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ポコぽこポン!  作者: いぐあな
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九月十一日之事_____十六話目

今日は早朝から 大日孁(おおひるめ)様のいる綿津見社の傍の港に釣りに来ている。

「とうちゃん、釣れへんねー。」

ぽこが言ってる横で俺も釣り糸を垂らしているのだがまるで当たりがない。

「そうやなあー。」

最初は沢山釣ってやろうとか言っていたがもうすでに心が折れている。


「……………ちちうえ〜。」

ちょっと離れたところで釣っていたすずが、竿をしならせながら こちらを呼んでいる。

「おおっ! 釣れてるんかー!ちょ ちょい待ちぃーーー!」


慌てて網を持ち、急ぎ すずに近づくと ごぼう抜きで引き抜いた鯖が真っ直ぐこちらに飛んできた。

「あたっ!」


30cm近くはあるだろうか、結構な大きさである。

「すずちゃんすごいなー。」羨ましそうに鯖を見る ぽこと

「……………。」褒めて欲しそうなすず。


頭の一つも撫でてやりたいが鯖を持った手ではなんとも出来ない。


「ちょっと待っててなー。」

そう言って急ぎ走って、船揚げのスロープで鯖の頭をもぎワタを取って血抜きをする。

そのついでにしっかりと手を洗いすずのところに戻る。

海水用のハンドソープ、マジパネエ。


「さあ来い!」

両手を広げ構えるとすずが飛び込んで来る。

「ちちうえ〜。」


周りの釣り客が笑っているが、その辺は何とかの掻き捨てで誤魔化す。

その後は何匹かアジが釣れたがその度にぽこすずのハグ合戦で俺自身は 全く釣りにならなかった。


で、その間稚日女尊(わかひ)はと言うと綿津見さんの神事のお手伝いをしていた。

俗に言う【秋祭り】という奴である。



「あ、おねえちゃんや!」

ぽこが指差す先に稚日(わかひ)が居た。横にはおおひるめさんが居る。

稚日(わかひ)は普段家で着ている生成りの作務衣では無く白衣緋袴に千早を羽織り、凛とした姿で社殿の奥 、御神体の脇に居るのが見える。

その前では神職が祝詞を奉じている。


神道の儀式など今まで見る機会もなかったのでとても新鮮だった。

秋に実り多きを神に感謝する。人の素朴な感謝の心のなんと美しい事か。


宗教本来のあるべき姿。 魂が洗われるようだ。



教団熱心な信者だった母親の影響で 物心つく以前から【ご本仏様】の教え以外は全てが邪教、と教え込まれ続ける生活を送った。


曰く、神域に近づくのもダメ、鳥居を潜るなど以ての外。邪教の建物に近づくだけでも地獄行き。

曰く、邪教は害毒です、邪教の信者達を害毒から救ってあげる為にも徹底的に口撃しなさい。

曰く、御守りを拾ったら落とし主の為にも焼きなさい。放っておけば魔の働きをします。

曰く、この教えの為なら 何をどうしようと巡り巡ってその相手と自分を救う事になるのです。

曰く、そうしなければ 相手はもちろん 行動しないあなたも邪教の魔の害毒で堕地獄です。


この教えの行いが当たり前になるまで、そんな事を何かにつけて刷り込まれる。

家で親に、信者宅の会合で多くの大人に、教会堂で幹部信者に。それこそ何万回も……のレベルだ。

当然だが、生活は その基準全てが『先ず教義ありき』なものとなる。

例え、そんな生活に違和感を持っても それ以外の生活を知らないから その違和感を『勘違い』で頭は処理する。

偶に出来る外の世界の友人も その違和感が原因で離れていく。

だが、下手に規模のデカい団体なので生活がその手の内で成り立ってしまう。


幹部信者が言っていた。

『地獄と言うのは 堕ちて そこで生活している本人が それと気が付くのは本当に難しいのです。』

それだけは本当だった。地獄に居る本人はその事には滅多な事では気がつけない。

知らぬ間に地獄に住み続けている…まるで呪いだ。



「………ちちうえ、ダメ。」

気が付くとすずとぽこが不安げな表情でこちらを見つめていた。


「ああ、ありがとう……。」

あの地獄に心を持って行かれると つい入り込んでしまう。



作務衣に戻った稚日(わかひ)が社務所から出てきた。

稚日(わかひ) お疲れ様ー。もうお仕舞い?」

「はい、この後姉神様にお話があるので もう少し掛かりますが。…ところでお魚は釣れましたか?」


「……………これ。」

「ぽこも釣ったでー、これとこれー。でなー、すずちゃんこの大きやつやねん。」

二人は得意げに、袋に入った獲物を稚日(わかひ)に見せる。

「まあ、すごい。たくさんですね。帰ったら…煮付けと南蛮漬けがよろしいかしら?」

ああ、まるで本当の家族みたいだ。

見ているだけでも、そこに自分の居場所を感じられて本当に幸せな気分になる。 ありがとう。


「お兄ちゃん、どうしました?」

「いや、なんでも無い。未だ暫く時間かかるならこのまま夜店回ってるけど…?」


「そうですね。そうしたらまた後でお願いしますね、お兄ちゃん。」

「うん。また後で…。」


稚日(わかひ)は去り際に 通力でぽことすずを浴衣に変えると社務所へと戻って行った



「なあなあ とうちゃーん!これ! これなんなん!?」

子供っていうのはどうしてお祭りの屋台とかあんなに興奮するんだろうな。

ぽこは早速はしゃいで手がつけられない。


気を引いたのはスーパーボール掬い。

すずの手を引いてぽこの後からついて行く。

ボールが流れるプールには 溢れんばかりの色とりどりのボールが 水に濡れ照明を受けキラキラ輝きながらスーッと流れている。


それを一目見たすずもプールの輝きに負けないほど目をキラキラさせて見入っている。

「……………………きれい。」


「良し、二人ともやってみよか?」

店主のオヤジからポイを二つ受け取り二人に手渡す。


ポイの裏を見たり 灯りに翳したり ぷるぷる振ってみたり、合間合間にこっちをチラ見する二人。

やり方の説明必要か…でも俺、これやった事無えんだよなー。

と思ったところで 丁度他所の親子連れが始めた。

「あれ見てみ、おんなじ様にしたらいいねん。」


………二人羽織で始めやがったよ! ザケンナ!俺の期待を返却しやがれ!

ポイを持って目を輝かせてこっちを見てる、ぽこすず。

「………………順番なー。」


どうにかこうにか一個づつゲット。

ラメ入りのそれを灯りに翳しうっとりしている。

こんな物でも二人には宝物になるんだろうか?


今更だが、使い捨てカメラでも持ってくれば良かったな、と後悔する。


二人、初めてのたこ焼きに挑戦。ハフハフ言いながら一人4個づつ。

二個食べたところですずが一個差し出して「ちちうえ、あーん」とやる。

それを見たぽこも負けじと「とうちゃん、はい」と言って差し出してくる。


「ありがとうなー、」と言いつつ口を開けたら熱々二個 同時に突込まれてヤケドするかと…。


戦利品は【魔法少女まじかる☆まりりんRe】の まりりんとマモリーヌのお面一個づつとりんご飴人数分。



「さて、お姉ちゃん迎えに行こうかー。」



社務所の前で おおひるめさんが 稚日(わかひ)を支えていた。

「こんばんは、稚日(わかひ)、どうかしましたか?」

「それがですね…………」


なんと社務所での相談の最中に 来客全員へ景気付けの振る舞い酒が出たらしい。

「 で、呑んだと…。」

「はい、5合ほど。 昔は良く二人で赤酒を呑んでたので大丈夫かと思ったのですが…。」

恐らくその稚日女尊とは違う。稚日(わかひ)が酒を飲むなんて聞いた事無いからなあ…。

稚日(わかひ)の事だ、姉神様に勧められて断れなかったんだろう。


「あ〜おに〜ちゃんれす〜ねぇ〜」

あ〜あ〜 稚日(わかひ)さん、しっかり出来上がってらっしゃる。

「おねーちゃんお酒くさいー。」「…あねうえ まっかっか。」


「仕方無いなあ。」

流石に荷物が邪魔なので 持って来ていたミニリュック二つに分けて ぽこすずに任せる。


稚日(わかひ)を背負う。 お酒の匂いぷんぷん…。

「おおひるめさん ありがとうございました。じゃあ帰ります。」

「うふふふ〜稚日女尊は幸せですね。それでは近所のお社に繋ぎますね、おやすみなさい。」


そんな言葉を聞くと同時に 川沿いのお社の前に出ていた。


稚日(わかひ)を背負ってのんびりと帰る。

「おに〜ちゃんはやさし〜れすね〜…。れも いじわるれす〜。」

「はいはい。」


「わらくしはぁいつまれ いも〜となんれすかねえ〜。」

「ずっとだよ、ずーっと。」


「ずっとれすか〜…。」

「大事な妹だからな。」


「ん〜、だいじなら〜仕方がないな〜うふふふ〜…………ぐぅ。」

そうだよ、仕方ないんだ。

「おねーちゃん、寝てしもたー。」

「そうみたいやなー。」


「あー、そういえば 稚日(わかひ)の巫女装束姿、まだ褒めてなかったなー。」

「………あねうえ 綺麗だった。」

「そうだな、とっても綺麗だったな。」



「…………………っ……。」



…………愛しの我が家が見えて来た。

何時も読んでいただき 誠にありがとうございます。



作中の宗教がらみの教義や儀式、名称などはほぼ創作です、そうかと笑って流して貰えると助かります。

ホント、適当ですみません。

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