14 理想の彼
化粧の濃さと見た目の派手さに一瞬誰だか分からなかったけれど口元の片エクボで思い出した。
光ちゃん。
藤堂くんを好きになって追いかけていた女の子。私と言う彼女が居ながらまったく気にもとめず何度振られても諦めないで告白を繰り返していた。
あれから何年過ぎただろう。私にすぐ気付いたと言うことは、全然変わって無いってことかな。
話があると言うので珍しく帰りと反対方向に向かい、隠れ家的な雰囲気の飲み屋さんに落ち着く。まっちゃんはまったく飲めないけれど私は多少いける。少しくらい飲めないと宴会や忘年会などで餌食にされてしまうので家で父親相手に訓練した賜物だ。
仕事終わりでもあるし、ここは生で乾杯でしょう。久しぶりの外食に気持ちウキウキしながらメニューを眺めていると店に入っていきなりトイレに駆け込んだ光ちゃんが帰って来る。
「適当に注文しておいたよ。感じのいいお店だね」
「ここ個室だからよく待ち合わせに使うんです」
「なるほどね」
「元気そうですね」
「まあ、おかげさまで」
「貴志さんと別れて落ち込んでるかと思ったのに、つまんないの」
「なんで知ってるの?」
「貴志さんに聞きました。この間偶然に貴志さんと再会したんです。それで今はフリーだって聞いて、私たち付き合うことにしたんです」
「えっ」
聞いてない。この間だってそんな事一言も言わなかった。でも、私に言う事でもないのか。お互い何をしようが、誰と付き合おうが迷惑掛けるでもないんだから。それ位今の二人の距離は遠い。
この子は、それをわざわざ言いたくて私を訪ねて来たのだろうか。立場が逆転して自分が彼女になった自慢をする為に私を誘った?
相変わらず分かり易い子だ。
でもどうしてか嫌いになれない。彼を思う気持ちは素直で一生懸命だ。
藤堂くんはこの気持ちにちゃんと応えてあげているのかな。
だってこの間泊めてもらったし、一緒の布団で寝ちゃったし、キスしちゃったし……。
これって浮気?
私が浮気相手になるのか? 背中に嫌な汗が出て来そうだ。
「ひかりさんは貴志さんの何処に惹かれたんですか」
「どこって、いろいろ」
「そうですよね。背が高くて、顔が良くてエリートサラリーマン。頭もいいし、センスも持っていてあんな素敵な人、嫌いな女なんていませんよね」
「そう言うのと違うよ」
「他にもまだあるんですか?」
「藤堂くんって何時も澄ましてて何でも分かってますって顔してるじゃない。ちょっと冷めてるって言うか、なんか私とは分かり合えない部分がいっぱいあるんだけど、時々ね、すごく子どもっぽいところとか見付けると安心するって言うか、藤堂くんもある部分では私と一諸なんだなって」
「何言ってるんですか」
「つまりね、心を許せるかどうかって大切じゃない」
「ええ。見た目の次に」
「ええっ!」
「今の答はきれい事です。貴志さんありきで言ってますよね」
「違うよ」
「違わない。いい歳してカマトトぶらないで下さい。例えば物凄いブサメンと貴志さんがいたらどちらと付き合いますか」
「どっちとも付き合わない」
「嘘つき。さっきだって若いバイトのイケメンとイチャイチャしてたじゃなの! 7年も付き合っていながら清純ぶるとか、どんだけ性悪女なのっ」
言葉をオブラートに包む奥ゆかしさも吹っ飛んでお怒りだ。何が不味かったんだろう。聞かれたことに答えただけなのに、説教を受けている気分だ。
「あの、お連れ様がお見えです」
部屋に入って来たのは、噂の藤堂くんだった。