8 スイートホーム
格差結婚式を終えて無事新婚旅行から戻ったまっちゃんから久しぶりに連絡が入る。
おみやげを渡したいから家まで馳せ参じろと言う。けれど余り気乗りしない。ふたりは新婚にも関わらず同居を選んだ。
「あんな広い家があるのにわざわざ別で暮らさなくてもいいでしょう。もったいない」
しっかり者のまっちゃんらしい。
確かに、昔1度だけ直人さん家にお邪魔したが広くて立派なお家だったと思う。思うって言うのは、家よりもお母さんの印象の方が強烈で、記憶がおぼろ気だからだ。家にお邪魔すると言うことは、あのお母さんも居るんだよね。
何だかとても複雑だ。
手土産も用意しなくてはならないが、これがまた選ぶのに時間が掛かる。
「大和屋の大福か、秀月のせんべいか」
どっちもまっちゃんの大好物だけどお母さんの口に合うか謎だ。普段から優雅な生活をしているあのお母さんは表面は良い人なんだけど、どうも目が笑ってないのだ。
直人さんのことを「マザコン」と言うけれど、どちらかと言うと「チャイルドコン」なんだと思う。子ども命のお母さん。
出掛ける前から嫌な予感がする。
「ひかり、いらっしゃい!」
やっと会えたまっちゃんは元気そうで安心した。
どれだけ挨拶を繰り返せば目的の場所に辿りつけるんだろうと心配になっていたところだ。
まず、門で訪問のベルを鳴らし、お手伝いさんに取り次いでもらう。すると門が開き玄関先に案内される。次にお手伝いさんに今日の訪問の目的を告げ、しばし待つ。そこでようやく家に上がることを許され、応接室に通された。
なんだかとっても不都合だ。
お金持ちって面倒臭い。
「紅茶でいい? 用意するから待ってて」
アンティークのふかふかのソファーに腰掛け恐る恐る部屋を見渡す。二十畳ほどの部屋の真ん中にグランドピアノが置かれている。
お母さんの趣味なのか家具全体が暖色系でまとまっていて落ち着く感じだ。
「今日お母さんは?」
「お友達と歌舞伎。気楽にして」
悪いと思いつつほっとする。出されたティーカップがお洒落なフランス料理店にありそうな小さなカップで、なんだかとってもお高そうだ。
「これ、有名なカップなの?」
「さあ、知らない。でもカップだし。使わなきゃただの置物だよ」
「改めて見ると立派なお家だね。掃除も大変そう」
「こっちの住居はお手伝いさんにお任せしてるから私はそんなに大変じゃないのよ。直人もあんまり物をためないから楽してる」
それから旅行の話を聞いて久しぶりに楽しい時間を過ごした。おみやげも貰ってさあ、帰ろうとした途端お手伝いさんが慌てて入ってきた。
「若奥さま。奥様がお帰りです。お迎えをお願いします」
「えー早いな。はい行きます。ひかり、ついでに玄関まで送るよ」
何事もなく無事に帰れそうで良かった。
本当は言いたい事や聞きたいことがある筈なのに優しいまっちゃんは何も言わない。
式場で藤堂くんに会った事は気付いてる筈だ。
付き合い出してからずっと見守ってくれていた私の一番の友達。おかしくなり始めた頃、私以上に傷ついていたまっちゃん。
良い報告ができなくて、ごめんね。
私たちはもうただの同級生になったんだよ。
駅に向かう足は重く、なんだか泣きたい気分だった。