13 王都の格差
ヤシロは男たちに囲まれ魔法による暴行を受けていた。
殺傷力は低い魔法だろうが、それでも十分な威力があり、彼女の体や服が傷つけられていく。
「たく、何で魔力もない人間がこの王都を勝手に歩いてんだよ!」
「全くだ、魔法も使えない下民が街の中を堂々と歩くなんて!」
「この魔力の低さ、奴隷じゃないのかコイツは?」
やはり、奴隷の印や鎖が無くても魔力がないと目をつけらるか!
ヤシロの奴隷の印は俺の魔法で消したが、
魔力のほうはどうしようもない、
魔力は感覚一つで探れるので隠しようもないし、
(街の中ならそこまで魔力を気にする人間も少ないと思ったが、やはりヤシロ一人で出歩くは危険か!)
彼女に目を離したこと後悔しながらも、男たちは倒れたヤシロに近づいていく、
「どうするコイツ?」
「魔力が全く感じないんだ!奴隷が印をつけられる前に逃げ出したんじゃ?」
「なら、俺たちでちゃんと躾けないと!」
男たちは、厭らしい目つきをヤシロに向ける。
(これがこの世界のこの国の現状か・・・シンには生きづらい世界だな)
さて、のんびりしてる場合じゃないな、ヤシロが怯えたように後ずさりする中、
俺は姿を変えて男たちの前に姿を現した。
「なんだ、お前は?」
「おい!コイツ魔力!?」
「なんだこれ!!貴族?いや、下手したら王族の!!」
へぇー、かなり魔力が増えたから、どれくらいのものかと思っていたが、どうやら俺の魔力は王族にも負けてないらしい。
(まあ、コイツが正しいとも限らないか・・・とっとと終わらせよう)
ヤシロを庇うよに立つと、
「おい、お前ら、人の連れに何してんだよ!!」
「「「ヒッ!!」」」
魔力を少し解放して脅す。
もしかしたら少し魔法で脅す必要があると思ったが、これならすぐに終わる!
「大した魔力も無いのに威張ってんじゃねぇー!!失せろ!!」
「ヒッ!すいませんでした!」
「おい、行くぞ!!!」「待ってくれ!」
3人とも一目散に逃げて行く。
ここで余計なトラブルを起こしたくなかったので、ありがたいが、やはりヤシロがやられた分は仕返ししてやりたかった。
(まあ、本人は望まないか!それより治療しないと……)
「もしかして、セイ?姿を変えてるの?」
「そうだ、悪い…目を離すんじゃなかった」
「いいえ、私が勝手に離れたから」
だいぶ酷くやられたようだ、
体には傷もあるし、服も所々破けてる、
服の裂け目から白い下着が見えたが黙っておこう。
魔法『虚否』を発動、ヤシロの体の傷も服の破損も元に戻っていく、
「前にも思ったけどセイの魔法って本当に凄いね!!」
ヤシロは痛みも引いて笑顔が戻るが少し暗い、
まあ、あんな目にあえば仕方ない、
「これがこの国の格差か…」
「うん、同じ人間でも魔力の有無でかなりの格差があるの……」
同じか・・・あいつらからすれば同じじゃないのかも……
「帰ろう、買い物もある程度済んだし、これ以上の面倒事は避けたい」
「うん、ごめんね」
「ヤシロが謝ることじゃない!それよりも立てるか?」
「え、あ、うん、ありがとう」
手を差し伸べるとヤシロは少し以外そうね顔をした。
「セイ?もしかして怒ってる?」
「あいつらのことは気にくわないだけだ」
「やっぱり、怒ってるんじゃ?」
「あーあ、もう、どうでもいいだろ!行くぞ!」
「あ、待ってよ、セイ!……ありがとう」
こんなことで、躓いてる暇は無いのに、
はぁー、彼女が相手だとかなりペースが乱れらる。
シンの現状もこの国の問題も理解できた。
後は周りをどうするかだな、
「学園で味方を探すのが1番早いかな?」
そんなことを考えながらヤシロと2人で家に帰る。
『偽想空間』に入れた家具など全て取り出して配置する。
あまり贅沢は出来ないが快適な生活は送れるくらいの空間はできた。
(テレビや冷蔵庫はないか……まあ、魔法で家電を補ってるみたいだから、仕方ないか!)
ヤシロは隣の部屋に、割と大きな屋敷なので30以上の部屋があるが、後々役に立つまでは空き部屋だな!
いろいろとあったのでもう夕方だ、王都に到着して初日にしては順調にことが済んだのだろう。
(あとはシンが魔法学園に行くまで待機だな)
自分の部屋でベッドくつろぐと睡魔に襲われ、そのまま寝てしまった。
夢の中ような空間、そこは以前きた暗闇のような空間だった。
「ここは……また来たってことは・・・おい!いるのか?」
「ええ、いるわよ」
またでたか、俺をこの空間に呼んだのは例の影の少女だ。
相変わらずシルエットしか分からないような姿で俺の前に立つ。
今回は何のようだ?
「どう、この世界は?楽しんでる?」
「生憎と、少し胸くそ悪いものを見たばかりだ!」
差別があるのは分かっていたが、実際に見ると面白くない。
「あら?そんなことに気にしないでいいのに!」
「……どうゆう意味だ?」
「だって、この世界はあなたの嘘で出来たのものだもの!」
「!?」
「ええ!知っていたはずよ!この世界はあなたの嘘そのものだと」
何を!?
何を言ってるだ!!!
「分からない?あなたの恋人に似ている少女、あなたにそっくりな王子、なのに中身はあなたの憧れの人に似ている!これって偶然かしら?」
「!?」
「あなたの恋人も『親父』と呼ぶ人物もどうしていなくなったの?」
「……」
「ああ、なんてステキなのかしら、
無力さに苛まれながらも、
愛する人を失っても、
あなたは嘘の道を歩んで行く!」
分かっていたが狂っている!!
文字通りにこの少女の形をした化け物!
「そう、あなたの恋人もあなたのお父様ももうとっくに……」
「何のことだ!!」
「フフッ♪嘘つき!!分かってるくせに?
この世界はあなたが創ったのよ!
あなたの嘘が!!」
「!!!違う!!!」
俺の嘘が!!
「あなたはまだ彼女のことが忘れられない!おなたのお父さんが忘れられない!
2年前の恋人のことを未だに思っている!4年前のお父さんことを未だ慕っている!
あなたはだから嘘を吐いている!!」
頭が割れそうだ。こいつの言葉はあたりに的確に俺の心を揺さぶる。
そう、中学校に入って親には愛想が尽きていた時に彼女、『卯月理香≪うげつりか≫』と出会った。
彼女は病弱で中学に入っていたが、学校には来れなかった。
そんな彼女と出会いは簡単だプリントを届けろと担任に命令されたのからだ。
病院など来たこともなく、学校帰り俺が近くを通るから任された役目だった。
面倒だが、『親父』と別れてまだ腐る前の俺は仕方ないかっと思いながらも病院に足を運んだ。
そして彼女に出会った。
これ以上の会話は限界だと思っていたとき、
「いいわ、ご褒美を増やして上げる♪」
「?」
「あなたは2年前の彼女に会いたいのでょう?
だから、必死に元の世界で彼女を探している、
それが、あなたが元の世界に帰りたい理由でしょ?
なら、私が会わせてあげる」
顔は影で見えないが、少女が笑った気がした。それも背筋が凍るような笑いだ。
「できるのか?」
それが危険だとしても、俺は手を伸ばしてしまう。
「ええ、私は深淵に、最果てに、根源に、そして真理に通じているもの♪」
意味は分からないが、この存在なら簡単だろとも思う。
「なら、俺は」
そうだ、彼女を取り戻したい、だから帰るんだ!
「俺の手で彼女を見つける、だから断る!!」
「!!?」
お前の力はいらない、そんな禍禍しい取引で彼女に会いたくないんだよ!!
はっきりとした拒絶、この圧倒的な化け物には命知らずな行動だったが、それでも俺は何回でもこの選択を選ぶだろう。
「あなたは本当に面白いわね♪あの子が気に入ったのも分かる気ごするわ!」
「???」
「まあ、いいわ!ならもう少し力をあげるからあなたがもっと頑張ってね♪」
また、瞬間移動で頭に手が置かれる。
(前は魔力と新しい魔法の代わりに罪悪感をあまり感じなくなったけど、今度は何が起きるんだ?)
薄れゆく意識のなかで、頭にから入り込んで来る力に絶叫しながら気絶した。