九月四日之事_____十四話目
夏休み期間のアニメ再放送祭りもとうに終わり、暦の上では既に秋となっている。
仕事に復帰して最初の日曜日。
「はいこれ。二人とも、危ないから他の人を叩いたらあかんで?」
昨夜、納戸を引っ掻き回して探し当てたビニール製の日本刀のおもちゃだ。
うまい具合に二本あったのでぽことすずに手渡す。
こんなおもちゃを二人ともが欲しがるのは どうやら夏休みのアニメ再放送でやってた【魔法少女まじかる☆まりりん】でチャンバラにハマったから、らしい。
で、ついさっきまでやってた続編の【魔法少女まじかる☆まりりんRe】でさらにズッポリになってる。
あと、ゲームセンターで取ったヌイグルミが山ほど出てきたが、それは今洗濯機でぐるんぐるんに回っている。お互いを叩くと危ないのでそれ用にヌイグルミも用意しようと言うわけだ。
さっきから庭先でまりりんとマモリーヌに扮して「まじ狩るよー」「この子達は狩らせない」とやっている。
で俺は今、何をしているかと言うと…………。
ぽこはそれほどでも無いのだが、すずは構えとか足捌きとかが子供の遊びにしては尋常じゃないのでぽこが怪我をしないように見守っているのだ。
とは言っても実際には出来る事は少ないのだろうが。
しかし…。
構えも脇構えだったり担いだり蜻蛉だったりで、余り正眼に構えない。…何処かの古流じゃろか?
ぽこが振った刀をタイミング合わせて八相に構え直すだけでいなすとか…なにこれすごい。
すずの刀は ぽこの各急所をピタリピタリと抑えている。が、当ててはいない。
思ってたより遥かにレベル高え!
これは 体格さえ何とかなったら、女子高生の剣士とかじゃ全く相手にならんだろうなあ。
それにしても白髪ケモ耳の美少女巫女剣士、尻尾付きとか……………どんだけ属性盛るのよ!って話だ。
「お兄ちゃん、ぽこ、すず、お薄を淹れましたよ〜。」
稚日が盆にお茶とお茶請けを載せて くれ縁まで出てきた。
ぽことすずはお茶とおいなりを堪能すると とっととチャンバラを始める。
よっぽど楽しいのか二人とも夢中だ。
「まあ、すずは流石ですね。武芸百般 なずな様のお仕込みが宜しいようで。」
「稚日も すずがすごいの見て分かるんだ?」
「はい、見る分には〜ですが。すずとなずな様のお稽古も幾度かは拝見した事もございます。お陰で目が肥えました。」
「なるほど。すると、なずなさんがすずの師匠なんか…。」
「あの方は剣がお得意ですからね。……何でも手慰みに京八流の内 中条流を修めたと。……あと…新撰…何某一党も手ずから鍛えられたとか…その辺りは噂にちらと聞いた話ですので良く分かりませんが…。」
なんか凄い話を聞いた気がする…………。機会があればちょっと聞いてみたい。
「そういえば…なずな様と安寿様、お二人とそのお弟子さんとで日露の大戦とやらに出番られたお話をお聞きした事があります。何でも、危機に陥った日の本の軍勢をお救いして 次いで 競い敵陣に切り込んだとか。」
はあ〜…。あの二人…仲がいいんだか悪いんだか…。
それはそれとして…
「神様って人間の戦争に参加したりもするんか〜。 それ、反則ちがうのか?。」
稚日が否定する。
「いえ、それも古来より神の仕事の内なのです。神が戦さ場に出張る事で双方の被害を抑える事になるのですよ。尤も、外つ国との戦では儘ならぬ様ですが。」
「それに神と言ってもそれほど万能では無いのですよ…矢傷刀傷で死ぬ事だってあります。」
その辺がどうも神様のイメージと重ならないんだよなー。
天地を創造し、絶対的な力を奮う、畏怖すべき不滅の存在…ってのが大方の人のイメージする【神】だと思う。
「本で読みましたが 核と言われる武器などは明らかに神の力の及ぶ範囲から逸脱しております。神が如何に力を奮おうとも10万、20万、などと言う途方も無い数の人間を鎧袖一触に屠るなぞ出来はしません。」
最近、良く本を読んでいるなーとは思っていたが色々と学んでいるらしい。
お宝は既に隠したので幾らでも読んで学んでくれ。
「力とは能力ある者が御せる分を弁えて奮うのにはそれほど問題は無いのです。奮う能力の無い者が御し得ぬ力を手に入れて奮う……これこそが恐ろしい。力に溺れ善悪を忘れ安易に力を奮い弱きを嬲る。……そこには悲劇しかありません。」
稚日に言わせると、「こんな、力に溺れる為の道具など 神には間違っても作れるものではない、」だそうだ。
稚日は最後に こう言い残し盆を持って台所に戻って行った。
「お兄ちゃんは力に溺れたお話がお好きな様ですので 現実では力に呑まれぬ様にお気を付け下さいませね。」
おい!ちょっと待て‼︎ 俺のお宝いつのまに読んだよ⁉︎
◆
あの言葉の後の夕餉の食卓の何と気まずい事か……。
まさかこの歳になってお宝本を母親に発見される気まずさを味わう事になろうとは思わなかった。
流石にぽことすずには聞かれたく無いので 食後二人がお風呂の時を見計らって聞いた。
「あのさ、アレって隠してたと思うんだけど…。」
「あれは ぽことすずが見つけました。お家の探検〜と言って あちらこちらを漁ってましたから。ぽことすずが 二人でわたくしの所に持ってきて これは何だと。」
ぽこすずー!何してくれてんのー!
「なんて答えたの?」
「お兄様の大事なものではないか? その内 機会があれば尋ねて置く、と。放って置けば直忘れるでしょう。」
ううっ、何という模範解答…。まるで女神様のようだ。
「お兄ちゃん、あのですね…『妹凌辱 〜私は玩具』は 兎も角『幼女監禁ペケペケにゃんにゃん』というのは流石に如何なものかと……。」
許してぇ!タイトル読み上げとか しないでえぇぇぇ‼︎
「違うっ!それは後輩に押し付けられて!」
「いえ、何も男女の営み自体をどうこうと言う訳では無いのです。生きて行く為には大事な事ですから。ただ出来れば和合こそが望ましいと思うのですよ。…それと絵草紙とは言え未だ印も来ない童女をあの様に嬲ると言うのは如何なものでしょう………。」
中までしっかりと確認されてるぅ!
この手の話題は あの母親すら さりげなくスルーしてくれたのに………何この羞恥プレイ。
「流石に容認出来ませんでしたのであちらは処分致しました。 良かったですよね、お兄ちゃん?」
稚日の 生温かい笑顔が俺の心を鷲掴みですよ。捕獲されたうさぎの様に身動ぎ一つ出来ません。
「…………………………はい。」
ホントに後輩に押し付けられたんだってば…………。
稚日さん 理解があるやら無いのやら…とほほほ。
いつもお読みいただきありがとうございます。




