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6 異世界で嘘つき

 すべて盗賊たちを討伐して、洞窟から出た俺たちはヤシロの埋葬を始めた。


 シンの奴は嫌がるがこのまま持ち帰りわけにもいかないと説得する。


 魔力の上昇に伴い身体能力もかなり上がったので、ヤシロを埋める穴は簡単に掘れた。


 「私の王宮では、いつも邪魔者扱いされてた…

 兄弟姉妹は皆、異母であまり仲良くはない…

 私の母は平民出身で私を産んですぐに死んだらしい…

 そして、現在国政を仕切ってる義母上に私は嫌悪されていて、居心地が悪いから城からよく抜け出していたのだ。」

 「ふーん」

 「そんなときに彼女たちと出会った」

 

 話によると、奴隷商人に酷い仕打ちされた子供たちを助けるためにヤシロは皆を連れて逃げたらしい。


 「私は自分ことばかりなのに、子供たちのために必死になるヤシロが輝いて見えたんだ!」

 「そして、あの町の廃屋に匿ったのか?」

 「ああ、あの町なら私もよく行くから何とか手を貸せると思っていたが……結果はこのざまだ!」

 「仕方ねぇよ!!お前の限界だ!!」

 「だが、これではヤシロがあんまりだ!」

 「それでもお前に会えたんだ!そのまま奴隷に戻るよりは幸せだったと思うぜ!」


 しばしの沈黙のあと、シンは呟くように・・・


 「なあ、この世界は間違ってるのか?」

 「いや、むしろ正しいさ!弱肉強食、魔法が使えれば強者となれる!シンプルな世界だ!」


 「だからヤシロの死も正しいと?」

 「それはお前が決めることだ!ただ、ヤシロは最後に満足して逝ったぜ!それは保障する」

 「なら、私はこんな世界は嫌だ。彼女には生きて欲しかった。例え正しくても、私はヤシロを見捨てたこの世界を許さない!!」


 決意を露わにするシンに、俺は笑みを浮かべる。


 「いいねぇー!シン!ようやくお前のことが気に入ってきたぜ!!」

 「ちゃかさないでくれ、これでも堪えているんだ……」

 「本気だよ!俺はお前を王にする。そして、その力で俺に恩返ししてくれ!」

 「恩返し?」

 「そうだ、王の特権でも権力でも全てを使っておれを元の世界に戻せ!もし約束するなら、俺はお前について行くぜ!」

 「私を王にするためにか?」

 「ああ!そうだ!」


 嘘だよ!俺はお前を利用するだけだ!

 心中で本音を言うが、シンは全く気づかない。


 「分かった、改めてよろしく頼む。セイ!」

 「ああ、よろしくな、シン!」


 お互いに握手すると、体が光った。

 そう、最初に確認してこれまで隠してきた体の入れ替わりだ!


 「なあ?これは私が目の前に!?」

 「うお、俺がいる!?」


 別の体だが、ちゃんと演技できただろうか?

 まあ、コイツなら平気か、


 「これは?」

 「あ、ああ、入れ替わったみたいだ?」

 「セイの魔法じゃなくてか?」

 「ああ、違う!」


 お互いにこの現象に話合ったが何も分からず、手の甲にあるアザに触れるとお互いの体が入れ替わることと、魔法はそのまま別の体でも問題なく使えることが分かった。


 「これは?何故私たちにこんなことが・・・?」

 「さあな?だが、入れ替われるのならこれも有効に使おう」

 「いいのか?」

 「ああ、お前を王にするのに役に立つだろう!」


 このお人好しは何も気付かないだろう。

 全てはレールの上だ。

 お前は破滅するかもしれない。


 「戻ろう!」

 「ああ、子供たちも心配だ!!急ごうセイ!」

 「おっと!その前に戦利品も乗せないと!」


 馬を二頭連れて大きな荷物を運ぶ。


 「すまないが、私は先に行くぞ!!」

 「ああ、もうしばらくはこの辺も安全だろう、気を付けてな」


 シンは先に町に戻っていった。

 俺は洞窟の中に引き返す。

 大量の盗賊たちの死体が転がる中の彼女はいた。


 「あなたは?誰?シンに似てるけど?」

 「やあ、ヤシロ初めまして!俺はセイ!よろしく!」


 そこにいたのは死んだはずのヤシロだった。

 そう、あの時、


 ーー凶刃が彼女を襲う瞬間に俺は魔法を使っていたーー

 ーー彼女は背中を切られたが死んではいなかったーー

 ーー『偽造』で偽の彼女を作り、シンも盗賊も騙したのだーー


 本人ですら、自分が死んだと思っただろう。

 だから、今まで気絶していたし、シンも偽者の埋葬にも気付かなかった。

 

 (まあ、身近な人の死にそこまで冷静に対処出来ないか!)


 ヤシロの背中を覗くと致命傷に近い傷は消えていた。


 「なんで、私は、切られたんじゃ?」

 「ああ、俺が治しておいた!」

 「あなたが?」


 そう、虚偽の魔法『虚否≪きょひ≫』で現実を嘘にした。

 言ってしまえば、現実を嘘してしまったのだ。

 あの影の少女から貰った力は強力だった。


 (まあ、魔力の消費も激しいから一日数回が限界か……)


 いまだに、自分の背中を擦り信じられないという顔の少女を見る。

 あの盗賊たちじゃないが、綺麗な少女だ。

 瑞々しい、しなやかな体に日で焼けた小麦色の肌の肢体。

 美しい黒髪に美しい顔立ち。

 ぴったりとした薄い白衣に覆われて扇情的であった。


 「あなたが?……助けてくれての?」


 声をかけられ正気に戻った。

 看取れてたのは気付かれなかったようだ。


 「当たらずとも遠からずだ!助けたがただで助けたわけじゃない!!」

 「……シンは?」

 「今頃は町に着いている。特に怪我もしてないさ」

 「そう、よかった」


 安心したような顔で言った。

 念のため『偽眼』を忍ばせて監視していたが、問題なく町に到着したらしい。


 「見てみるか?」

 「えっ?」


 そう言って、俺は魔法で『偽眼』の映像を映し出す。

 そこには、シンと衛兵が争っている。

 

 「あっああ、そんな!?」

 「こうなるか、やっぱり……」


 そこには殺された奴隷の子供たちと泣きわめくシンの姿があった。

 そう逃げた奴隷は殺されたのだ。例え子供でも容赦なく。

 ここはそんな世界なのだ。


 「酷い、なんでこんなことに……!!!」

 「で、どうする?このまま戻って殺されるか?」

 「!?」

 「見ただろう?シンの奴に匿ってもらうにも限界はある!今回みたいにな!」

 「……」

 「アイツはあんたが死んだと思っている!」

 「……」

 「あんたはどうする?」


 ここまでは、予想通りの展開だ。あとはこの少女がどう出るか?


 「あなたは?シンの味方なの?」

 「少なくともアイツの敵ではないし、死なれても困るな!」

 「シンを支えてくれる?」

 「アイツが先に進むのなら、全力で!」

 「私はどうしようかな?」

 

 子供たちも死んで、守る者がいなくなった少女に俺は、


 「……僕と来ないか!!」

 「……?」


 (!?……なんで?いや、分かってる!!けど、認められない!!)


 そう、別にこの少女を奴隷にかえろうが自由になろうが、少女の好きなようにさせるつもりだった。

 しかし、


 (彼女に重ねてるのか!2年も前にいなくなった彼女にいまだ執着してるのかよ!俺は!?クソ!!)


 シンの奴をお人好しと言えないな、

少女は何を言われたのか分からないという顔でこちらを見てる。

 ああ、彼女によく似ている。

 認めよう、俺は彼女の幻影をいまだに追い続けている!!


 「どうして?あなただって余裕があるようには?」

 「俺は魔法が使える!!」

 「!?」

 「シンのかわりに、あいつの偽者として俺は魔法を使う!!」

 「それでシンを王に?」

 「そうだ、俺の嘘でアイツを本物の、真の王にする!!」


 なんだよ!!こんなにも嘘が下手だったか!俺は!

 それとも本音なのか?

 分からない、自分すら騙してきたのに!

 自分すら騙してきたからか?

 

 「私は……何をすれば?」

 「アイツはあんたといても強くなれない!いや、弱点としていつまでも足を引っ張る!!」

 「…そっか!そうだよね!!」

 「だけど、見守ってやれ!!」

 「見守る?」

 「アイツが本当に立ち上がれなくなる、その時にまで、その時にアイツを支えろ!!」


 誰についてる嘘なんだこれは?

 こんな綺麗ごとに意味はあるのかる


 「それまで、俺と来い!!アイツを助けるために!!俺を手伝え!!」


 これはきっと悪魔の契約かもしれない。

 それでも少女に他に道はない!

 悪魔の手をとるしか、愛する人の力になるには、それしか!


 「分かったわ!でも約束して!」

 「アイツを王にすることか?」

 「いいえ、違うわ!」

 「?」

 「あなたがシンの味方でいると約束して!!」


 ハァー、味方にねぇー!どこまでもアイツのためか!


 「分かった!約束する」

 「本当?」

 「ああ、俺は嘘つきだか、約束は守るさ!!」


 それが結果的にアイツを苦しめるはめになってものな!!


 「さて、ヤシロ、お前には魔法かけてしばらく身を隠してもらう!!いいな!!」

 「……はい」


 魔法でシンの泣きじゃくる顔が映る。

 自分の無力さに絶望しているのかもしれない。

 その顔を見てヤシロの目には強い火が灯る!


 「シン!ゴメンね!!必ずあなたが強くなったら会いに行く!こんな風に泣かなくてもいいよになったら、必ず!!」

 

 決意が固まったらしい。


 「なら、行こう?」

 「はい!」


 酷い嘘かもしれない、

 それでもこのうそはいつか真実となる。

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