3 出来すぎ君
しがない古びた本屋にも色んな事情を抱えた人たちが働いている。
子どもの学費を稼ぐため。
親の面倒を見るため。
引きこもり生活を直すため。
留学する学費を貯めるため。
それぞれが目的の為に集まっている。性格も年齢もみんなバラバラで中には気の合わない人もいるだろうが、時間が被っていれば何時間か一緒に働かなくてはいけない。こちらもそれとなく全体の雰囲気を察して、円滑なシフト作りを心掛けている。
もうすぐ夜勤者が出勤して来る時間だ。それに合わせて学生アルバイト2人がそわそわしだす。
何処にも人を惹きつける魅力を持った人はいるもので、彼女達はいま夜勤アルバイトの学生さんに熱を上げている。
彼は甘いマスクながらスポーツマンでサッカークラブに所属しているらしい。浅黒い肌に今時の髪型をバッチリと決めてやる気のなさそうな小さな声で挨拶してくる。
「おはようっス」
いつもこんな感じだ。
しかし彼女達にはそのそっけない所も魅力のようでボーっと彼に見入っている。夜勤は物騒なのでなるべく女の子の学生さんは入れないようにしている。
彼女達が彼と被ることはまずないだろう。一緒にしたらなんだか色々とややこしいことになりそうだ。
高校に通っていた時も学校中の人気者がいた。
頭が良くて運動も出来て性格も良い。その上見栄えも申し分なくとにかくアイドルのような子だった。
2年で同じクラスになり観察してみればなるほど皆の言うとおり爽やかで気取ったところもない良い子だ。
私は彼のことを密かに出来すぎ君と呼んでいた。
その出来すぎ君とは色々と縁があり、班が一緒になったり、リレーが一緒になったりして仲良くなった。
普段自分から話し掛ける男友達もいない私にしては珍しくフレンドリーな間柄で、なんとなくこのまま良いお友達でいられるんじゃないかと思っていた。
しかし出来すぎ君は何を血迷ったのかある日私に告白してきた。
「付き合って欲しい」
人生初の告白だ。しかも相手はあの出来すぎ君。私にYES以外の返事が出来る筈もない。
こうして付き合うようになったのが別れてしまった彼、藤堂貴志くん、その人だった。