前提
主人公の性格があまり良くないのでご注意下さい。
明晰夢というものがある。
夢を見ていると自覚している夢のことだ。その夢は、自分の好きなように変えられるらしく、またネットではしばしば感覚すら感じられるという話だ。
だから、きっとこれもそうなのだ。俺は現実に不満を抱いていた。高校のスクールカーストの下位に燻っているべきではないという思いも、女にモテたいという欲求も気付かなかっただけで、本当はどこかでそう思っていたのだ。
これは、夢だ。そうでなければ、一体なんだというのか。
朝起きたら常識が変わっていた。
男が女の扱いをされるようになり、デブと不細工が美人と称されるようになった。
背丈はまあまああるがガリで不細工、いじめられていたわけじゃなかったが学校のスクールカーストでは底辺をさ迷っていた俺は一夜にして儚げ美人へと変貌していた。周囲の評価が。美人もどうかと思うが、儚げって何だ。この面のどこに儚さとか感じてんだって話だ。意味わからん。
学校に行く時は、前までいってらっしゃいの一言だったが、あなたは可愛いんだから気を付けるのよ何て言われるようになったし、高校に行くために電車に乗ると、美人にけつを撫でられた。正直、ちょっと嬉しかったのは内緒だ。出来る女って感じの三十代前半くらいの美人で痴女とか美味しいです、はい。
学校では俺とグループ組んでたダサくて暗かったやつらが教室で得々として騒いでいる。
美醜の逆転と共にスクールカーストも逆転した。大体学校のスクールカーストで上位を占める奴らはそこそこ見た目が良いのばかりだ。そのため見た目が逆転したことで、美少年となったこのグループの奴らはこのクラスを牛耳っていると言わんばかりだ。でもそのグループ内でもやはり格差はある。それは大体見目が良い奴とか、話が面白い奴なんかがなる。このグループで中心なのは、何故か俺だった。俺はこの中でも群を抜いて不細工だ。つまり、逆転した今俺は物凄い美少年になっている。でも俺はその反面敵も多いようだ。何か、この世界では俺はビッチらしい。付き合っては短期間で別れ、また直ぐに付き合うことを繰り返していたことになっていた。何だかよく分からんがヤベェ。しかも挙がっている名前がブスとかデブで有名な奴だったから尚更だ。ついたあだ名は面食い。もう、何も言えねぇわ。
グループの中心は俺みたいだが、このグループに影響力が強い奴はもう一人いるから実質ツートップみたいな形になっている。名前は後藤瑞希。略してゴミと呼ばれ、クラスでいじめられていた。太めの体に根暗な性格。いつもおどおどとしていて、少しどもりが入っていた。それと、体臭が少しきつくて、夏はたまに変な臭いがする時があった。だがこの世界では可愛いらしい。体臭も、いいらしい。可愛い女子から甘い匂いがするっていうあれと同じみたいだ。俺には臭く感じるけどね。
後藤は見た目が可愛い系となっているからか、ぶりっこになっていた。一人称は瑞希で、変に語尾を伸ばしている。身長が低めだから度々上目遣いになるのだが、僕可愛いでしょ的なのをあからさまに出している。どもりも見る影がなく、べらべらとよく喋っている。極めつけはスキンシップが多い。正直デブで不細工な男のぶりっことか見るにたえないものがある。こういうのってやっぱり可愛い子だからこそ許されるものがあると思う。
正直、このグループではやっていけないと思った。まずノリが違うし、見る度に凄い違和感を感じる。それが苦痛で、俺はグループから距離を置くようになった。グループの奴らは心配したが、俺は適当に取り繕って一人でいるようになった。
俺の友達は何もこいつらだけじゃなかった。
グループこそ違うが、俺には凄く仲の良い奴がいた。隣のクラスの塩野澪という男だ。
中々のイケメンで、バスケ部のスタメン。当然スクールカーストは最上位だった。いつも自信に溢れていたけれど、傲慢だとは思わなかった。澪とは好きな歌手が同じで、そこから意気投合して仲良くなった。俺は音楽は所謂アンダーグラウンドなものを好むたちだったが、意外にも塩野もそうだった。
俺結構こういうな曲が好きでさー、と笑って言っていた澪は中々のマニアだった。何でも持っているように見えた澪に嫉妬しなかったことが無かったと言えば嘘になる。でもそれよりも何倍も澪といるのは楽しかった。
澪は格好良かった。見た目だけじゃなくて、性格だって良い奴で、俺はそんな澪に密かに憧れていた。
ここでは俺と澪は仲良く無いみたいだ。廊下で何度かすれ違ったし、一度声もかけたけれど他人行儀のような話し方をされた。
俺の知っている澪はどこにもいなかった。声を交わした時に一度も交わらなかった視線。覇気のない陰気な顔。
俺はそれにとても失望して、逃げるように去った。それきりあれから言葉を交わすことはなくなった。