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4 異世界での救出

 日も沈みかけ、辺りが暗くなってきた。


 しかし、町は未だに明るい、


 「町……全体が燃えてるんじゃ無くて外側のスラム街が焼けてるのか?」

 「ああ、町の警備は万全だ。そう簡単に町を落とせるはずはない」

 「なら、なんで町を襲撃なんて?」

 「多分、スラム街だけを焼き払う気なんだ!」

 「?……そんなことして何の意味がある」

 「盗賊からしたら大した価値もないが、町に対する嫌がらせやスラム街の人を奴隷として売ることもあるらしい」

 「でも、衛兵とかいるだろう?なんですぐつかまえないんだ?」

 「彼らは町を守ることを優先する。スラム街は基本的に無視するのだ!!」

 

 なるほど、スラム街はこの町の一部と認識されてないのか。

 実際に被害に合ってるのはそこだけで町の方は何ともない。

 この世界の格差を見せ付けられていると、シンの奴が一人で駆けだした。


 「おい!どこに行く?シン!!」

 「無論、スラム街のほうだこんなこと放ってはおけない!」

 「勝算はあるのか?」

 「いや、だが、視ているだけなんて出来るわけがない!!」


 そう言って一人で突っ走ってしまった。

 

 あの甘ちゃん王子は後先考えずに何やってんだか……まあ、あの孤児院もどきが心配なのだろう。


 「ハァー……死なせるわけに行かないが、下手に目立つのは早計だよな?」


 そうここは異世界、俺の世界と違い何があるか分かったもんじゃない。

 迂闊に力を使えばどうなるのか?

 あの王子は別にして、関係ない人間にまで力を見せるのは避けたい。

 とりあえず『偽態』の魔法により俺は姿を隠した。

 問題はこの魔法は影などは隠せないので炎には気をつけないといけない。また、誰かに触れれば魔法も解けてしまう。


 馬を近場に止めて、燃えるスラム街に侵入する。

 あのバカ王子は無事なのか?

 まあ、行き先はあの孤児院もどきの建物なのでそこを目指す。


 辺りには粗末な服を着た死体や崩れた建物、家は所々火事だが、消火してる暇はない。

 隠れながら進むのと、馬に乗った盗賊たちとすれ違う。


 手に持った湾曲した刃からは血が滴り落ちていて、何人もの住民を殺害して痕跡がある。

 あまりに見慣れ無い光景に気分を悪くしていると、馬から降りて話している盗賊を見つけた。


 「おい、そろそろ逃げないとさすがにまずいんじゃないか?」

 「そうだな!町の安全が優先でも俺たちを捕まえたいことには変わりないだろ、とっとと金目の物や女を連れて帰ろうぜ!」

 「まあ、金目のもんなんてほとんど無いけどな、なんでこんなところを襲撃したんだ?」

 「何でも、この間うちの連中が5人ほど捕まったらしいから、団長がその腹いせ変わりにここを襲うことにしたらしいぜ!!」

 「ハァー、ヘマしたバカのせいかよ、まあ、うちは300人もいる盗賊団だし面子もあるのか!団長は魔法が使えるから怒らせる怖ーな!!」


 どうやら、俺が捕まえた盗賊どもの腹いせでここが襲われたらしい。

 責任を感じないわけじゃないが、それでも自責よりも相手の身勝手さのほうが頭にくる。


 その後も隠れながら慎重に進み例の建物まで来た。

 

 もとからボロボロだった建物はさらに半壊しており、もう人は住めないようになっていた。

 その外で子供たちを守るように立ち塞がるシンと馬にヤシロと言う少女を乗せた盗賊が数十人がいた。

 ヤシロは縄で縛られおり抵抗できないみたいだ。


 「ヤシロ!!」

 「シン!逃げて!!」

 「おまえ達!!その子を解放しろ!!!」

 「バカが!?するわけないだろう!それよりてめーずいぶんといい身なりじゃねえか?ここの住民じゃないな?」

 「それがどうした?」

 「わかんねーな?こんなゴミダメになんで必死になって守ろうとするのか、コイツ等も奴隷なのに?いや、この女は確かに上玉だがよ」


 下卑な視線をヤシロに向ける男、シンが怒りを露わにするが何も出来ない。

 そうしてる間にも男たちは距離を詰める。

 シンは剣を持っているが多勢に無勢、それもガキどもを守ってじゃどうにもならない。

 俺は魔法を使用して身を隠しながら、動向を見守る。


 (果たしてどうなるか?まあ、あの甘ちゃんは助けるとして、他はどうする?うん、遠くから何か来る?)


 盗賊の援軍か!


 それなら万事休すだが、違ったあれは衛兵だ。どうやらようやく盗賊の討伐に来たらしい。


 「チッ!野郎ども-!!!撤退だーーー!!!」

 「ま、待って!!ヤシロを放せぇーーー!!!」

 「シンーーー!!!」

 「ヤシロ!!」

 「その子たちをお願い!!」


 我が身を顧みないその言葉に、悲痛なまでの覚悟を感じてシンは何も出来ないでいた。馬に縛られた少女を乗せて盗賊たちはその場を去って行く。


 「クソオオオォォォーーーーーオオオォォ!!!」


 手を地につけて叫ぶシン周りにに不安そうな子供や泣き声を上げる子供が集まる。


 「シン、ヤシロが……」「どうしよう……」「ウワーン!!ヤシロ姉ちゃん!!」

 「……」


 (まあ、こうなるか!これで少しはあの甘ちゃんも治ればいいけどな?)


 さて、あの甘ちゃんはどうするのかと眺めていると、急に立ち上がっり、子供たちに何か指示を出す。


 「みんな、私はこれから何とかヤシロを助けに行く!!」

 「でも、」

 「私の力ではどうにもならないかもしれない。それでも私は……」

 「行ってきてよ!!!シン!!」「「「そうた!そうだ!」」」

 「みんな……」

 「男なら絶対ヤシロ姉ちゃんを助けてくれよな!」

 「そうだぜ!シン兄!!俺たちはどうせ奴隷として碌な目にあってこなかっただ」

 「そうよ!いまさらこれ位のことなんともないわ!だからシンはヤシロ姉ちゃんを助けに行って!」

 「シンとヤシロ姉ちゃんだけがあたしたちに優しくしてくれた。人間扱いしてくれて、食べ物や寝る場所をくれた。」

 「だから、俺たちはどうなってもヤシロが酷い目合うのは嫌なんだよ!!」

 「俺たちは俺たちで何とかするから、心配しないで助けに行けよシン!!」

 「みんな!すまない!ヤシロは必ず助ける!!」


 子供たちに頭を下げて、急いで町に向かう。おそらくは馬や武器を持って盗賊たちを追うのだろう。


 (町の連中は動かないか!……どうせあいつらからしたらスラム街はゴミの山、ハイエナがきても追い払うだけで討伐なんて手間のかかることはしない。)


 そうなるとシンはどうするのか、決まっているあれは一人でも盗賊たちに戦い挑むぞ。

 シンの後を追い動向を探っていると案の定、町の役人からは渋い顔で盗賊たちの追跡を断られた。

 仮にも王子だか本当に権力はほとんどないらしい、そして予想通りに馬と武器を持ち町の外まで駆ける。

 町の外で俺はシンの前に姿を現す。


 「よう、どこに行くんだ?」

 「セイ!君は今までどこに?いや、それよりもヤシロが!」

 「分かってる!盗賊たちに攫われたんだろ!」

 「ああ!!なんで知っている?」

 「遠くで見てた」

 「なら!!」

 「なんで助けなかった!っか?」

 

 言葉を先読みしてやると、黙って睨んでくる。

 最初に縛ったときもここまで敵意向けなかったのにな、やはりコイツは他人の為なら怒れるのか、


 (どこまでもお人好しな奴め……だか、これは使える!)


 このままではコイツが王になるのは難しいだろう。

 権力もなく魔法も使えない、特別な身体能力も頭が良いわけでもない。

 何より正直過ぎるうえでお人好しな奴に王位争いなんて不可能だ。


 「そんなに、睨むなよ!あの状況で下手に手を出せば子供たちだって殺されたかもしれないのに」

 「それは……」

 「そもそも、俺にそこまでする義理はない」

 「だか……」

 「そして、俺が助ける以前にお前は何が出来た?」

 「!!??あー!!!そうだ!!私は何もできなかった!!!ヤシロが連れて行かれるのも、町が焼かれるのも、あの子たちを保護することも……何も……できない……」


 悔しいそうに顔を俯かせて言うシンの言葉は震えていた。


 「まあ、そうだろ!!そして、今お前がやろうとしていることは無謀だ!!」

 「!?」

 「どこに行ったかも分からない盗賊たち追うのも無謀だし、仮に追いついてもあいつらは300人近くいるらしい、お前一人で勝てるわけないだろ?諦めろお前は無理だ!!」

 

 冷酷に告げる。例えどんな綺麗事を並べようが現実は残酷で無慈悲で何よりも絶対なのだ。


 「確かに私は魔法も使えない、力もない、誰かを動かす権力も知恵も持っていない!それでも私はあの子たちに約束したんだ!!!ヤシロを助けると!!!そのためなら命など惜しくない!!」

 「そうかよ!!でもお前の命で何とかなるのか?仮に王子だって言ってもあいつらからあの子を救う方法なるのかよ?」

 「それは……無理だ。私が王子でもあいつらお構いなしにヤシロを手にかけるだろう。交渉するだけの力は私には無い。」


 改めてコイツの、いや、この世界で魔法が使えないことの重大性を知る。王子の身柄すら交渉ならないのか?

 

 「他の王子の名前を出すとかは?」

 「無理だ、みんなよく知れ渡っている。

 それに王族同士の仲の悪さも有名だから私を殺めても彼らは何もしないだろう。

 特に現在国をまとめてる義母上は私を特に嫌っている」

 「仮にも異母とはいえ兄弟や義理の息子だろ?」

 「兄弟だから邪魔者なんだ。特に魔法も使えない恥さらしの私は」

 

 これはいよいよ詰んでるな!

 さて、こいつを王にする道筋が全然見えない。

 

 (これは荒療治が必要か!?)


 「で、もう一つことは理解してるのか?」

 「?……何をだ?」

 「あのガキどもを見捨てていいんだな!!?」

 「……!?」


 そう、あのガキどもは奴隷、それを匿っていたのがあの騒ぎで台無しになった。

 なら、あのガキどもは必ず捕まる。そうなったら奴隷に逆戻りだ。


 「その覚悟がお前にはあるのか?」

 「それは……だが、ヤシロを見捨てて……出来ない」

 「出来ない?選ばないで王になれるか!!」

 「助けてみせる!!ヤシロも!!すぐに助けて!!子供たちの元に戻る!!私は両方を助けてみせる!!」


 チッ、甘いどこまでも甘い、しかし、今はいいか!

 この覚悟がどうなるか、見届けてやるよ!!


 「なら、急ぐぞ!!」

 「!!では!?」

 「ああ、ヤシロって子の救出までは協力してやる!!それから先は自分でなんとかしろ!!」

 「セイ……分かった!感謝する!」


 頭を下げるシン。

 甘いな、俺はお前を利用してるだぜ?

 

 「今は、時間が惜しい、行くぞ!!」

 「しかし、どこに?」

 「『偽眼』であいつらのアジトは見つけてる、行くぞ!!」


 そう、あいつらの荷物に『偽眼』を忍ばせていた。あいつらは近くにある洞窟をアジトにしてる。

 馬で駆けること1時間、その洞窟に到着した。近くの岩場からシンと2人でのぞき込む。


 「それでヤシロは?」

 「ああ、奥の牢屋で気絶してる!まあ、特に手荒な真似はされてないさ!」

 「ほっ!!」

 「まあ、時間の問題か?」

 「なら!!急がないと!?」

 「落ち着け、まずは『偽態』で姿を隠す。それで行けるとこまで行くぞ!!」


 『偽態』はその名の通り擬態のように風景に溶け込んだり、物に擬態する魔法だ。

 しかし、触れれば魔法解けるし、影や熱などはそのままだ。それによく見れば不自然な感じもする。 


 「慎重に行くぞ!!見つかれば300対2だぞ!!」

 「分かった!!急ごう!!」


 分かってないシンを連れて洞窟に侵入する。


 中は広く、『偽眼』と『偽態』のコンボで順調に奥に進む。


 途中で刀を研いだり、町から奪った戦利品を見せびらかす盗賊がいたが無視だ。

 シンは怒りを隠そうとしなかったが、今はヤシロ優先と理解しているらしい・・・


 奥の牢屋に近づいてきた。物陰に隠れていると、牢の前に盗賊たちが集まっていた。


 目的はヤシロだろう。男達は下卑な視線で牢の中にいる少女を見る。


 「コイツ一人かよ?」「でも、かなりの上物だせ!!」「売る前に俺たちで楽しむか?」「いいな!アッハハ!」


 このままだとヤシロは男達に汚されるだろう。

 容易に想像できるが、どうやって助けるか?

 シンの奴は今にも飛び出しそうだ。


 (おい、落ち着けよ!このままいってもだと3人とも助からないぞ!!)

 (分かっているが!あいつらは!!!)


 おお、いい顔になってきたな。

 怒りに満ちたそのお前なら王になれるかもしらない。

 そんな期待をしていると、ヤシロが目覚めたらしい。


 「あれ?ここは?」

 「よう!目が覚めたか!」「コイツはマジで上物だ奴隷なんて勿体ない!」「売るのやめて俺たちで飼うか?」「それもアリだな!!」


 遠くにいるが『偽眼』で彼女は身を硬くして、寒気を感じているのが見てとれる。

 自分の今後を思い絶望しているのだろうか、顔を上げようしないで、体を抱いてうずくまる。


 「あ、怯えちまったか?」「安心しろ大事に可愛がってやる!」


 そう言ってヤシロを牢屋から出す。腕は拘束されて薄い奴隷着の少女を鎖で繋ぐ、無理やり引っ張るように連れ出す。


 (ハァー、何とも典型的な悪役だな。ってシン!?お前)


 あの甘ちゃん我慢出来ずに飛び出しやがった!?

 バカが!!と心中で罵倒しながら、俺は移動する。


 「お前らヤシロを離せぇぇぇえー!!」

 「シン!?」

 「なんだ!」「テメェあの時の?」


 盗賊が20人以上いる中に突っ込んで行くシン!


 結果は言わなくても分かる。すぐにあいつらに取り押さえられて終わりだ。


 (バカだな!アイツでもここまでバカじゃなかった。アイツは人の頼りかたはうまかった!!)


 あまりに呆気ない幕切れに失望していると、


 「たく!どうやってここまできたんだよ!!」

 「くそ、ヤシロを離せ!!」

 「おい、どうするコイツ?」「もう、殺していいだろ?」

 「シン!なんで!?」

 「すまない、ヤシロ、私は……!」


 ヤシロを拘束している男が離れる。

 町でシンと話していた男が大きな剣をもって、盗賊たちに押さえられて地面に頭を付けてるシンの首に大剣を当てる。


 「やめて-!!」

 「うるせー!、見てろこのガキの首を跳ねてやるよ!」

 「くそぉおぉ!!私はまた!!何も出来ないのか!!」


 剣がシンの首に下ろされる!!

 盗賊は笑いながら剣を振り下ろす!!

 シンは悔しそうに目を閉じて結末を待つ!!


 そして悲劇が起こる。


 ーーーー男の拘束を振り払いヤシロは凶刃に断たれるーーーー


 「えっっっっっ?」


 それは誰の言葉だったのか?

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