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慣れないことはするものじゃないと俺はこの短時間で身に染みた。
図書室は相変わらず静かだった。この時間は人もほぼいない。俺は奥の席に向かう。これでやっと一息つけると思っていたら、先客がいた。その女は一言で言うと美人だった。
その出で立ちは、腰まではあるだろう長い黒髪を下の方で一つに括っており、また銀色のフレームの眼鏡をかけている。とても地味な格好だ。だが、白くて染み一つない肌にすっと通った鼻筋、今は伏し目がちだがそれでも十分に大きいと分かる黒目がちの瞳、ほっそりとした顎にかけてのラインに夏服で布が薄手だからか服の上からでもはっきりと分かる小さくて丸っこい肩、たとえ格好は冴えなくとも綺麗だと思える見目をしている。履いている上履きの赤いラインから、彼女が一つ年上だということが分かった。
彼女の容姿は、彼女と同じ学年にいる、かの有名なこの学園のマドンナと名高い山縣先輩に引けを取らないのではないだろうか。山縣先輩は秋の文化祭のミスコンで二年連続優勝をしていて、確かそれが理由でそんな渾名で呼ばれるようになったらしい。俺もちらっと見たことがあるが、彼女とはまた系統の違う綺麗さだった。
だが俺基準で美人ということはここでは相当のブスになっているのだろう。彼女はちらっと俺を一瞥して直ぐにまた読み途中の本へと視線を戻した。俺が逆の立場でも恐らく同じことをしていたはずだ。
俺は何だか自分の居場所を取られたような気がして、急に腹が立った。だがここから動いてやるのも何だか癪に障って、俺は彼女の向かい側の、一番遠い席に座って本を読み始める。彼女はまたもう一度ちらっと俺を見て、やはり何も言わずに視線を下げた。
多分、今の俺と彼女は同じことを思っているだろう。
早く出ていって欲しい。
これに尽きる。
だがそれからどちらが動くこともなく、黙々と意地を張り続けることとなった。
当然だが、先程疲れた心は休まらなかった。