃない?l

「うむ、しょっ中 突っかかってくるのでその度 仕置きしただけじゃ。」

「は?」

「いや な、街中で余りに偉そうにしておったので躾程度に()ちのめしたのじゃ。それ以来随分と(じゃ)れ付かれた。壬生狼とか言うておったがあれでは犬コロと変わらぬ。」


なずなさんは切腹の仕草をしながら言う。

「奴ら負ければ『士道不覚悟が〜』とか言うてのう。下っ端は哀れなものじゃ。 大体、奴らの大半は竹刀や木刀しか振った事のない連中じゃぞ。それがいきなり五百匁(1.9kg)軽うても四百匁(1.5kg)の本身では何ともならん。」

俺が現役時代 三尺九寸を一寸詰めて使ってた 試合に使うには重すぎると言われた竹刀が535g。日本刀には比べるべくも無いが それでも結構な重さだった。


「それに神道流の流れの者が多かったのもいかんな。あれは積み上げる剣じゃ、時間が掛かる。一刀流や念流の様な削ぎ落とす剣も 善うした者は中々居らぬじゃったのう。上の者は早々出て来ぬしの。 まあ所詮は 闇討ち不意打ちの輩じゃ。その様な態で士道云々とは片腹痛いわのう。」

そう言ってカラカラ笑う。

なんか想像と違った…薄っすら憧れてただけに寂しいなあ。


「真っ向勝負では 大方は薩摩とやらの輩の方がまだ幾分上手じゃったな。示現流…とか言うたか。あれは元は京八の流れじゃの。まあ本来の技からすると随分と単純になっておる様であったが、剣の時代も終わろうかと言う頃の事。アレくらいが簡単で良かったのやも知れぬな。」



歴史なんてものは霞の向こうにあるからこそ面白いのかもなー。ちょいガッカリ。





「お茶をどうぞ。」

稚日わかひがお茶を淹れてくれる。

「む、かたじけない。」

お茶を啜る

「うむ。ダーリンのお茶も美味かったが稚日女(わかひるめ)殿のお茶は格別じゃ。」

「ありがとうございます。」


「ほんに、こうした美味い茶を喫する事が出来るのも すずしろの手柄じゃ 好うした。自慢の娘じゃ。こちらに来やれ。」

そう言ってすずを抱き寄せる。

「ははうえ〜。」


すずを抱いたまま稚日わかひに語りかける。

「あちらは新たな稚日女尊(わかひるめのみこと)様が御成になられたが…今後はどう成されるおつもりかの? 神としての立場もなすべき務めも在ろうと存ずるが…。」

「そうですね…考えが無い訳でも無いのですが…。」


そう言うと 稚日わかひはチラッとこっちを見る。


「未だ確と腹積もりも出来ておらず、また、相談も必要かと思いますので今暫くはこのままかと…。」

何か相談しないと拙い話でも有るのかな?


「左様か。またわらわ か すずが必要ならば何時でもお頼り下さりませ。」

「御心遣い感謝します。」


すずを抱いたままで立ち上がるとそっと下ろし頭を撫でる。

「さて、母は往ぬるぞ。父上の言う事を良う訊いて健やかにの。さらばじゃ。」

言葉の終わりとともに姿は掻き消えた。

「………………。」


なずなさんが今立って居た方に向かって そっとお辞儀をする すず。

きっと母娘にだけ通じる何かがあるのだろう。





こんな時に あんたまで父上言うな!とか言うツッコミは野暮だよな。

お読みいただきありがとうございます。

感想とか 採点とか頂けたら とても励みになります。


幕末云々流派云々や剣技が〜云々は適当なでっち上げですので怒らないで頂けると助かります。

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