2 異世界の町
馬に乗ること30分ちょっと、途中でまた襲われる事も無く無事に町が見えてきた。
砂漠も終わり遥か向こうには山や森など大自然が広がっている。
その砂漠の手前にアラビア風の大きな町がある。
木やオアシスなどもあり土造りの家から木材で出来た建物もある。
人も多いく中央に行くほど高台になっていた。
真ん中にはアラビア風の屋根が丸い先端が尖っている建物もある。宮殿のようだが、何かな?
「あそこが砂漠の入り口の町アイリースだ!!」
「へぇ、大きな町だな!!」
「ああ、中央大陸と東の島国を通る交易路の中継地点だからな、人も物も多くがここを通る」
現在地は中央大陸の東にある町アイリースに到着した。問題はどこに行けば俺は帰れるのか分からないことだな。
心当たりもないがシンとの出会いは偶然とは思えない、ならばコイツについて行こう。
「それで、おまえこれからどうするだ?」
「私か?そうだなぁ?とりあえず、町でのんびりしようと思う。学園に戻ればゆっくりも出来ないから」
「はぁ?学園?おまえ学生だったのかよ!王子なのに?」
「ああ、魔法の学園で国のために魔法使いを育っている。それに王子だからこそ率先して魔法を学ばなければいけないんだ」
「魔法も使えないのにか?」
「ウグッ!!」
ちょっときつい質問だったか、とりあえずそこで元の世界に戻る方法でも探そうかな?
「ちなみに、あの学園は貴族しか入れないから身分の保障出来ないセイには無理だぞ!」
「ゲッ!マジかよ!」
「それで、セイは?」
「俺はお前に付いて行こうと思ったけど、無理なら仕方ない、この町で上手くやるからたまに会いに来てくれ。」
「ああ、分かった」
相変わらず単純な奴だぜ、数時間前にあった俺にもう心を許している。
短いが旅で心でも通じたのかそれとも危機的な状況での吊り橋効果か、いや、これは女限定か?
まあ、そこそこ仲良くなったのかな?利用しやすくて助かる。
「とりあえず町を案内してくれ。あとこの盗賊も金に換えなきゃな」
「なんか、奴隷商人のようだが良いだろうこっちだ。」
町の頓所まで行き、盗賊たちを引き渡した。アイツらは結構なお尋ね者だったみたいで銀貨20枚になった。
この世界は硬貨による取引が一般的で金貨1=銀貨100=銅貨10000って基準らしい。
銅貨を十円玉として銀貨は千円札かな?ってことはアイツら二万円かよ!安いのか高いのか知らないけど、ありがたく頂戴。
町は通りは屋台などが建ち並び人でごった返している。
とくに整備されてない地面に絨毯を引き直接商売をしてる商人の姿も見受けられる。
活気もあり大きな店などもある、
「それにしてもお前、王子なのに少し気づかれないな?」
「ああ、私はあまり知られてないからな、それこそ名前以外は聞いたことも無いじゃないか?」
「まあ、写真が出回るわけないし、そんなもんかマントは取らないのか?周りから少し怪しまれてるぞ!」
「さすがにお忍びで顔を出すのは、私は髪も目立つし。」
まあ、白銀の髪はよく目立つからな、仕方ない俺が一肌脱ぎますか。
「おい、顔少し見せろ!」
「なんでた?」
「いいから、ちょっと動くなよ!そら出来た!」
「???」
本人には分からないが近くのガラスで顔を見るように言った。するとそこには
「な、な、私の顔が」
「幻術の一つで顔や髪の色を変えた。これならバレないだろう?」
「あ、ああ!大丈夫だが、これ戻るのか?」
「心配するな顔を変えたんじゃなくて、顔をの周りを幻術で覆ったんだよ!マントや覆面と同じようなもんだ。」
「そ、そうか?なら、いいのか?」
周りからは別人に見えるはず、髪の色も茶髪に変えておいた。
「ふぅー、実は暑かったのだ。礼を言うよ!セイ!」
「どういたしまして、で次はどこに行く?」
「そうだな、・・・まずは宿を探すのはどうだ?」
「OKそれでいいぜ!でも、お前はどこかに寄らなくてもいいのかよ?」
「私は・・・大丈夫だ」
とりあえず町で安全そうな宿に泊まることにした。
安くても安全そうじゃなかったり汚いのは論外だ。
前の世界より治安も悪そうだし、この世界特有の病気だってあるかもしれない。
出来れば安くて清潔な場所がいいが、
「ここなんてどうだ?」
「う-ん?少し高いな」
「それでも銀貨1枚だ。今日は最低でも20枚は手に入れたのだろう?」
そうだが、計画的に使わないと後が持たないかも知れない。
シンの奴は盗賊の賞金もアイツの持っていた硬貨には手をつけてない。
全部俺が貰ったのでかなりの金額が懐にある。
「まあ、王子さまには節約生活は無理か、そう言えばシンの宿は?」
「ああ、ここの領主とは顔見知りなので彼に用意してもらってる」
「流石、王子さまだな。まあ、俺はここにするか。今日は疲れたしまた明日にでも他の宿を探してみるさ」
宿も決めたことだし、どうするかな?
「すまないが、私は用事があるから先に失礼する!」
「うん?どこに行くんだ?」
「いや、気にしないでくれ、ほんの私用だ、じゃあまた明日訪ねるよ!」
そう言って、マントを被り走って行く。ははぁーん、さては女か!そう直感して一つの魔法を使う。
アイツの後を追うと治安の悪そうなスラム街のような場所に来た。
「やあ、みんな元気だったかい!」
「「「わあぁぁぁーーーい!!!」」」
シンの後を追ってみると薄汚れた子供たちに囲まれていた。
町外れの一角、あまり治安の良くないそこの異国風の教会にアイツは入って行った。
まあ、教会っていてもボロボロで廃屋と変わらないけど、
(あの子たちは・・・奴隷か!)
肌は黒く、皆元気だが少し痩せていて服も貧相だ。
腕には印と鎖のような物が巻かれている。
シンの周りに集まり、お土産であろうパンのような黒い物を配っている。
(アイツらしいがここは孤児院じゃないよな?奴隷の子供がこんなにいる割には人が少ない、
まさか!逃がした奴隷の子供を匿ってるのか!?)
アイツは相変わらず子供と戯れてる。
俺はそんなアイツが何故か見てられなかった。
そう、いつだって正しい善意は長くは続かない。そう忠告したかったがあの顔を見てそれを言う勇気は無い。
そうしてると、
奥からもう1人、ここの子供よりは年上だがそれでも15、16歳の少女が現れた。
あの子たちと同じ奴隷の印と鎖、しかしその少女は美しいかった。奴隷とは思えないほどに、何より
(え、理香?いや、別人?でも、なんで?)
混乱した。今出てきた少女は中学の時に告白した彼女にそっくりだ。
しかし、よく見れば違う所もある。彼女は肌はとても白かったが目の前にいる少女は黒いとまではいかなくても少し焼けており小麦色の肌だ。
目も黒ではなくて青色の瞳だ。肌はともかく目の色まで違うなら別人か。
2年前に失踪したので、確実なことは言えないが今も生きているならこの目の前の少女のように可憐に成長してるだろう。
その少女は子供たちを撫でたりしながらシンの所に向かう。
改めて見ると絶世の美少女だ。小柄ながらスタイルのいい体、芸術のような顔、ツインテイルの黒髪は艶がありさらさらとしている。
小麦色の健康そうな肌はとても美しい脚もすらーっとしている。
問題はあの子がやけに薄着なことかな、あの子に限らず周りの奴隷の子供はみな汚れた白い布のような服のみで手足と腹は完全に露出している。
最低限の衣服しか与えられないらしい……
「あ、シン来てくれたんだ!」
「うん!ヤシロ、大事はなかったかい?」
「ええ、シンこそ何もなかった?」
「いや、私はおかしな目にあったよ!」
それから、シンはヤシロと呼ばれた少女に俺との出会いを話した。
いきなり縛られたこと、盗賊を撃退したこと、魔法のことなどとても楽しそうに話してる。
ただ異世界のことは口止めしたで話さない。
「へぇー、その人どこから来たのかな?」
「あはっはっは!そ、そうだなあ、不思議な人だ」
嘘がバレバレだ馬鹿め、と思いながら、
(やっぱりアイツに似てるな、特に嬉しいそうに話すとことか)
中学時代の同級生を思い出す。
シンの奴が気になるのはアイツに似てるせいにして、2人の会話を盗み聞きする。そして話は王位継承の話に移る。
「ヤシロ、すまない!やはり私は魔法は使えないようだ。
これでは君に約束した奴隷の解放などいつになるか・・・本当にすまない!」
「シン、気にしないで、
あなたが私をこの子たちを助けてくれたんじゃない!
だから、自信を持ってあなたは王になれなくても立派な人よ!
きっといつか認められる日が来るわ!」
なるほど、危険を冒してまでなんで魔法を使えるようになりたいのか気になったが、これが理由か。
その後、子供たちと遊んだりと家事を手伝うなど盗み見る必要もないから宿に帰った。
翌朝シンの奴が宿に訪ねてきた。マントを脱ぎ部屋のイスに座る。ちなみにこの宿は安い所に比べて2倍も高いがその分ベッドもイスもあり、風呂はなかったが木造の部屋は過ごしやすかった。
「やあ、昨日は休めたかい」
「ああ、快適だったよ、おかげでここ以外の宿に移る気が失せた。」
ハァー節約が、まあその分稼ぐかと思い直し、
「それで、今日はどうするんだ?」
「俺か?町で職でも探そうかと思ったけど、気が変わった」
「?」
「お前が言ってた賢者の墓を探してみようかと」
「な、なぜだ?君が探す必要はないだろ?」
「別にいいだろ、お宝でもあるかもしれないだろ?」
「しかし、また砂漠に行くのは危険では?」
「だから、お前について行くだよ!ああ、魔法の手掛かりがあったら譲ってやるよ!世話になった駄賃だ」
「なあ!?」
「分かりやすいな、シン!そんなにあのヤシロって子に御執心か!」
「なんでヤシロのことを?いやそもそもらどこで?」
俺は魔法を使用した。すると、まるで風景に溶けるように姿が消えた。
「なあ、消えた!?」
「これは、『偽態≪ぎたい≫』って魔法だ。
周りの風景に溶け込み、相手を騙す魔法だ。
これで近くから観察させて貰ったぜ!
シン、お前もスミに置けないな?」
「趣味が悪いな。覗き見なんて」
「悪いな、でもあんな態度で出て行けば気になるさ!」
気にならなくて、利用する人間のことくらいは調べが、
「ハァー、分かった。それで私に同情してくれたのか?」
「そこはあの子供たちのためか?とか聴かないのか?」
「君はそんな人ではないだろう?」
「うわー酷えな?まあその通りだ。強いていうならあのヤシロって子に恩を売ってあとで色々なことして貰おうかと?」
「お前ぇ!!!ふざけるな!ヤシロに近づくな!!」
「ああ、やっぱりあの子こと好きなか?本当に分かりやすい!!冗談だから安心しろ!」
「クッ!!はめたな?」
「まあ、いい勉強になったろ?」
「本当に彼女に手を出すなよ?」
「ああ、分かった!本当は賢者の墓なら元の世界に帰るヒントくらいあるかもって思っただけだ。同情でもあの子のためでもない。」
分かりやすいくて危険だな!素直にそう思う。
コイツは弱点を簡単に明かした。
それはコイツにもヤシロにもあの子供たちにもよくない。
まあ、俺には関係ないか。
「なら、行くか?俺は元の世界に帰る方法を探すために」
「ああ、行こう!私は魔法を使えるようになり王になるために」
さて、異世界の町での生活は名残惜しいが砂漠に行きますか