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黒と赤の獣  作者: 広科雲
2/12

二、『災厄』リポート

 ディーン騎士団認定賞金首『災厄』ハーツは、大陸新暦六七六年、オトワール国サザーハント領サザーハント侯爵家当主の一人娘、シャルレットの長男として誕生した。本名はレオニクという。

 シャルレットはレオニクを出産後、半年で病死。難産による体力低下が災いしたとされている。

 父親はコートベルト・マイストというサザーハント家に仕えていた騎士で、婿養子として侯爵家に迎えられた。

 夫婦となる以前から両者とも領内での評判はよく、理想とまではいかなくとも、幸せを祝福したくなるような組み合わせだったという。とくに、サザーハント領を含む近隣では二人の結婚をまえに魔物の一斉蜂起があり、人も土地も不幸が続いていただけに、なおのこと二人は復興の兆しとして領民の希望となっていたようだ。

 六七七年新春、母親のシャルレットが亡くなると、サザーハント家当主でありハーツの祖父であるハウド・デル・サザーハントは孫のレオニクを溺愛し、彼を次期当主とする手続きをとった。娘婿のコートベルトは不服に思いながらも逆らうことができず、妻の死から二年後に魔軍との戦いで戦死してしまう。

 さらに一年後の六八〇年、祖父ハウドが急死。常用していた薬の分量を間違えたため、と報告されている。こうして当時まだ四歳であったレオニクは、オトワール国でも名門とされる貴族、サザーハントの当主となる。

 なるはずであった。

 祖父サザーハント侯ハウドには、エルドという弟がいた。彼とその妻はすでに死去していたが、息子のアウディ・デル・サザーハントが分家当主として男爵号をうけ、本家領地の一部を統治していた。

 アウディはサザーハント家の血を一滴も受け継いではいない。子供のできなかったエルド夫妻が、とある貴族の六男を一〇歳のときに養子としたのである。彼は幼少のころより明晰な頭脳と冷静な判断力の持ち主であった。エルドはその点を高く評価してもらい受けたのだが、その裏に潜む利己的な性格にはついに気付かなかった。

 アウディ、このとき二六歳。才能と才覚ある野心家が、四歳の子供を本家主人としてあがめ、下につくのをよしとするわけがなかった。

 ハウドの死からわずか二ヶ月。アウディはあらがう術を持たぬ幼児から、合法的に全財産を没収したうえ、遠方の孤児養護施設へ送りこんでしまったのだった。


 ミレイユは三等書記官室で『災厄』ハーツの資料をひろげ、新たなリポートの作成に取りかかっていた。まずは古いリポートの再構成と清書をしようと、経歴を復習しているところであった。

 この資料は比較的最近になってディーン騎士団へもたらされたものである。それまでハーツの過去は施設での生活からはじまっており、それ以前は不明であった。ようやく判明したのは、当時の施設責任者が重い口を開いたおかげであるのだが、『事実が確認されても罪には問わぬ』という取引がなければ、きっと一生口をつぐんでいたに違いない。

 彼の証言から、ハーツを引きとる代わりに施設と彼個人に多額の贈与がなされていたのがわかった。だが、当時はサザーハント侯爵家の跡取りであったとは知らなかったようで、独自に調べて答えへと到達したのだそうだ。

 施設責任者はこうも証言している。

『彼は紹介されたときからハーツという名前で、性も持ちませんでした。わたしは事実がわかると恐ろしくなり、自分とまわりのすべての人たちのために、ずっと胸にしまっていたのです』

 何度読んでも気分の悪くなる話である。

「子供のころをみるかぎり、ハーツは不幸な被害者なのよねぇ……」

 本来ならば隣国オトワールでも一、二を争う大貴族の当主で、こんな犯罪者リストのトップをかざるような人物ではなかったはずなのだ。それが両親・祖父と立て続けに亡くし、あげくはまったく血縁のない親族にすべてを――名前すらも――奪われ、最高賞金首にまでなるとは、人生とはわからない。

 ハーツの人生の転機はこれだけにとどまらない。ミレイユは重い気持ちで次のファイルをとった。


 施設に入れられたハーツは家族が消えた悲しみに鬱ぎこんでいたが、徐々に新しい生活になじみはじめた。このころの彼は、わずかに癇の強さを見せてはいたが、他の子供たちとも普通に遊び、学んでいたようである。

 しかしながら六歳の夏、生まれつきあった額のアザをからかわれ、三人の少年に見過ごすことのできないケガを負わせる。

 この事件をさかいにハーツは孤立するようになる。

 孤独の寂しさとストレスからか、彼はよく癇癪を起こすようになった。物にあたることが多く、いらつくと広場の大樹を木の棒や拳で殴りつけていた。

 そしてついに、ハーツは大罪を犯してしまう。

 九歳のとき、野外キャンプが催された。施設からそう遠くない渓流を臨むキャンプ場でのこと、施設外の子供がハーツにからんだ。

 自制がきかなくなっていたハーツは、相手の少年を殴りつけた。とても九歳とは思えぬほどの力で、何度も、何度も。

 とめようとした施設の職員にもケガを負わせ、ようやく取り押さえたときには、相手に意識はなく手当ての最中に亡くなった。

 ハーツは施設に戻ることなく、そのまま未成年特別収容所へ送られた。


 「ハーツの初めての殺人がこれね」

 家族を亡くし、施設にも味方はなく、孤独のうちに育った少年に、ミレイユは同情を禁じ得ない。起きてしまったケンカはともかく、その後の施設のやりように問題があったのではないかと思う。しかし、施設には三〇〇人からの孤児がいたが、職員は二〇名足らずだったようだ。雇用を増やすにも国の援助もたいして受けられず、食費にすら困るような状態だったらしい。そのへんを考慮すると施設側にも言い分はあるのだろう。それに、ハーツはねじ曲がってしまったが、立派に成人し世界に貢献している人物もいるのだから、一方的な見解をしてはならない。もっとも、施設責任者だけは厄介者がいなくなったと内心では喜んでいたのかも知れないが。

「個人の資質……性格の問題なのかな?」

 癇癪もちであるのはわかっていた。それを矯正する大人がいなかった。現在の彼は、そのときのまま身体だけが成長してしまったのではないだろうか。つまりハーツは、精神は未だに子供なのだ。

 それは未成年特別収容所の生活からも容易に想像がつく。


 未成年特別収容所とは、凶悪犯罪を起こした未成年の再教育を行う施設である。基本的に四人一グループで生活し、教育と労働が義務づけられ、余暇を個人的能力の向上や趣味に割り当てて社会復帰を目指す。

 九歳で収容所送りとなったハーツは最年少グループに属した。やはり当初はルームメイトとのイザコザが絶えなかったが、周囲に似たもの同士が多く、理解しあえる仲間ができたようである。

 ただ、理解を得られない者にはまったく容赦がなく、一年後には最年少グループを支配するリーダーとなっていた。

 それからというもの、彼は上級生グループや反抗する者とのケンカに明け暮れた。暴走の末、何名かの生命も奪っている。ようやく得た仲間もハーツの異常性に次々とたもとをわかち、また孤立するようになった。

 一三歳にして収容所のボスとなったハーツは職員の手にもおえなくなり、特別室という名の独房に閉じこめられた。

 社会復帰も難しく思われ、かといって未成年を死刑にもできず、収容所所長はハーツに対して特別徴兵令を執行する。徴兵令とは、成人|(一七歳)までに社会復帰を認められないような者がでた場合、軍に入隊させるというものであり、『特別』とつくのは成人まで待たずに執行されることをさす。

 こうしてハーツは、一三歳にして戦場にかり出される。


 清書するミレイユのペンがため息とともに動きをとめた。

 徴兵令で送られるさきは決まって第九九歩兵隊であるが、オトワール国正規軍の部隊総数は九九もない。

 しかし九九歩兵隊は国内外で勇名をはせており、軍事に疎いミレイユですら彼らの強さは知っていた。

「オトワール軍の末席、それも永遠に末席におくという意味で第九九歩兵隊。行き場をなくした犯罪者を効率よくまとめて利用する場所。だからこそ、彼らは強い」


 第九九歩兵隊は、部隊としては中隊規模の人数であった。装備も職種もさまざまで、彼ら一部隊だけで偵察・戦闘・工作が行えた。戦場では独立した部隊として扱われることが多く、それに見合うだけの戦果も挙げている。

 隊員のほとんどは犯罪者で、死刑宣告か入隊かを迫られ、生を選んだ者の集まりだ。彼らは一生、第九九歩兵隊に所属することで生をつなぐのだが、戦場で多大な戦果をあげると恩赦が与えられる場合もある。血の気の多い彼らにとっては、いっそ望むところであった。

 新暦六九〇年、オトワール王国は六七〇年代につづき、深刻な魔物の侵攻にむしばまれていた。

 ハーツは初陣として、彼の故郷であるサザーハント領の防衛任務につく。それまでの約一年のあいだに彼の戦闘技術はさらに向上し、隊のなかでも屈指の剣士へと成長していた。

 サザーハント領は度重なる魔物侵攻で、土地はやせ衰え、領民の多くは疎開をしていた。ハーツがどのような気持ちで故郷へ帰ったかは証言が得られていない。彼はサザーハント出身であるのを含め過去を語らなかったので、周囲も気づきようがなかった。そもそも家を奪われた当時四歳の幼子が、どこまで覚えていたかも疑問である。

 約半年間、第九九歩兵隊は魔物と戦った。部隊の半数以上が戦死したと公式記録には残っているが、ハーツは生き延び、また、新たな力を得ていた。以後、彼の得物となる黒の長刀『暴風(テンペスト)』を、魔軍の将から奪いとったのである。

 『暴風(テンペスト)』を扱うハーツは魔軍を一気に殲滅せんめつし、長引くと思われた戦争を圧倒的勝利で終結させた。領主であるサザーハント侯アウディは戦死したものの、第九九部隊は立派に役目を果たしたと言ってよい。

 なお、領主を失ったサザーハント領は周囲の貴族に分割・併呑された。財産については国が徴収し、領民救済に使われたという……


 兵隊時代のハーツについては、ミレイユにも克明な記憶があった。まだ彼女がディーン騎士団の事務官でもなく、未来に夢みる少女であったころ、隣国オトワールの『黒い嵐』と呼ばれる剣士がいると噂を聞いていた。身の丈ほどの黒い剣を振りかざし、襲い来る魔物を次々と撃退する最強の剣士ハーツ。英雄にあこがれる近所の少年たちが、『ハーツごっこ』をしているのをいつも眺めていた。

「そう、あのころ彼は英雄だった。無知で無邪気な子供たちにとっては……」

 ガガーリン王国にも魔軍の侵攻が見られはじめたころであったため、隣国の英雄の噂は無責任な尾ヒレがついて広まっていた。たしかに力量だけをみればハーツは魔軍討伐の英雄と呼べるであろう。しかし伝わってこない悪しき風聞は、彼を単なる殺戮者と評する。敵味方なく目前の相手を切り裂き、うち砕き、握りつぶす。そんな兵士が英雄であるわけがない。もしそれでも彼を偶像とするならば、国が余計な部分を切りとって宣伝しているからに過ぎない。

「彼は戦場でも、戦場以外でも人を多く殺している。軍隊生活六年のあいだに、敵味方含めて三二七名。個人による殺人数の最高値を記録している。知られていない人たちも合わせたらいったいどれほどになるのか」

 資料がとれる範囲で彼の被害者リストがある。左手に積み上げられた四つの木箱がそれであった。ミレイユの仕事には、その膨大な被害者リストの整理も含まれており、考えるだけで気が遠くなりそうであった。

「彼には英雄になれる力があった。けれど、心は英雄にほど遠かったのね」


 第九九歩兵隊を抜けるには三つの方法があった。

 一つは戦死すること。二つ目に戦果を挙げ恩赦を受けること。第三に、脱走することである。

 ハーツは軍隊生活六年目の六九五年、ガガーリン国境付近の魔軍討伐遠征中に脱走した。国境警備隊三二人を一瞬で突破し、ガガーリン王国内へ潜入、そのまま行方をくらませた。

 オトワール国はただちに追跡を開始したが、国境を越えてしまったためにガガーリンへの協力要請などで手間取り、初動捜査段階で大きくつまずく。通常、脱走兵は拘束したうえで縛り首が適応されるのだが、他国へ逃げてしまったハーツをオトワールの兵士が追うわけにもいかず、結局、賞金首として手配するに至った。

 初期懸賞金は一万金貨(リスル)、中流家庭一〇年分の所得に匹敵する大金である。

 一万金貨の賞金は、当時でもトップレベルだった。賞金稼ぎたちは新参の『黒い嵐』を狩るべく、ガガーリンを歩きまわり、情報を交換しながら彼を追いつめていった。

 六九五年一二月五日、賞金首として初めてハーツは賞金稼ぎと闘う。コーザという古参の賞金稼ぎが率いるチーム五名が、海岸に座り込んでいるハーツを発見し、戦闘となった。結果はコーザと他二名が惨殺され、残り二名は爆殺。コーザの身体は海流にのって置き網にかかっていた。

 同年一二月二七日、ガガーリン東部ミノキア村の宿で、ハーツと賞金稼ぎカイラスが遭遇。村の自警団を含めた一六名全員が殺害された。

 その後、彼はガガーリン王国からノーティア街道経由で東の隣国アムスラムへむかい、ディーン騎士団の管轄がアムスラム支部へと移る。


 地図を拡げハーツの足跡を追うと、かなりの広範囲に渡っているのがわかる。オトワールからはじまって、ガガーリン、アムスラム、そして冒険者街道と呼ばれる大陸中央部への大動脈を東へ突き進み、大陸西部連合の管轄を完全に抜け出てしまう。その後の二年間は消息不明であったが、大陸中央部からの噂は流れてきており、『黒い嵐』は『災厄』と呼ばれているのが知れた。

「どうでもいいことだけど、『黒い嵐』は軍隊時代のエセ英雄の名前だから二つ名を『災厄』にしてしまおう、とか言いだしたのは誰だったかな? マリノ団長だったか、いや、ソゥルだったかなぁ」

 きっとソゥルに違いない、と独り納得するミレイユは、ハッとして仕事に戻った。

「彼が再び西部に戻ったのが三年前の六九八年二月、海路を渡って最西端のノルフェラントに現れた。それから時計回りに西部諸国をさまよって、今度はアムスラムからノーティア街道を西に進んでガガーリンへ入った。……彼の目的はなんなのだろう? そもそも目的なんてあるのかしら」

 彼女にわかることといえば、西部に戻ってからの彼の被害者くらいなもので、延べ人数六七四名。内訳は、正式登録されている賞金稼ぎが三九八名、各国の警備兵など二〇三名、一般市民七三名となっている。このほかに重軽傷者がいるが、カウントするだけ無駄なほど莫大な人数となるであろう。

「積もりつもって懸賞金一〇〇万金貨か……」

 ミレイユのため息は、もはやクセになりつつあった。


 資料の山にうんざりしつつ昼食をとっていると、第一級犯罪捜査係長よりの呼び出しがかかった。あまりの異例な出来事に、ミレイユは「は?」と間抜けな表情を浮かべ、連絡にきた一等事務官を呆れさせた。

 「昼食後、すぐ出頭するように」一等事務官は咳払いをして、乱雑きわまる三等事務官室を出ていった。

 日頃の体力と栄養不足を補うために奮発した牛ロースのサンドイッチを呆然と噛みつつ、彼女は失敗でもしただろうか、と不安になった。だが、失敗があったならば、直接の上司である一等事務官が説教するはずである。それが連絡係としてやってきたのだから、別の問題なのだろう。

「……もしかして昇進?」

 一瞬のキラメキ、そして落胆。そんなうまい話があるわけがない。昇進できるほどの仕事を彼女はしていないのだから。

 まぁいいや、とにかく行ってみよう。モヤモヤした気持ちのまま、彼女は美味しいはずのサンドイッチを頬張った。

 「第一級犯罪捜査係三等事務官ミレイユ・ライナー、はいります」ニンニクのきいた牛ロース・サンドイッチの臭いを充分消し去ってから、彼女は第一級犯罪捜査係長室を訪れた。

 扉を開けると、係長の他に、一等事務官と二等事務官が彼女を待っていた。

 驚きつつも平静を装って、捜査係長のデスク前に佇立する。

「キミは、『災厄』ハーツについて詳しいと聞いたが、ほんとうかね?」

「は? ……あ、えーと、ハーツの資料整理や、実働隊への情報提供を主に扱っておりますので、多少はわかっているつもりであります……ありますが、さてどうでしょう?」

 二人の事務官は、ミレイユの言動に情けなさや恥ずかしさを感じているようだった。係長がいなければ、きっと大きなため息をついていたに違いない。

 ミレイユにもそれがわかるだけに、赤面して下を向いてしまう。

「……よろしい、ライナーくんを派遣するとしよう」

 「はい?」三等事務官は、また間の抜けた返事をした。

「さきほどコルデから報せが届いた。ハーツ討伐を試みた賞金稼ぎたちが、全員返り討ちにあったそうだ」

「ええ!」

「各賞金稼ぎの個人プレイで捕らえれるほどハーツは簡単な相手ではないと我々は判断した。徹底した調査と計画を必要としている。そこで、キミにはハーツ専門の捜査官として、追跡・情報収集・捕獲計画の立案・実働隊の手配と検分役、その他必要な手続きもすべてやってもらうことにした」

「わたしが、ですか……?」

 自慢にもならないが、彼女は事務官だから『まだマシな』人材であって、体力と知力勝負の捜査官などまるっきり自信はなかった。それも最強最悪の賞金首相手に検分役までしろというのは、自殺しろと言っているようなものだ。

「不服かね?」

 「い、いえ、そうではありませんが」内心ではかなり不服、というか無茶に思えるのだが、口には出さず「一介の事務官になぜそのようなご命令をされるのか、少々疑問がありまして、できればそのあたりをご説明いただければと……」

 一級犯罪捜査係長は、「よろしい」と大仰にうなずいた。

「まずハーツの情報に詳しい。第二に、ソゥルが担当する捜査に人員が大量に流れてしまい、捜査官がたりない」

「はぁ……」

「最後に、いっこうにディーン騎士団の一員に見えないキミなら、ハーツに勘づかれることなく捜査ができるのではないかと思ってだ」

「一員に、見えませんか……?」

 ミレイユが自分を指さして疑問を口にすると、係長と事務官二人は合わせたように力強くうなずいた。

 「そうですか、見えませんか……」彼女はかなり傷ついた。彼女なりに自負も自尊もあって職務に励んできたつもりなのだが、他人の評価のなんと冷たいことか。

「わかりました。ハーツ専属捜査官として、現場へ向かいます」

 半ばヤケクソで、ミレイユ・ライナーは第一級犯罪捜査係三等事務官兼ハーツ専属捜査官の役職を受けた。

 大陸新暦七〇一年、六月一五日のことである。

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