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ポコぽこポン!  作者: いぐあな
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八月十二日之事_____十話目 前

「こーら、ぽこ。 その砂山で遊ばない!」

迎え火を焚く準備の最中に砂山を崩して遊び出したので注意する。


昔から我が家の盂蘭盆の支度には川砂で山を作りその上で迎え火を焚くと言う慣習がある。

使った砂は供養後川に返すのだが、この慣習、祖父母の代から教団の熱心な信者一家だったが 教団の教義には無いものであり、然りとて 迎え火の際に砂で築山を作る家など この近所には無い。

ひょっとすると自身のルーツに絡む話なのかも知れないのだが 聞こうにも聞くべき相手は今夜彼岸から帰ってくる予定の連中しか居ない。

「そういえば、神様とは話したが死人とはまだ無いな。」


今、稚日(わかひ)は初めてのお使い、と言う程でも無いが 近所のスーパーに買い物を頼んでいる。

極々簡単なもので、小瓶の清酒、落雁、饅頭、花火セット。

こっそりと着いて行こうかとも考えたが、心配し過ぎも良く無いだろうと辞めておいた。

とは言っても心配だ…………ちゃんと買って来られるだろうか。


「なーなー、にーちゃん。これで良いのん?」

くれ縁に置いた盆に 胡瓜の馬と茄子の牛を飾ってくれた様だ。

ブタの蚊遣りに火を着けた蚊取り線香を入れ、後は稚日(わかひ)の買ってくる物を待つだけだ。

それにしても、オバケ胡瓜もいつのまにか馬になっているのは笑ってしまった。 …こんなモノ、何時の間に作ったんだか。

オバケ胡瓜はヘチマに似た大きさ 形の瓜で細かく切って漬物にする。雨が多い年は直ぐに収穫しないと身が腐るのだが今年は豊作だった。

全く、家庭菜園もどきも馬鹿にしたモンじゃ無いな。


蚊取り線香の段取りをしてしまうと暫くはする事も無くなってしまった。

「盆提灯も出そうか」と悩むが、今更納戸を引っ掻き回すのが億劫なのも確かだ。

少し迷ったがやはり当初の予定通り出さずに、で 気が向けば来年は出そうと思う。


「お姉ちゃん迎えに行こうか?」

「うん!」

正体がたぬきなだけあってか ぽこの成長は早く、身長はそろそろ1mくらいになっている。

俺自身が小学校入学時の身体測定では99cmだった事を思うと ぽこは6歳児並みと言う事になる。

「いや、今時の子供だともう少し大きいのかもな。」

ぽこの手を曳きつつ ぶらぶらスーパーへ向かう。



何時ものスーパーが見えてきた。

徒歩圏内にあるスーパー三店のうちではここが一番安く、それでいて品も言うほど悪くは無い。

さすがにお盆だけあって随分と混雑している様子が離れていても分かる。

「凄い人出だなあ。」

もう買い物も終わっているかも、と入れ違いにならないようにここまで注意していたが何のことはない、スーパーの入り口傍のベンチに腰掛けて誰かと会話している。

「あ! おねーちゃーん!」

稚日(わかひ)の姿を認めたぽこが駆け寄っていく。


ベンチに座る稚日(わかひ)に ぽこが(じゃ)れ付いている所に声を掛ける。

稚日(わかひ)ー、買い物出来た?」

「お兄ちゃん! ちゃんと出来ましたよ、ほら!」

そう言ってスーパーの袋を広げて見せる。お駄賃がわりの小さなスナック菓子がいくつか入ってるのはご愛嬌である。

稚日(わかひ)は人相手の買い物はこれが初めてらしいので心配だったが問題無かった様だ。


「ところでー………。」

稚日(わかひ) と会話していた人物を見やる。


「………。」

礼儀正しく立ち上がって綺麗なお辞儀をする。

その姿は白衣緋袴で背丈は ぽこと同じくらいだ。

おそらく肩甲骨の下くらいまではあろう白絹の様な真っ白サラサラヘア、幼いのにキリッと引き締まった表情。まるで出来のいい陶磁器製の置き人形。

……で、頭のてっぺんに一対のケモ耳。

一目で分かる。 きつねだ。 ほら、尻尾もちゃんとあってぴこぴこしてる。

気の所為か、素敵な香りまでしてくるような…。

耳の間に柿の葉っぽいモノが載った磁器の様な顔を見つめて考える。

「…………………………。」じー

ああ、先月もこんな事あったよなーって……違う!

いや、まあ!俺は慣れてるから良いんだ!…良いんだが!

…違う!良くないぞ!スーパーの客ども!何でみんなスルーしてるんだよ!おかしいだろ!

「………………………………………………………。」じー

って言うか、この娘 さっきからずっーと俺の事、めっちゃ見てるー。

…これは所謂、お見合いと言う奴かー?

なんか気まずいんだが、何故かお互いに回避行動を起こせない、と言うアレだ。

変な汗が出てくる…ガマの油取るときってこんなかなあ…。

「……………………………………………………………………………。」じー

あ…あれっ?



いや、違う。そうじゃない。探られてる。

嫌な感じがしないので気がつくのが遅れた。

敵意が無い所為か。

相手の目から自身の意識を突っ込んでそのまま相手の中身の隅から隅まで(まさぐ)っている様な視線。害意がある奴はもっと乱暴だ。

熊手で引っ掻き回す様な雰囲気の視線になる。

「…………………………………………………………………………………………。」じー


尤もこの能力自体は珍しくもないものである。

持ってない人など少数だ。

ただ、この能力を育てて使うのは大抵の場合、相手を食い物にしようとしてるゴミくずどもだ。

詐欺師、

弱者に吸い付くダニ、

異性に寄生するクズ、

ブラック企業の経営者、etc.etc...



そして ……宗教家。



この張り詰めた空気を破るように 稚日(わかひ)が彼女を紹介してくれる。

俺の狼狽を察してくれたのか…助かった。

「 お兄ちゃん、あのですねー、こちらはわたくしが居たお社の摂社さんの神使様です。」


「…………はい。」

左手の袖口に右手を突っ込み弄って惣菜パックを出して俺に差し出した。

パックにはいなり寿司が一個。


「えーっと、………くれるの?」

予想外の行動に戸惑いながら聞くと 大きく頷く。

なんというか、期待たっぷりな視線でグイグイ喰い込み気味に見つめてくる。じー

「ありがとう、持って帰って食べるね。」

そう言って仕舞おうとしたら

「え? なんで?」みたいな表情になって固まった。

こっちこそ「なんで?」だよ。

「良いな、いいなー。 ぽこも欲しいなー。」チラッ

空気を読まない ぽこが チラッチラッとおねだりを突っ込んで来る。

「すずしろ様、また白衣の袖内に小物入れ付けてる………。」

稚日(わかひ)が何か言っているが声が小さ過ぎてよく聞こえん。


ーーー何という 渾沌(カオス)


こんな面子でスーパーの前でこうして居てもどうにもならない…。


「せっかく貰ったけど、おいなりさん一個だけだと物足りないからねー、みんなの分も買って帰ろうか?」

そう言った所、稚日(わかひ)が白ぎつねちゃんを自宅に誘ってくれたので どうにかこの場の収拾は着いた、……はずだ。



「改めまして、こんばんは。初めまして、加東慎太郎です。」

「あんなー、ぽこは ぽこ 言うねんー。」

スーパーで挨拶しそびれたので 家に帰って直ぐ、ちゃぶ台に おいなりさんを並べてから早々に挨拶。

「粗茶ですが……。」

稚日(わかひ)がお茶を出してくれる。 本当に楽しそうにお茶を淹れてくれるお陰で 淹れて貰うこちらまでなんだか楽しくなって来る。



現在、白きつねちゃんであるが正座でちゃぶ台挟んで対座している。

……着座時の座礼から今まで、ずっと視線はおいなりさんに固定されたまま。

そろそろ20分が経過しようかというところだ。


ぽこ はと言うといなり寿司を持ったままで こちらとあちらの顔を交互に伺い「果たしてこのいなり寿司を食べて良いものか?」と思案しているっぽい。


そうしてると白ぎつねちゃんがボソリと一言、やっと口を利いた。

「……………すず。」

きつねちゃんの名前…なのかな?

「えーっとですね、わたくしの居た社の摂社のお稲荷様のお使いですずしろ様です。」

通訳?の 稚日(わかひ)の紹介にいなり寿司に視線固定そのままでコクコクと首肯く白ぎつねのすずしろちゃん。

表情と仕草から察するに話したくない訳ではないらしい。

稚日(わかひ) に言わせると普段から余り人の相手をしない所為で語彙が少ないのでは無いかと。


「…すずしろさん、遠慮せず おいなりさんとお茶をどうぞ。ぽこもおいなりさんどうぞ。」

ぽこ も すずしろさんも 待てをされたままの犬みたいに見えてきて、余りに可哀想になったので勧めた。

するとすずしろさんは漸くこちらを見てくれたのだが またそのまま固まる。

「……………あの、…すずしろさん?」


「……………すず。」

「あの…すずちゃんと呼んだら良いのかな?」

ずいっと凄い圧力が掛かる。


「………………違う。…………………すず。」

そう言っていなり寿司を食べ始めた。


「すずしろ様はお兄ちゃんに呼び捨てに呼んでほしい様ですよ?」

通訳を入れた 稚日(わかひ) に向かっても かぶりを振って「…………すず。」とやっている。


ぽこはいなり寿司を齧りながら「すずちゃん 変なのー。」と他人事である。




冷めた茶を啜りながら独り()ちる。

はぁ、どうしたもんか…………。



「孝蔵さん、すずしろって娘知ってます?」

無口なすずからはそれほど多くの話は聞けず、このままではなんの判断材料もないので情報収集に掛かったのだ。

兎も角、情報が欲しい。

困った時の孝蔵さんである。 忙しい所をごめんなさい。


『はあーーーーーーーーっ。』

いきなりだな、おい。

電話の向こうで、すっっごい ふっかーーーい溜め息を吐いたのが分かる。

こんなため息吐かれたのなんて、宗教絡みで本気で母親に逆らった時以来だわ。


ーーー取り敢えず アレだ。

なんかもう メンドくさくなったから電話切って良いかな?

別に俺、どうでも良いし。


『加東さあーーーーん‼︎ ごめん‼︎ ちょい待ち! ちょい待ちー‼︎ 切らんとってーーーー‼︎‼︎ 』

受話器落としそうになる程の絶叫で【待った】が掛かる。

ああ、また口から溢れたか。

まあ良いや。溢れついでだ、言うべき事は言っておくか。


孝蔵さんは悪い(ひと)じゃないと思うし ぽこの祖父だ。

だからこそそれなりに礼儀を払っているが、それだけだ。それ以上でも以下でも無い。

自分個人としては、肩書きが神とか行者とか関係無く、偉そうな態度の宗教家自体を信用に値しないと考える。

勘違いして貰っては困るが そちらの社に対しては 稚日(わかひ)の件の所為で悪感情しかない。

例え神だろうと、宗教と言う括りで 上からモノを言う様な態度なら俺は友好的では居られない。

俺がそう言う輩に恭順する事は絶対に無いと思ってくれて構わない。


……などという持論を テキトーに破れかけのオブラートに包んでぶつけておいた。

ここまできたら正しく『言葉のデッドボール』だな、いや『ビーンボール』の方が近いか。

俺の宗教観は 母親のお陰で これ以上ない程歪んでいる自覚があるからな。


孝蔵さんが俺の言動をどう思ったか知らんが、こちらとしては 聞きたい事は聞けたので良しとしよう。

ま、聞けなかったとしてもあの溜め息だけで大方の察しは付いたし、事実その通りだった。

しかし、我ながら宗教絡むと沸点下がり過ぎて宜しくないな。


やっぱり と言うか何というか、すずは職場放棄と言う名の家出だ。

置き手紙も何もなかったのであちらでは現在、心配半分興味半分と言う感じでそこそこの大騒ぎだそうだ。

まあ 神の使いが神隠しじゃ、そりゃあ騒ぎにもなるわな。


稚日(わかひ)唯一の友達を自認する すず は 稚日(わかひ) の事が心配で堪らず家出した、と これは本人の言。

因みに 稚日(わかひ) を簡単に見つけられたのは 稚日(わかひ) の家出の手引きをしたのが すず なので行き先を知っていたから、と。

なるほど。



「さて、すず。 稚日(わかひ) と会えた今時点での君の選択肢だが…。社に帰るか ここに残るか のどちらか と言う事になる。」

「……………うん。」


「どうする? 簡単に答えを出せる問題じゃないのは分かってるから。取り敢えず今日は泊まってく?」

「……………うん。」




おいなりさんを食べ終えた ぽこ達は今 テレビで大人気の『魔法少女まじかる☆まりりん』の旧作再放送に夢中になっている。

魔法界から溢れ出たファンシーな不思議生物達をまりりんが魔法真剣を使って情け容赦ない感じに力の限り刈り尽くすんだそうだ。

決めゼリフは『あなたの存在、マジ狩るよ!』だと。いくらなんでも直球過ぎるだろ!

それって 子供の情操教育には如何なものか?

ヒロインを邪魔するライバル 不思議生物の守護者マモリーヌちゃんには視聴者のお子様達の為にも是非とも頑張って貰いたい。


この明るさじゃまだ迎え火は早い。

あと一刻…二時間くらいか。

今のうちにすずの所の神さまに連絡しておくかな…心配しているだろうしな。

大阪南部河内松原辺りはきつねを嫁にした、とか一緒に生活した、とかいう話が明治くらいまであったそうです。うちにも嫁に来てくれませんかね。

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