17 その名前
私は優柔不断な所がある。あらゆる事の選択が長い時間掛かってしまう。洋服選びもそのひとつでデパートなんかに行けばどれと決められずにぐるぐる店内を回ることになるので思い切って行くのをやめてしまった。
買い物はもっぱら通販で済ましている。カタログを見た印象で決めて買う。失敗も時にはあるけれど悩む時間の短縮に役立っている。
だけど今回のことはじっくり考えなくてはいけない。
---もう一度やり直そう---
確かに藤堂くんはそう言った。
私はどうしたいのか、きちんと答を出さないといけない。
「どうしたの難しい顔をして」
1人で抱え切れない思いはいつも親友のまっちゃんに相談してきた。今回も相談に乗ってくれるだろうか。
「あのね、この間のお式で藤堂くんに会ったの知ってるでしょう。その後偶然2回ほど会ったんだけど、藤堂くんがやり直したいって言って来たんだ」
びっくりして見つめ合う織田家の直人さんとまっちゃん。現在織田家のリビングで相談中だ。
「とうとう痺れを切らして実行したんだ」
「遅いのよ。へたれなんだから」
「私は1年前と何も変わってないよ。このまま付き合ってもまた同じじゃないかな」
お互い嫌いになったんじゃない。相手より気になる人が現れて別れたのだから、この先だってそうなる可能性は高い。
「馬鹿だね。ひかりには貴志しかいないでしょう。貴志も一緒なの。ひかりでなきゃ駄目なのよ」
「そうでも無いみたいだよ。色々付き合ってるみたいだし」
「悪足掻きしてるんだって。あいつ振られた事なんか無いでしょう? ぴかりんにバッサリ切られてどうしていいのか分かんなくなっちゃったんだよ」
「分からないのは私の方だよ。光ちゃんに暴言吐いて、あんな藤堂くん知らない」
「光ちゃん!?あのぶりっこが現れたの」
「今お付き合いしてますって言われた。藤堂くんは否定してたけど関係が有ったのは本当みたい」
「貴志の奴、何考えてんだか」
「男は皆おたんこなすなんだよ。愛してくれる人が側にいないと寂しくて、つい身代わりを求めちゃうんだ。ぴかりんが側にいて何時でも手を広げて待っててくれたら他には何もいらないのにね」
「都合良過ぎでしょう」
「そうか? 男だって態度で示して欲しい時があるんだよ? ツンデレなんて言葉がまさにそれでしょう。ツンばっかりじゃ辛くなっちゃうよ」
「何それ、私に言ってるの?」
「やだなー俺たちはラブラブだからさーそんなの有るわけ無いでしょ」
そう言って隣に座る奥さんに口付ける直人さん。親友のラブシーンはレベル高過ぎです。
仲が良過ぎて困ってしまう。
「ずっと気になってたんだけど、ぴかりんは何で今だに貴志を藤堂君呼びなの?」
「学生の頃からの付き合いだからかな。でも、恋人同士になってから変わったよ呼び方」
「どんな風に?」
「最初の頃は緊張してたから『藤堂君』でも今は『藤堂くん』愛情はちゃんと込めて呼んでたよ」
「「わかりにくいっ!」」
ふたり同時に叫ばれてしまった。
気持ちは相手に伝わって初めて成就するものなんだろうか。
私はあからさまに自分の気持ちをぶつけられない。
全部を受け止めて欲しいとも思わない。それでも自分なりに精一杯伝えようとしてたんだけどな。
「ぴかりんって本当、かわいいね」
「やめてよ!ひかりは私のものなんだから。直人の毒に染めないでよね!」
「ゆかりの物は俺の物。俺の毒もゆかりの毒」
「何言ってるか解んない」
「愛してるって言ったの」
「気持ち悪い!」
相談がいつの間にか夫婦漫才になっている。
こんな調子で織田家はいつも賑やかに過ぎて行く。私も自然に二人と笑い合う。
こんな風になれたらいいのに。
私も藤堂くんもお互い気持ちを持て余している。