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ポコぽこポン!  作者: いぐあな
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八月十二日之事_____十話目 後


『これはわざわざありがとうございますー。』

摂社さんの方にも連絡の窓口があるとの事で、直接連絡したのだが 随分と喜ばれた。

『それではお電話このままでー、社神に代わりますねー。少々お待ちくださーい。』


偉い神様と直接やり取りしたくなかったので、早めに用件だけで切ろうとしてたのだが 切るタイミングを上手く外されてしまった。

『もしもし、(わらわ)は稚日女尊様の摂社の一つを預かる者で名をなずなと言う。此度は我が眷属が大変世話になったの。大儀で在る。心より礼を言うぞえ。』

なんか変なの出た。ここは穏便に早く切る事を考えよう。

『して、その方…慎太郎とか申したの。そなたを見込んで頼みが在るのじゃがの。』


「あ、謹んでお断りします。」

ふう、これで一安心。

『慎太郎はせっかちじゃの。まだ言うて居らぬぞ。』

カラカラと笑う。こいつ手強い。


『アレは眷属と言うてもちぃと特別でな。 (わらわ)の分御霊なのじゃ。』

いかん! これ 聞いたら断れない系かも!…フラグ折り、しくじったか?


『いずれは後継に、と思って居ったのじゃが…情操の育ちに随分と難があっての。』

「うん、俺には無理ですね。」

三十路独男に何を期待しているのか知らんが、フラグ放置は危険なので ここはバッサリ行っとく。


『そなた、存外に容赦無いな…。まあ良い。 我が娘とも思うておるアレの情操教育を任せたい。』

「駄目です。」


『安心せい。 ちゃんと養育費とやらも払うぞ。父としてあの者を正しく導いてやってくりゃれ。』

「いや、だからですね…『そうか、よう判った。』…判ってくれました?」


(わらわ)も そちらに行って共に育ててくれようぞ。いやあ、まさかこの歳になって嫁入りする事になろうとはの。長生きもしてみるもんじゃのう。』

……なんでそうなる。

『喜べ。(わらわ)のおっぱおはデカイぞ。』

……あ、いや…。



はっと気がつくと 襖の隙間から 顔を出してこちらを伺う三つの影。 上から 稚日(わかひ)、すず、ぽこ。

「うごっ‼︎」

神速で懐に飛び込んでタックルした すず が頭をグリグリと擦り付ける。

「…………………………ちちうえ。」

いや、そこ折れてますから。ちょっとは手加減してほしかったなー。

「お兄ちゃん‼︎ わたくしと言う者がありながら‼︎ 『ちちうえ』とはどう言う事ですか‼︎ すずしろ様も離れて‼︎」

稚日(わかひ)も俺の首締めるな、落ち着け…。いや、マジちょっと肋骨痛くて息苦しい…。

『なんじゃ、ダーリン。祝言前から浮気とはなかなかやるのう。まあそんな事どうでも良い。骨と言わずナニと言わず、(わらわ)手ずからぶっこ抜きにしてくれるわ。 わっはっはっはっは〜。』

「ちょっ! お兄ちゃん‼︎ 電話変わって‼︎」

稚日(わかひ)が受話器を取り上げて大きな声で何事か話している。が、俺の方は肋骨痛くてそれどころじゃ無い。

「……………ちちうえ、好き。」と縋るすずを真似をして 同じ様に「とうちゃーん!」とぽこも始めやがった。



現在、応接間で行われているコレは……論功行賞?御前会議?…それとも軍事裁判?

なんと呼ぶべきかは分からないが、俺は今 この混乱に収拾を着けた 稚日(わかひ)の前で 正座で畏まっている。

正に借りてきたネコの気分である。あ、まな板の上の鯉か。……俺の所為じゃ無いのにね。

そんな俺と相対するのは 引き剥がされた ぽことすずの襟首を 掴んだまま正座している稚日(わかひ)

子猫の様に首根っこを掴まれ、両の手をこちらに向けてか細い声を上げるすずとぽこ。

「ちちうえ〜。」「とうちゃ〜ん。」


「兎も角! なずな様とは話が着きました!すずはここで面倒を見ます! なずな様との縁談は無期限延期!」

ここまで言うと ものすごくステキな笑顔で噛んで含める様に…


「それでよろしいですね、 お兄ちゃん?」


「はい…。」

笑顔なのに目が笑ってないよ。怖いよ、稚日(わかひ)さん。 あと、ろっ骨痛い。



砂山の上を若干平らかにして 野菜の牛馬を作った余りの端材を細かくして火を着ける。

里芋の茎や竹ひごなんかを代用にする場合が多い昨今ではあるが 俺としては 処分や加工のしやすさから白樺の割り箸をお勧めしたい。


昔は麻の茎を使ったらしいが 大麻の原料なので今どきこれを使うのは無理がある。

尤も昭和三十年くらいまでは取り締まりも緩やかで簡単に手に入っていたんだとか。

よくよく考えると、降霊の際に麻を焚きトランス状態を作る、というのは古代の精霊信仰的に随分合理的なのだ。

そういった行事がほんの半世紀前まで現代の先進国にそのまま残っていた事が驚異的ですらある。


とは言っても 形式だけ残った こんな七面倒臭い行事が、もうどれほども…この先いつの世までも続くものか、とも思っている。

田舎の戸建てだから出来るのだ。 都会の賃貸アパートやマンションでやってたら馬鹿である。


そんな ある意味バチ当たりな事を 砂上の迎え火焚きながら考えてるんだから 宗教の縛りの怖さが分かる。信じていなくても しなければ落ち着かない。なぜか罪悪感が湧くのだ。


ーーーーーまさしく 呪い である。


そんな事を考える俺の横に居るのは

女神、神の孫、神の使い。

一緒に火を見つめるこの娘らは何を想っているんだろう。


ぽこが口を開く

「なーなー おにーちゃん、ぽこお腹減った。」

「ちちうえ、すずも。」

お前ら俺の感傷ちょっと返せ。

「では…お兄ちゃん、わたくしが作りましょうか?」


なに⁉︎ 稚日(わかひ)が料理⁉︎ 出来るのか?

お茶を淹れる事が出来るようになったばかりなのに⁉︎

…………不安なんてもんじゃ無え!


「えーと、稚日(わかひ)の気持ちは嬉しいんだけど せっかくなら一緒に作りたいなー…なんて…。」

「でも…ここでわたくしの女性としての地力をみせn「人は仲の良い男女で一緒に料理したりするんだよ。」…もぅ お兄ちゃんてば 仕方無いですね〜うふふ。」


さっきからなずなさんへの対抗意識が見え隠れしてたので逆手に取ってみました、はい。

稚日(わかひ)は意外にも悋気深い質の様で 以前との余りのギャップに驚きの連続だ。

たった数日、一週間ほどでここまで懐かれて本当に嬉しいのですが 嫁いびりする小姑にならないか、お兄ちゃんとっても心配です。



予想外の事なんだが 稚日(わかひ) は料理の基礎はかなりのモノを持っている風に見えた。

包丁捌きや下拵えなんかの作業は完璧。寧ろ俺は邪魔でしか無かった。

ただ、うちにはもう(かまど)は存在しないし、七輪で煮炊きもしない。

この半世紀の科学技術の進歩によって、『炊事の労働量が1/10になった』とも言われる 今の世に、中世に生きる人間を放り込むとどうなるか…という事だ。

俺だって、今直ぐ近未来に行って 今の時代より超楽チンな建築用巨大ロボ運転しろって言われても多分出来ない。

ダイヤルの電話や和式便所を使えない子供が居るんだ。なにがおかしいものか。


というわけで 稚日(わかひ) を慰めるのが大変です、ダレカタスケテ。

「お兄ちゃん、稚日(わかひ)はダメな娘です…。」ぐすっ

一人称が幼児退行したよ、こんちくしょう。


恐らく、自己評価が低いと思われる稚日(わかひ)が密かに自信を持っていたのだろう部分、圧倒的なはずの女子力に時代が壁として立ち塞がるとは…稚日(わかひ)にとってはまさかの超展開!だったはずだ。

こういうのは得てしてダメージがデカい。


「そんな事無いよ!稚日(わかひ)の包丁捌きとか、とっても上手だったよ!」

それは間違いない。 ただボタンやレバーで機器を操作するのが出来なかっただけだ。

現代ではそれが料理の際、致命傷になる と言うのは 稚日(わかひ)の所為じゃ無い。仕方ない。


稚日(わかひ)、 大丈夫だから。お兄ちゃんと一緒にちょっとづつ頑張ろう、な?」

「はい…。」ぐすっ



迎え火の延長戦、 待ってました花火の時間です。

近年、片田舎のこの辺りでも迎え火送り火を花火でお手軽に済ますご家庭が増えている。

うん。気持ちは分かる。だって面倒だもの。


子供騙しの小道具ではあるが今までの情報から 稚日(わかひ) と すず は花火を知らないのは確定だ。

ケモノに囲まれた日常では それも当然と言えよう。

で ぽこ はと言うと「あの『ドーン!』って言ううるさいやつやろ。怖いから何時も隠れるねん。」と。

良し!ぽこも初見確定だ! ならこのチャチいファミリーセットは最適だ。


これで 稚日(わかひ)のテンションを底上げするっ!


まずは吹き出し花火で驚いて貰おう。

安全を確保するラインを引いて置いた花火に着火。

ここから出て花火に近づいちゃいけません。


『 ぶしゅしゅーーーーーーーーーーーーーーーバチバチバチバチーーーーーー‼︎‼︎ 』


「 ‼︎ 」「 わ!」「 ……‼︎ 」


いい音を立てて吹き上がる金銀の滝の様な火花!


これを初めて見たんなら衝撃的だろう。

ドラコン花火は単色で短いが初見のインパクトは凄まじい。

三つほど並べたら かなり見栄えもする。


なんか、三人して立ったまま呆然とした風になってる…。くっくっく…暗黒微笑が止まらねえ。

さぁ、まだまだこれからだ!

それでは、手持ち花火に着火して渡してやるか…。

「……。」「……。」「……。」


ん?なんか三人とも様子がおかしいぞ?

順繰りに花火を渡してやるのだが反応悪い、というか無反応っぽい。

「ほら、これも綺麗なんだぞ〜。」

などと、盛り上げる為にアレコレ話し掛けつつ花火を渡す。……が、改善されず。

そうこうしてたら とうとう終わってしまった。


ファミリーセットなんて四人で5回ほどもやれば終わってしまうくらいのものだ。

残りは線香花火だけか…残しても仕方がないので銘々に手渡しロウソクを用意してやる。


『 シューーーパチパチ……ピチピチ………ピチピチ…』


「…………。」

「…………。」

「…………。」


三人とも大きく溜め息を吐いて黙ったままで部屋に入ってしまった。

なんか失敗したかな…。良い反応を期待してた分こっちのテンションも怪しくなって来た。


後片付けするのもなんだか虚しく感じる。

何事も準備の時が一番楽しいってホントだよね。

失敗するなんて微塵も想像して無いんだから。


その後、おはぎとお茶で釣って話しかけたりしたんだが三人が三人、上の空のままだった。

おはぎ美味しいのに。

自分のテンションすら回復出来ず、結局 入浴しても変わらないそのテンションのまま寝てしまった。

がっくり力抜ける…。



朝、三人とも珍しく思い切り寝坊している。

何か予定がある なんて事もないのだが朝食は揃って食べたい。

すずの情操教育を言うなら食事はみんな一緒でないと意味がないのだ。


昨夜の変なテンション低下を引き摺らない様に!と力を入れる! よしっ!


「おーい! 朝やでー! グッドなモーニンやでー!」

そう声を掛けて襖を開けると三人とも一斉にガバッと起き上がる。

で、三人ともが挨拶もせずに俺の顔と互いの顔、布団をキョロキョロキョロキョロ…。


「あー…。」

この仕草は心当たりがある。

結果は分かってるがなんでそうなったのかが理解出来てない…。

そんな感じのパニック状態だ。


時機に落ち着いて動きが止まる。

が、その前に指示を出さねば。

「はい! みんな! 朝ごはんの前にシャワー浴びてこようか!」


バランス釜に火を入れて風呂場からもう一度声を掛けてやる。

おずおずとやってきたので入れ替わりで布団を片付けに行く。


やっぱりか…。



見事な異世界地図が描かれている。


三人分だからな。稚日(わかひ)の神通力とかで一瞬で乾かせんかなあ…。

すずとぽこには悪いが 俺が二人だけの仕業だと思っている体でお願いしようかな…。

ともかく取り敢えずの処理はせねば という事で、布団は物干し竿に干し 霧吹きで焼酎を吹き掛け、シーツやタオルケットなんかは出しっ放しのプールに放り込む。

…う〜む。ここまでしたら 放っといても乾くか。 みんな ソッとしといてやろうか。


三人には絶対内緒だが俺も中二でやらかしたからな…………………。


ちゃぶ台に朝食を人数分用意して、と。

お通夜状態でモソモソとご飯を食べる三人に昨夜の花火の感想を聞いて気分転換を図る。

すると…

「あんなー! すごいきれいでなー! ぽこびっくりしてん!そんでなー……」

「あんな美しいのはわたくし初めてでドキドキしてしまい、なんだか夢のようでー!

「…………すごかった。……………お社様にも見せたい。 ……………ちちうえ、またお願い。」

食事の手が完全に止まってしまって話が終わらない。

すごい事になってしまった。


昨夜はテンション突き抜けすぎてパニック起こしてたようだ。

〜で、おねしょした…と。 子供の頃よく言われた、火遊びすると…ってヤツだ。


こういうのは実年齢関係なく無意識下に抑圧されてる幼い部分が現れたら起きるとかなんとか?

まあそんなの関係なく、酒飲んで熟睡してる大人の肘から先にタオル載せて、そこに人肌のお湯をかけ続けたら 大抵は漏らすらしいからな。

ナマコなんてビックリしたら内臓漏らすんだ。それに比べりゃ女神様のおねしょくらい良いじゃない。


ともあれ、孝蔵さんの言ってた通り、神様とは言っても人間の延長線上の存在なのだろう。

ならば三人とも人の子を育てる様に相手すれば良いはず。

うまれたてのぽこ、情緒発育不全のすず、自信喪失が顕著な稚日(わかひ)



これも何かの縁だ。無理のない範囲で良いなら。…………そう思う。


何時もお読みくださり有難う御座います。

書いてて、『書きたい気持ちが空回りしてるなー』とは自分でも思ってはいるのですが能力不足でどうしようも無いです。

そんな作品ですが呆れずに読んでいただけると嬉しいです。

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