5 異世界での戦闘
前に書いた小説のネタを挟んでます。もしよかったそちらも見てみて下さい。
少女の背中から流れる赤い血は止まることはない。
ーーあの時、シンの首に凶刃が振り下ろされる瞬間。彼女は男の拘束を振り払いシンと凶刃の間に身を差し出したーー
結果は彼女の背中は切られ、小麦色の肌は裂かれて鮮血を流す。
「シン!だ、だいしょうぶ?」
「ヤシロ!何で!どうして!?」
「だってシンは私の希望だから!」
「!!」
「あの日子供たちと逃げて、匿ってくれたのはシンでしょう!だから、あなたにあなたならきっといい王になれるって信じてる!!」
「ヤシロ!!私は、私は……」
「だ、だか、ら、お願い、自分を、しん、じて、ね?」
「ヤシロ?ヤシロ!!ヤシロー!!!」
少女は安らかに目を閉じる。その顔は幸せそうに見えた。
シンは泣き声を上げて蹲る。
盗賊たちはもう興味もなさそうだ。
「たく、おい、お前!!何逃げられてんだ!!」
「す、すいません!急に暴れたもんだから」
「どうすんだよ、こんなガキども一人で大損だぜ!おい、今度こそ首を跳ねるから押さえておけ!!」
そろそろか、俺は魔法を発動する。
「おい、よくも台無しにしてくれたな!!ただですむっん!?」
「おい、どうした?」
「ガキが増えて!?」
「あ?なっ!?」
幻覚によるシンの分身を大量に作る。
『偽態』のまま、シンを掴み近くの物陰に隠れる。ヤシロの体も傍に運ぶ。
大して時間稼ぎにならないけど、それでも、
「おい、シン!しっかりしろ!?」
「セイ……私は!私は!なんて無力なんだ!!」
「そんなの分かってことだ!!逃げるぞ!」
「頼む、私のことは置いていってくれ、あの子達に会わせる顔がないんだ……」
「なら、ヤシロの死を無駄にするか?」
「!?」
「お前は!信じてくれて人間を裏切るのか!!」
コイツを中学時代のアイツと重ねたのは間違いだった。
アイツはどんな目にあっても人を信じて、裏切らなかった。
バカみたいに人のことを頼ってきた。
「なのに、お前はヤシロの想いさえ、最後の願いすら捨てるのか!!」
「なら、私は!!どうすればいい!!どうすればよかった!!」
「死者は蘇らない。それでもその願いを裏切るのは間違いだ!!」
「………」
「王になれ!!シン!お前が今度こそ、自分の力で誰かを守れるようになれ!!」
「今さら、そんなこと」
「それがヤシロの願いだろ!!」
「私は何も出来ない!!」
「手に入れろ、魔法を、大切な人を、それがお前の力になる」
「出来るのか私に?」
「もう一度こんな思いする気か?」
「……いやだ!!私はもう何も失いたくない!!」
「それ難しいけど俺が協力してやる!!だからここから始めろ!お前の王道を!!」
「ヤシロ!!私は」
ヤシロの体を見つめるシン、その目は先ほどの死んだ目ではなく火の付いた目だ。
「ヤシロ約束する。私は王になる!!君たちのような奴隷をもうつくらないために!!今日から私は王を目指す!!」
(いい覚悟だが、どこまでいけるかな?)
俺はシンの覚悟を確認して、この場をどう切り抜けるか考える。
(そう言えば、あの影の少女から何か貰ったんだけ?)
今まで警戒して使わなかったが、出し惜しみしてる場合じゃないな!
「シン!どうなるか分からないけど、奥の手を使う!お前は隠れてろ!」
「しかし……いや、分かった!気を付けろよ!!セイ!」
「ああ!」
俺は頭で少女から貰った物を解放する。
すると頭の中でいくつかの魔法が思い浮かぶ。
(なるほど、これは俺向きの魔法だ、それに魔力も上がったのか?アハハッ!!すげー、今までと比べものにならない力を感じるぜ!!)
体に宿る魔力が桁違いに増えるのを感じた。
「おい、そこにいるのは誰だ?」
「騒ぐなよ、バカども!!」
「あーあ!テメェはあのガキの兄弟か?ヤケに似てやがる!女みたいに細え体しやがって、ぶった切ってやるよ!!」
オラーァ!!と掛け声ともに男が斬りかかってくる。
(まず、実験だな!虚偽の魔法『偽造≪ぎぞう≫』)
俺の手にはいつの間にか槍が握られていた。
虚空から物を造り出す魔法によって出来た偽物だ。
「なぁ!?」「遅えよ!?」
男の喉に一突き、凄まじい衝撃が槍から放たれる。
例え偽物でも、十分な威力がある。
「グォェ!!!」
目を見開き倒れる男、その喉には大きな穴が空いてた。
さらに、盗賊たちが集まる。
「テメェ、よくも!!」
仲間の死体を見つけて集まる盗賊たち、しかし、俺の魔法は複数相手にこそ効果を発揮する。
『偽装≪ぎそう≫』、この魔法により、あいつらの目を眩ませて、あいつらの攻撃は俺ではなく、
俺だと思って攻撃しているあいつら自身をお互いに傷つけることになる。
「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」」
30人の同士打ち、動けない盗賊たちに止めをさす。
(すごい、『偽装』は前から使えたけど、ここまで複数相手に使えなかった。魔力が向上したからか?)
それからも、魔法により姿を隠しながら一人また一人と次々に盗賊たちを狩っていく。
(罪悪感を感じる暇がない!いや、自分の心にも『嘘』つけてる?これもあの影の少女のせいか?)
そして、広場に残り半分の150人ほどの盗賊たちが集まって、殺戮を繰り広げる新入者を待ち構える。
「ありえねぇー!!!」「もう半分もやられたのか!?」「どうなってだよ!!」
「黙れ、お前ら!!!」
リーダーの男が吠える。俺は魔法を解き姿を表す。
(どのみち生かしておく気はない!なら姿をみせてもいいだろう!)
「よう、こんにちは」「テメェか!?俺たちをコケにしてくれたのは?」
「ああ、滑稽だったぜ!」
「調子に乗るなよ、魔法が少し使えるようだが!テメェだけだと思うなぁ!!」
体格のいいリーダー格の男がでかい剣から炎を出す。周りの盗賊たちは避難する。
炎の魔法か、こんな盗賊でも頭なら魔法が使えるらしい、
「くらえ『火炎斬』!!!」
炎による一撃、普通なら焼き切られるだろう。
しかし、俺には通じなかった!!
ーー炎の剣は俺に当たる瞬間に消えるーー
「ハァァアーー!!テメェ、何しやがった!?」
「別にただ嘘をついただけだぜ!」
「嘘!?そんなもんで俺の魔法が!?」
また、男は炎の剣を放つ、しかし、俺には決して届かない。
霧や煙のように消えしまう。
「説明しても無駄かな?」
「ヒイィィ!!お前ら何とかしろ!!」
「お前の力、少し試すか?確か、『火炎斬』!!」
俺は目の前にいる男の魔法を『偽装』した。
目の前に炎の刃が放たれる。
「「「ギャアア-!!!」」」
「あまえら!!てめえー俺と同じ魔法を!!」
「違う、これはお前の物まね、偽物だ!!まあ、大したこと魔法だからあまり役に立たないか」
1回で5人ほどしか巻き込めなかった。だが、この世界の魔法をまねできただけ上等だ。
「なら、新しい力、新しい魔法も試してみるか?」
そう言って俺は魔法『偽似≪ぎじ≫』発動する。
「本来ならあり得ない、この世に起きるはずのない擬似体験をその身で味わえ!!」
俺の手には分厚い本『偽典』が、そして本が自動的にめくれて、中から一枚のページが映し出される。
それは偽の現象で偽の神話、本当に起きたか分からない架空の出来事、それをただ起こすだけの魔法。
ーー神話の天使が召喚される!その天使は美しく、清らかに、目の前にいる罪人を裁く!光の降り注ぎ罪人を焼き尽くす!ーー
盗賊たちは皆が悲鳴を上げて、逃げる間もなく倒れていく。
150人もの盗賊たちはほんの数秒で全滅した!!!
「これが、俺の新しい力!虚偽の魔法か!!!」
ただの嘘つきから世界すら騙せる魔法使いはここから始まった。
人を殺したことによる高揚か、それとも罪悪感を感じないための自己防衛か、どちらにせよ叫ぶ!
「やってみせる!あれがアイツを偽者から本物の王にしてやるよう!!」
かつて中学時代に口うるさかった同級生を思い出した。
(ねぇ!セイはどうして嘘つきなの?)
(別にただ、正直に生きるのに疲れただ!みんな俺の前から消えちまう!)
(そうだね!でも、僕は君を信じているよ!だって僕たちは友達だもの♪)
(クソ!何でお前は騙されて平気なんだよ!何で俺の傍にいる?)
(さあ?でも、例え嘘でも君は僕を助けてくれるでしょう?)
(ああ、お前は正直者だからな!何度でもお前騙して助けてやるよ!ソラ!!)
アイツが俺を裏切らなかったように!コイツが俺を裏切らないなら、
お前が王になれないこの世界ごと騙してやる。そして、
「きっと、俺はお前を騙してでも王にしてみせるぜ!!」
洞窟での一人、決意を宣言する。その声を聞く者は誰もいない。
これからも頑張りますので、応援、ご意見があったらお願いします。