覚醒
蓮斗「なんだよ、これ……」
目の前の光景に蓮斗は目を疑った。夕焼けの様に輝いていたのではなく、森が燃えていたのだ。
それも火事などというなまはんかのものじゃない。
草木は廃になり、岩はまるで溶岩様に溶けていた。一体どれだけの熱を使ったらこうなるのであろうか。
直接息を吸おうものなら一酸化炭素中毒で倒れる可能性がある。
運よく持っていたハンカチをマスク代わりに使用した。これで多少は持つだろう。
それでも直接目を開けることができず、手で目元を覆いながら歩いている。
火花がちり、制服をついたことでその部分が焼け焦げていた。
蓮斗「人か……」
煙でよく見えないが、奥に何やら人影が見えた。
近づくにつれその人影は濃くなってくる。
ただ、様子がおかしい。この熱さの中、座り込んでまるで寝てるかの様に動かない。
そして、気づいた。
蓮斗「ーーー!?大丈夫か!?」
木の根っこで脇腹をかかえ、苦しそうな少女。腹部柄は大量に出血していてこのままでは危険だ。
体を揺すり、反応を確かめる。もしかしたら、肺をやられている可能性がある。
??「あ、ああ……」
辛そうではあるが、まだ意識がある様だ。今なら、病院に行けば間に合う。
蓮斗「大丈夫だ!今すぐ救急車呼んでやるからな」
彼女を腕を肩にかけ、森の外へと運ぶ。もう一方の腕で救急車を呼ぼうとした瞬間……
カン!
何かが、蓮斗の携帯を弾き飛ばした。その衝撃で携帯は真っ二つに割れてしまった。
蓮斗「な、なんだこいつは……」
そこにはこの世のものとは思えない生物がいた。熊とゴリラを足し、そこに触手をつけたかのよな異形。生物兵器と言っても過言ではない。
奴の触手には携帯の一部と思われる基盤が付いていた。あれが俺の携帯を壊したというのか
キギギキイイイイ!
その雄叫びが森に木霊する。間違いない。先程の耳をつん裂く様な音はこいつによるものだ。
その生物と目があう。カエルが蛇に睨まれると動けないというが、正にその状況だった。
奴の触手が蓮斗目掛けて振りかざす。早すぎて避けきれない。せめて、この少女だけでもと思い、抱きかかえるかの様に守る。
終わった……と思ったその時
??「頭を伏せて!」
突如として、女性らしき声が聞こえ言われた通り頭を下げた。
ギィィィィィイ!?
触手が切れた音がした、そのせいぶつのものであろう緑色の血が蓮斗にかかってしまった。
??「ち、しぶといですわ!」
切られたはずの触手は直ぐに再生していた。トカゲの尻尾の様だ。
よくわからないが助かった様だ。
蓮斗「ありがとう! 」
??「あなたは、早くレベッカをここから遠ざけてください! アレは私が片付けます!」
どうやら、俺が抱えているこの少女の事を知っている様だ。レベッカというのか。どおりで外国人みたいな雰囲気があるなと思ったら。
とか、そんな事考えてる場合ではない。彼女に言われた通り、レベッカさん?を一刻も早く病院に連れてかなくては……
蓮斗「すまない! 」
男が女に任せて逃げるのはどうかと思うが、あの生物にはとてもかなわない。恐らく、異次元の怪物マテリアルだろう。
少女をお姫様だっこの様な形運んでで逃げていった。
蓮斗「ゼェ、ぜえ、ここなら安全かな……」
公園の遊具でドーム状のなんていうかわからないが雨を伏せいだりする時に使う遊具の中に蓮斗とレベッカは隠れていた。
公衆電話で救急車と警察を呼んでおいたからもう問題はないはずだ。
失血部分はタオルで防ぎ、寒さ対策のために、上着ををかけておいた。春とはいえ、やはり夜は寒いからな。
後は、救急車が来ればなんとかなる。
ギィィィィィイ!?
まだ奴の叫び声が聞こえる。
でも今度のは先程とは違い、苦しんでいるかの様であった。先程の少女が戦っているのであろう。
きっと大丈夫……
ドゴォオオオ!
突如鳴り響く爆発音、何んだと思い、出るとそこには血だらけの先程の少女がいた。
ジェネレーションが解除され今は丸腰の状態だ。
??「く、私としたことが敵を侮りすぎた様です……」
あれ程の怪我を負いながら平然としている。しかし、ダメージは相当な様で立つ事もままらない様だ。
ギィィィィィイ!
森の木々を倒し、奴は蓮斗達の目の前にあわられた。
その生物は蓮斗よりも傷だらけの彼女に向かっていった。
ピンピンしている奴より、手負いの方を選んだ方が確実に獲物を食らう事ができるからだろう。
触手がその彼女を捕まえ、大きな口を開け、食べようとしたその時、蓮斗は行動に出た。
蓮斗「おい、バケモン!こっちだ!」
落ちていたコンクリートの破片を奴にめがけて投げた。ちょうど、奴の目に当たり、触手から彼女はは解放された。
怯んでいるうちに、彼女をレベッカのとこに運こんだ。
蓮斗「もう直ぐ、助けがくるからな。ここに隠れてるんだ」
??「まって、その前に名前だけでも……」
苦しいはずなのになんで律儀な子なんだろうか。
蓮斗「俺は通りすがりの一般人だ」
??「あ、まって……」
彼女が言いだす前に蓮斗は飛び出していった。
マテリアル相手にジェネレーション無しで挑むなど自殺行為だ。しかし、こんな俺でもできる事はある。
蓮斗「警察が来るまで、俺が相手してやる!」
まずは、この生物をここから遠ざける必要がある。蓮斗はコンクリートの破片で自らの腕を数センチほどきり、木や地面に血をつけた。
ギィィィィィイ!
その臭いにつられるかの様に生物はレントの方へと向かってきた。
蓮斗は咄嗟に森の中へと入った。それを追う形で奴も蓮斗を追いかける。
蓮斗「ほら、こっちだ!」
血が固まる前に、血を辺りに飛び散らす。
ギィィィィィイ!
ピンチではあるが、順調でもある。
遠くの方からはサイレンの音がする。どうやら救急車が到着した様だ。
だが、もう少し遠ざける必要がある。蓮斗は更に血を辺りに撒き散らす。
しかし、突然その生物が足を止めた。
蓮斗「どうした! ほら、こっちだ!」
再び石を投げるが、その生物はビクともしない。すると、突然方向転換し始めた。
蓮斗「おい、まて!あそこは……」
公園の方だ。まずい、あそこには多くの人が……
その生物は血の匂いよりも音に反応する様であった。実際には蓮斗の血の匂いで反応したわけではなく、声によるものだった。
救急車のあのうるさい音には蓮斗が幾ら叫んでもその生物には届いていなかった。
蓮斗「行かせるものかぁ!!」
蓮斗は道端に落ちていた、鋭く尖った枝でその生物の足を刺した。
蓮斗「……があ!?」
その生物が足を止めたかと思った瞬間、腹部に痛みを感じた。
よく見たら、奴の触手が蓮斗の人体を貫通していた。
触手を大きく揺らして、蓮斗は木に投げつけられた。背中にも大きな衝撃が走り、ホネが折れた様だ。
蓮斗「ぐ……あああ!」
叫びにならないほどの痛みが全身を襲う。腹部からは血がこれでもかというぐらい溢れている。どうやら肝臓をやられたみたいだ。
さらに、息苦しく、肺が痛い。折れた骨が肺に刺さり大きな穴を開けそこから酸素が漏れ出し、息ができない。
死
その言葉が脳裏に横切った。
奴は何事もなかったかの様に、公園の方へと歩き出した。
蓮斗「ま、ま……」
上手く声が出せない。手を伸ばしてその生物をなぜたが捕まえようとしていた。しかし、手が伸びるわけでもなく、悪あがきに過ぎない。
意識が朦朧とし始め、眠くなってきた。
蓮斗は横に倒れてしまった。ぼんやりではあるが、まだ奴の姿が見える。
(俺は、女の子1人も守れないのか……)
悔しい。悔しくて涙が出てきた。守られてるばかりで何もできない自分が悔しい。
(天荒姉さん……俺、悔しいよ……弱い自分が……)
自分を呪ってやりたい。しかし、そんなこともできない状態だ。
??「チカラ、ホシイカ?」
突然心臓がドクン!となり、体全体が熱くなったかと思えば今度は幻聴が聞こえてきた。
??「ナンジニトウ、チカラヲモトメルカ?」
聞き覚えのない声。ドスの効いた恐ろしげのある声だった。
(はは、これ完全に死んだな俺は……)
辺りには血が水溜りの様に溢れている。普通なら即死だ。さらに、幻聴まで聞こえてきたとなれば尚更であった。
(力が欲しい? はは、そうだな、最後に神頼みでもしてみるか)
悔いを残さないため……とまではいかないが、最後の力を振り絞り蓮斗は心の中で思いっきり叫んだ。
(頼む、あいつを倒してくれ……いや、あいつは……俺が……俺が倒す!!魂でもなんでもくれてやるから力を寄越せ!!)
瞬間……
??「ショウチシタ」
刹那……
蓮斗「ぐああああ!!」
全身が焼ける様に熱い。まるで炎の中にいる様だった。
蓮斗はいつの間にか立ち上がっていた。腹部からの出血は完全に泊まり、骨も元どおりになり、完治していた。
蓮斗「く……く、く、く」
歯をギシギシと噛み締め、手からは握力によって血が滲みでていた。
ゴゴゴゴゴ!!
蓮斗を中心に地震が発生し、地面はえぐれ温泉が噴き出していた。それでも、大地の揺れは収まることを知らずどんどん強くなっていく。
ギィィィィィイ?
奴も以上に気づいたらしく、振り返った。そこには、先程の吹っ飛ばした筈の蓮斗の姿があった。
その目は明らかに先程の者の目ではなかった。
蓮斗の周りには光輝くオーラに包まれ。髪の毛はさか立ち、筋肉は膨張し、それでもなお、パワーが上がっていく。
そして、生物は確信した。今まで餌としか思ってなかったが、今は違う。こいつは敵だ!と……
生物は身体中から数え切れないほどの触手を出現させ、敵めがけて振りかざした。
蓮斗「うおおおおお!!」
しかし、蓮斗はその触手を気合だけで吹っ飛ばした。
蓮斗「俺が………貴様を倒す!」
警告、××××××××を発動しました。半径500メートル以内の市民は離れてください。
×の部分が良く聞き取れなかった。
蓮斗「これは……」
全身の皮膚が黒く硬い何かで覆われていた。水たまりに自分の姿を確認した。
蓮斗「ジェネレーション……なのか」
全組織、筋肉や骨、細胞までもが変化し、暗い夜の中、月に光によって鎧が神秘に包まれ赤色の眼光が光っていた
それはまさにドラゴンを連想させるかの様な雄叫びをあげると共に、黄金に輝く羽を広げ、空を飛んでいた。
蓮斗「行くぞ!」
蓮斗はその生物めがけて突進をしていった。