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決戦 3

「座標 25.31 18.7 43.46 に敵小部隊確認!」


その報告に魔物軍の指揮を執っていた白群(びゃくぐん)は舌打ちを堪える。


「編成は?」


「竜が5頭。大型の魔獣が22匹。小型のものは多すぎて把握不能。火属性の精霊と・・・この波動は“橙黄”です!!」


最後の声はまるで悲鳴のようだった。


流石に白群も堪え切れず舌打ちを漏らす。

それのどこが小部隊だと怒鳴りつけたくなった。


(おまけに、橙黄だと!)


・・・橙黄は優秀な戦闘員だ。

力も強く頭が切れ、冷静に戦いの局面を判断する。

味方にあれば心強いかつての仲間が今は手ごわい敵となっている。

しかも橙黄がいるということは、そこには蘇芳もいるのだ。

派手な力を持った気まぐれな魔物は、単独では当たり外れが大きく、運さえ悪くなければ然程警戒すべき相手ではないが、橙黄と組んだ途端手に負えない強力な破壊兵器となった。

蘇芳は橙黄の言う事にだけは従うのだ。

橙黄の指示のもと振るわれる蘇芳の凶悪な力は、無視できぬ大きな脅威だった。


海松(みる)の部隊を向かわせろ!」


白群は指示を出す。


「しかし!海松は、戻ってきたばかりです!直ぐには無理でしょう?!」


「他に出せる部隊がいない!いいから伝えろ!!」


指揮官の命令に伝令係の魔物はなおも何か言おうとするように口をあけ・・・結局閉じて従った。


今の魔物の軍には、ゆっくり休養をとれるような余裕はどこにもなかった。


・・・突如宣戦布告され、攻めてきた女神の神軍は、魔王の居城の多方面から同時に変幻自在の攻撃をしかけてきた。

竜と魔獣、精霊の混成部隊は未だかつて考えられなかった協力のもとで魔王の軍を圧倒していた。

こんなバカなと思う内に魔王軍は何時の間にか連敗を重ねている。

しかも敵は、一つ一つの戦いが実に鮮やかで、最初の数刻で圧倒的な力を叩きつけると優位な内にその戦場からあっという間に離脱するという戦い方を繰り返していた。

そして一つの部隊の撤退とほぼ同時に別方面から他部隊が新たな攻撃をしかけてくるのだ。


休みなく多方面から仕掛けられる攻撃に、魔王軍の処理能力は追いつかず既にパンク寸前だった。


苛々と爪を噛む白群の元に別方面で戦っていた魔物の部隊長千歳(ちとせ)から緊急の連絡が入る。


映像で現れた千歳の顔は蒼ざめていた。


「赤の塔方面の障壁を強くしろ!!」


「何事だ!?」


「急げ!!奴ら滅茶苦茶だ!敵の中に“白帝”がいた!!大地の精霊王と協力して小惑星を作りやがった!直径1〜2kmの小さい奴だが、数が多い。それを居城へ向けて投下したんだ!!できるだけ破壊したが逃したヤツが赤の塔へ向かっている!衝突すれば塔の一つや二つぶち壊されるぞ!!」


あまりの内容な千歳の言葉に白群も蒼くなる。

急いで手の空いている魔物全てを赤の塔へ向かわせた!


「座標! 0 0 -109.2 に、敵出現!!真下です!!」


休む間もなくまた報告が入る。


真下の敵と聞いて、白群の顔が嫌悪に歪む。


「また、水か!!」


その言葉は呻き声のようだった。


下からの敵の攻撃は、水の精霊と海獣がコンビを組んだものが多い。

この敵は厄介だった。

何せ戦場を非常識にも水中と化すのだ。水の中で海獣の動きに勝るモノなどいない。いいように翻弄され溺れさせられる。

かなりの数の魔物がこの攻撃にやられていた。


千歳(ちとせ)行け!」


白群の命令に、たった今赤の塔への警告を報せたばかりの部隊長は目を吊り上げる!


「バカを言うな!俺の部隊は“白帝”とやり合ったばかりなんだぞ!!補給も受けずに次の戦いなんかできるか!!」


言っている内容はもっともだ。

しかしそれを、きけるかどうかは別問題だった。


「いいから行け!他に動ける奴はいないんだ!敵は待ってくれないんだぞ!!」


千歳は射殺すような目つきで白群を睨みつけた。そのまま返事もせずに映像が消える。


白群は大きくため息をついた。


戦闘員から指揮官への信頼は・・・地に落ちていた。

次から次へと休む暇も無く戦いに駆り出され、しかも連戦連敗なのだ。


当たり前だと白群も思っていた。


しかも・・・相手は“神”だ。


魔物とて他のモノと等しく女神に生み出された存在だった。

美しく力に満ちあふれた女神は魔物にとっても敬愛し崇拝すべき存在だ。


そんな母ともいうべき女神に攻撃されている。


いくら魔王の命令とはいえ、士気などあがるはずもなかった。


しかも、その彼らの王たる魔王は・・・ずっと姿を見せない。


中央の王の塔の奥まった一角に、問題の人間の女と入ったまま、もう何日も出てこないのだ。


人間の女は、信じられないことに女神の姫君だと言われていた。

誰も魔王がその女を攫ってきたところを見ていない。

大切に大切に魔王が囲って誰の目にも触れさせない姫君。


埒もない噂ばかりが、魔王の居城を駆け巡っていた。


その中の最も忌々しい噂が、此度の戦いが魔王の意志ではなく、魔王の側近や軍の指揮官によって勝手に行われているものだという噂だ。


バカを言うなと怒鳴ってやりたい!


全てを知り、どんな奇跡をも可能とする魔王が、そんな暴挙を配下に許すはずがない。

それは自明の理のはずだった。


なのにそんな噂がまことしやかに流れている。

つまりはそこまで自軍が追い込まれているということだった。


「海松の部隊が全滅しました!」


悲鳴のような部下の報告が入る。


白群は切れるほどに唇を噛みしめた。


信じられない事だが・・・戦いはまだ始まったばかりのはずだった。

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