#13 澪2
この項には残酷なシーンがあります。
数日後、ヨウと澪は庭に引き出された。
そこらの石を適当に並べた上にはどこで拾ったのか鉄板が置いてあり、石と鉄板の間には藁や木ぎれが差し込んであった。
ヨウは絶望にめまいがする思いだった。鉄板の四方にはどうやら巫女舞の舞台飾りを模したらしい枝が立ててあり、そこに張り巡らした縄には幣の見立てと思しき村人の髪が縛りつけられていた。
男たちはヨウの首に縄をかけそこらの木に縛りつけ、澪のみを鉄板の上に置いた。澪はぐったりと力なく座り込んでいたが、怯えた表情でヨウを見た。
「やめろ……! 何をするつもりだ……」
上ずった声が出た。
澪もヨウの恐怖に反応し、鉄板の上から逃れようとした。それを男たちが手にした笞で留めた。
「今日は巫女さんの舞を拝ませてもらおうと思ってな。急ごしらえだが舞台も用意したんだ」
にやにやと笑いながら頭目はそう言うと、その場の男に目配せした。男もまた笑いながら、手にした種火を鉄板の下の藁に移した。
煙とともに悲鳴が上がる。
「いやっ、いやあ!」
男たちがげらげらと笑い出した。それからてんでに囃しはじめた。
「ほら舞えよ! 巫女さんよ!」
「立てよ! 腰を振って舞え!」
澪は泣きながら、弾かれたように立ち上がった。熱せられた鉄板から少しでも逃れようとしたのだ。だが足裏を焼かれる苦しみに、すぐに手をついてしまう。
辺りには絶叫といやな匂いが充満した。
「もうやめてくれ! 何でもする! やめてくれ──!」
目の前の光景にヨウは気が狂いそうだった。あがいては息を詰まらせながら、ただ阿呆のように叫び、懇願することしかできない。
「うるせえぞ!」
火を搔いていた男はそう怒鳴ると、手にした棒でヨウの折れた腕を乱暴に打った。
激痛が脳天を貫く。しかしそれも、今澪が味わっている地獄に比べればたいしたことはないはずだった。
「頼む、やめてくれ……! 俺を焼いてくれ……!」
なおも懇願するヨウに男たちはげらげら笑いながら揶揄の言葉を投げつけたが、頭目はヨウに近づくとその場の男たちに頭を押さえるように言い、腰の短刀を抜き、眼前に突きつけた。
「そうだな、妹が炙られてるのを見せるのは酷ってもんだ。望み通り、見ないで済むようにしてやるぜ」
そう言うが早いか、ヨウの両まぶたを切り裂いた。
残酷な神楽の後も、澪はしばらく生きていた。だがそれは、生き地獄が長引いただけのことだ。
視力を失ってからは、ヨウが澪にしてやれることはその名を呼ぶことだけになった。焼けただれた身体に触れることもできず、自身も痛みと熱に苛まれながら、ヨウは傍らで澪の名を呼び続けた。しかし澪の悲鳴は、日ごとにか細く、弱々しくなっていった。
「なぜこんな、惨いことを……俺たちが何をしたんだ……!」
あの日。男たちが投げてよこした虫の息の澪を抱き、ヨウは呻いた。嬲られ続けた澪のありさまはもはや正視に耐えなかったが、手当もされずに放置された傷が膿み崩れ、ヨウもまた血まみれである。
「何をした、だと? おまえはわしらの仲間を散々殺したろうが」
頭目が珍しく声を荒げた。この男は終始ヨウと澪を見下した笑いを浮かべていたのだ。
「最初に言ったはずだぜ、おまえへの借りはこの女に払わせてもらうとな。八つ裂きにしてもまだ足りないが、存外に楽しめないもんだな。もう少しは生きるかと思ったが」
頭目は一旦言葉を切り再びふたりを睨めつけ、
「もう死ぬな」
と、あっさり言うと続けた。
「兄さんよ、おまえが引導を渡してやんな」
男たちもくちぐちに言った。
「これは情けだ。おまえがしてやれる兄らしいことといえば、せいぜい楽にしてやるくらいだろう」
「おまえがやらないならわしらがやるぜ。腹を裂いて、臓腑を引きずり出してなあ」
それを聞き、ヨウはのろのろと妹の頭を抱いた。
血にまみれた眼から涙があふれ出た。こいつらは本当にやるだろう。最後の最後まで嬲り抜き、穢し尽くすつもりなのだ。
ゆっくりと腕に力を込め澪の顔をおのが胸に押しつける。澪は少し抗ったがその抵抗は弱々しく、やがて力が抜け動かなくなった。
「外道……! 必ず、地獄に落としてやる──」
ヨウの呪詛を聞きとがめ、頭目がせせら笑った。それから蔵の隅にあった槍を手に取った。
「外道だと? 妹殺しが、おまえこそ地獄に落ちやがれ」
そう罵ると、澪の亡骸を抱いたままのヨウを貫いた。