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#7 影

 ──本当は、いつまでもただ、巫女(おまえさま)に仕えていたかった──

 ──何もいらぬ。名前も呼ばれずぼろを着せられ、畜馬のごとく扱われても、巫女のそば近くで仕えられることが幸せだったのだ──


 ヨウが生まれたのは代々続く巫覡の家だった。後年、この家に娘が生まれ、これが神の依巫(よりまし)たる巫女に、ヨウはその側役になった。

 祭祀を行う巫女は清浄でなくてはならぬとされ、土に触れてもならず、穢れに触れてもならぬとされていた。巫女の身の回りの世話の傍ら、その清浄さに惹かれて集まる雑鬼や魍魎を自身に集めて滅するのがヨウの仕事で、それはもともと巫女と同じ血を持つヨウにしかできぬことだった。

 そのためヨウには汚穢が染みつき、それが人々の蔑視と怖れを呼んだが、ひとり巫女だけはヨウに憐憫のまなざしを向けていたのである。

 憐れみと哀しみと。ヨウにはそれで十分だった。

 常に魍魎に憑かれていたヨウは、知らぬ間に妖力をも蓄えていた。だがそれは穢れた力であり忌むべきものであって、言葉と共に汚穢をまき散らすから、と、口を利くことも禁じられた。だからヨウは、巫女への思慕を三弦の音に託し、日々をひたすらに巫女に捧げた。

 巫女がヨウの全てであり、生きる理由だった。


 ──だがあの日、全てを喪った──


 復讐のためにいじましくも拾った命。その後も死にきれずこうして無残に生きている。

 ただ風に吹かれては散る塵埃のように。

 ただひとつ、手の中に残った木犀剣とともに、滅んだ村を後にした。あてもなく行く手は常に闇であり、出会いはあったがヨウの力を知ると人々はみな遠ざかった。

 瞼の裏に血と炎の赤が消えることはなく、眠りもヨウを癒してはくれなかった。

 だが、いま(・・)──。



 かなたに懐かしい声を聞いた気がした。

 温かななにものかが、ヨウを包んだ。




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