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帰還 2

美咲は・・・呆然としていた。


(何故こうなったの?)


答えは思考としてまとまらない。


だって無理だ。


バーミリオンの逞しい腕の中で、痛いほどに抱き締められて、キスしている。


「・・・んっ・・・う」


もちろん(?)ディープキス。


美咲の口の中を遠慮なく掻き回す舌が美咲を翻弄する。

絡められた舌は離れる様子はない。


(な、何で?!)


美咲は、ほんの少し前まで母と笑い合っていたはずなのだ。




・・・美咲と母が楽しそうに話す部屋に、申し訳なさそうなノックの音が響いたのは、本当に先刻の事だった。


顔を覗かせたのはバーミリオンで美咲に話があると言った。


永久就職なんて母に言われた言葉が思い浮かんで、美咲はほんのり頬を染める。


「良いわよぉ。行ってらっしゃい。会えなくなるのだからぁ今の内にベタベタしてきなさい・・・あっ、でも、節度は守ってねぇ。」


「ママ!!」


何て事を言うのだと美咲は怒る。

笑って母は美咲を送り出した。


美咲は何だか気恥ずかしくなりながらバーミリオンの後をついて行く。


何故か黙りこんだままバーミリオンが案内したのは、少し離れた場所にある部屋で、中には暖かなお茶と木の実や干した果物を生地に乗せて焼いたお菓子が用意してあった。

香ばしい匂いが部屋の中に漂っている。


美咲はコクリと唾をのんだ。

そう言えば、バタバタと忙しくしていてあまりしっかりと食事をとっていなかったことを思い出す。


「精霊王たちが焼いた。・・・まず(・・)食い気で釣れと言って。」


「え?」


美味しそうな匂いに気を取られていた美咲はバーミリオンの言葉をよく聞いていなかった。


「・・・何か釣るの?」


流石魔王の居城。池でもあって釣りができるのだろうかと美咲は思う。


それより気になるのはこのお菓子だ。

精霊王たちが焼いたとバーミリオンは言った。

確かにシルやディーネは可憐な女性の姿をしている。いかにもお菓子とか作りそうだ。大地の精霊王であるノンがいれば木の実や果実なんかは取り放題だろうし、サラがいれば火加減は思いのままかもしれない。


(そんな使い方があったなんて・・・)


美咲は心の中で感嘆の唸りをもらす。

今度は自分も一緒にお菓子作りをしようなんて暢気に考えていた。


「あぁ。なんでもない。腹が減っているのだろう?遠慮しないで食べろ。」


バーミリオンの声に、それじゃと言って食べ始める。


「美味しいぃ〜っ!!」


しっとりとした舌触りと絶妙な甘さが絶品の焼き菓子だった。


感激した美咲はバーミリオンがブツブツと、くどく声を上の空で聞き流す。


「・・・ったく、あいつらは今まで徹底的に邪魔してきておいて、今になって俺が手を出していないのがいけないだなんて・・・特になんだ、あの竜は!“のろま”だの“要領が悪い”だの好き勝手言いやがって・・・自分だって一緒に寝ていて全然意識もされていないくせに。」


よほど腹に据えかねているのだろう。

バーミリオンの不満の声は段々大きくなる。

・・・全部声に出していることに気づいていないのかもしれなかった。


美味しい物を美味しく食べることに集中していた美咲だったが、流石に不穏な言葉に耳をそばだてる。


(手を出す?・・・って何に?意識?)


「・・・俺だって好きでキス止まりでいるわけじゃない!」


(へ?)



「キ!?・・・ッグッ・・・ゲホッ、ゲホッ!・・・ケフッツ!」



キスっ!!と叫ぼうとして美咲はお菓子を喉に詰まらせて派手にむせた!

体を折り曲げて苦しそうに咳き込む。


「!?・・・大丈夫か!」


慌ててバーミリオンは近づくと美咲の背を撫でた。

抱え込むように抱き締められて、いたわるように手が触れる。


「ウッ・・・クッ・・・フッゥぅ・ん」


・・・ムリに咳を抑えようとして美咲は喉に詰まったような、絡まったような、変な声を出す。


結果・・・真っ赤な顔をして、潤んだ瞳で喘ぎながらバーミリオンを見上げる格好になった。


「・・・ふっ・・ぅん・・・バ・ーン。」


バーミリオンの顔が何故か赤くなる。


ありがとうと言おうとして・・・美咲は、バーミリオンにギュッと抱き込まれた!


「ふぇっ?・・・」




「・・・帰るのか?」




バーミリオンの低く抑えた声が美咲の耳を擽る。


美咲は思わずビクリと体を震わせた。


「・・・帰る?」


何の話かと思い・・・自分が元の世界に帰る話だと思いつく。

さっき母と話して、美咲の中ではすっかり解決した問題になってしまっていて、“いったんは帰ってもまたこの世界に来るつもりでいる”ことをバーミリオンに伝えていないことに気がつく。


「バーン、あのね・・・」


しかし話そうとした美咲の声は、切羽詰まったように掠れたバーミリオンの声に遮られた。


「帰るな。」


「え?」


美咲の視線がバーミリオンに縫い止められる。

熱い瞳に射られて・・・美咲の声は凍った。



「・・・帰さない!」



「?!」


低く言ったバーミリオンは、美咲の拒絶の声を聞きたくないかのように・・・赤い唇を奪った!!


(あっ・・・待って・・・バーン!)


声は塞がれて言葉にならない。


覆い被さるように重なった唇は、熱く力強く・・・美咲の唇を侵略し・・・強引に中に忍び込んだ。


「んっ・・・」


開けられた瞬間に喘ぎ声が漏れる。


甘い美咲の声は、バーミリオンの熱さをますます煽る。


口中を舐められ、歯列をなぞられ、唾液が混ざり合う。

キスは徐々に深くなり、美咲の思考は翻弄されていった。


美咲は霞がかったような頭でキスを受け入れることしかできなくなる。



突然の事に強ばっていた美咲の体から徐々に力が抜けていった。



バーミリオンのキスは、情熱的で美咲の心を蕩かしていく。


力の入らなくなった美咲を抱き締めるバーミリオンの腕が位置を変えた。


しっかり腰に回った左手一本で軽々と美咲の体を支えると、空いた右手が美咲の頬を撫でた。


まるで宝物に触れるようにゆっくり優しく動く手が、頬から耳の下へと移り・・・首筋へ落ちていく。

小さな肩が大きな手に包まれ軽く掴まれる。


くすぐったさと優しくされる気持ちよさに震える美咲の体の力は、ますます抜けて、全てをバーミリオンに預けてしまった。


抵抗を受けない男の手は徐々に下に降りていく。


大きな手は、柔らかく丸みを帯びた膨らみにそっと這わせられた。

ふわりと触れて・・・形と弾力を確かめて・・・耐えられないように揉み込まれた。


「ふぇっ!・・・ひゃぁん!」


体がピクリ!と跳ねて、唇が外れた。


いや・・・わざと外したのか・・・バーミリオンの口づけは美咲の喉元に落ちた。


そのままそこに強く吸い付く。


「やっ・・・イタッ、い・・・」


喉元に赤い痕が付き、バーミリオンの舌がその場所をペロリと舐める。


「きゃっ!・・・うぅ」


喘ぎながら・・・美咲は必死で自分を取り戻そうとしていた。


(ダメ、ダメ、ダメ・・・)


何がダメかわからなくなりながら懸命に訴える。


「やっ!・・・ダメ、止めっ・・・バーン!」


「止めない。・・・お前の中に俺を刻み、この世界から逃れられないようにしてやる。俺がお前を帰さない。」


「バーン!!」


それは狂気のような想いだった。


・・・熱い想いに、こんな時なのに美咲の心が喜びに震える。


愛する人から向けられる離れたくないという想いが・・・嬉しかった。


だからと言ってこのままこの先に進むのは・・・怖い。


何と言っても美咲は初めての経験だし・・・第一、そもそもが誤解だ。


「止めっ・・あ・バーン、お願っ・い。」


制止し、助けを求めるかのように周囲を見回す。

魔王の力は封じられ美咲の周囲には見えなくとも精霊王たちがいるはずだった。



バーミリオンは薄く笑った。



「誰も来ない・・・奴らもお前を失いたくないからな。むしろ、既成事実でも何でも作ってお前を引き止めろと言っていた。」


美咲は驚きに目を見開く。


考え方が極端すぎるでしょうと心の中で叫んだ!


「誰もお前と離れたくないんだ。・・・元の世界などに帰るな!ずっと側にいてくれ。」


美咲を抱く腕に力がこもる。


痛いほどのその力が、彼らの・・・バーミリオンの想いを表していた。


美咲の心にも、また熱い想いがせり上がる。


自分を帰したくないと言ってくれるその心が愛しかった。


再び・・・バーミリオンの口づけが降りてくる。


それを受けて・・・流されそうになって・・・美咲は我に返った!


(や!・・・ダメ!・・・だって誤解なのよ!!)


なんとか唇を離して・・・美咲はようやく叫んだ。



「戻ってくるの!・・・私、帰っても、またこっちの世界に戻ってくるのよ!!」



「え?」



バーミリオンの動きが止まった。


美咲はすかさず説明を始める。

母が1年半後に、この世界に帰ってくること。

美咲もその時一緒か、そうでなければその4年後にこの世界に来ること。


「私、みんなと・・・バーンとこのまま別れるなんてイヤだもの!絶対帰ってくるわ!!」


母は美咲に考えて決めろと言ってくれたが美咲の思いは既に固まっていた。


必ずこの世界に帰って(・・・)来る!


それは揺るぎない決意だった。


「・・・本当か?」


「こんなことでウソなんかつかないわよ!・・・私バーンが好きだもの!これきりだなんて・・・イヤよ!!」


美咲は・・・赤くなって叫んだ!

我ながら恥ずかしすぎるが・・・ここで信じてもらえなければ、ヤバイと本能が告げている。


「本当に帰ってくるんだな?」


帰って(・・・)来るわ。この世界に!」


しつこい!と思いながら美咲は答えた。

それに多分、母の言いようでは、ちょくちょくこの世界に遊びに来ることも可能なようだった。

連休や長期休暇はこちらで過ごそうと思っていると美咲は話す。




感極まってバーミリオンが、なお強く美咲を抱き締めた!




「グエッ!!・・・バーン!!止めて、死んじゃう!!」


美咲はカエルの潰れたような悲鳴を上げた。




その情けない悲鳴の消えない内に、その場にカイトが現れる!




「シディ!本当か!?」


「へっ?・・・カイト?何で!?」


驚く美咲の目の前に、ポン!ポン!ポン!ポン!と小さな姿の4大精霊王も現れた。


「本当?本当に戻ってくるの?!」


浮かれ飛び回る精霊の真ん中にブラッドまでヒュンッと現れた。


「シディ〜っ!!良かったぁ!!」


美咲に抱きつこうとして、バーミリオンに追い払われる。




「な!・・・な!なっ!!」




美咲は開いた口が塞がらない!!


美咲の言葉を聞いてみんな出てきたという事は・・・その前から見ていたという事だ!!


バーミリオンとのキスも・・・あんなことやこんなことも・・・見られていたと知って、美咲はボッ!!と赤くなった。


怒りが爆発する!!!




「ヒドイ!!!見ていただなんて!!・・・キライ!!みんな大っキライ!!!」




「え?・・・そんな!シディ!!!」


全員が声を揃えて悲痛な叫びを上げる!


・・・その場は大騒ぎとなった。


怒って、もうみんなと口をきかないと宣言する美咲と、慌てて謝って美咲に縋る精霊王やブラッドと、互いにお前の所為だと言って喧嘩を始めるバーミリオンとカイトが入り乱れ、大混乱になってしまう。





結局それは、騒ぎを聞いてやってきた母が、美咲以外の全員をその場に正座させ、こんこんと説教をするまで続いた。


あんまり長々と正座させられている彼らの姿に、美咲が可哀想になって許してあげるのは、お約束だ。




ただ、美咲はどんなに怒っても、もうこの世界に戻らないとは言わなかった。




そのことに深く安堵するバーミリオンたちだった。


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