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番外編:エスコート役争奪戦(またの名をカイトと4大精霊王の受難)

すみません。

タガが外れました・・・。

竜王と光と闇の精霊王。そして白と黒の対の魔物の手によってその結界は強固に作り上げられた。

中でどれほどの力が暴れ狂っても、決してその力が漏れないように細心の注意が払われる。こんなことで力のバランスを崩し世界に危機を招いては母の怒りに触れてしまう。


だから練り上げた結界を尚も完璧にするためにカイトと4大精霊王を結界の各要に据えた。


「何の真似だ、親父!」


無理矢理に人柱の様に結界維持を命じられたカイトが父に抗議する。


『黙って結界を維持しろ。ヒビひとつ入れることも許さない。』


命令だけ下すとそれ以上我が子に目を向けず、巨大な竜の姿の竜王は朗々と宣告した。




『主をエスコートするのは我だ。』




「はぁ〜っ?」


カイトと4大精霊王は思いっきり不審な声を上げた。


何だ?それ!!


「チビ竜が!寝言は寝て言え!!」


同じく結界の中に居たタンが忌々しく吐き捨てる。アッシュがその隣で同意するように頷いた。

アッシュとタンは何もない空に浮いている。

2人が実は魔物だと父から聞いているカイトでも人間が平然と空に浮いているその光景は奇妙に映った。


フッと笑った竜王は、口を大きく開ける。

その口の中に爆発するような光の渦が生まれた。


「へっ!?なっ?!・・・バカな!!親父!!!」


その光りは、全てを破壊する力の塊だった。

あんなものを喰らった相手はチリひとつ残さず消し飛んでしまう!


溜められたそれは、アッシュとタンめがけて打ち出された!


ギュオォゥウッ!!と音を立てて灰色の魔法使いと剣士に迫った圧倒的な光球は、2人を飲み込み爆発する!!


ビリビリと頑丈な結界を震わせる爆風にカイトは歯を喰いしばる。


爆光が視界を焼いて・・・徐々に終息していく。


全てを消し去ったと思われた光の消えた後に・・・白と黒の魔物の姿が現れた!


「!!」


思わずカイトは息をのむ。

父のあの攻撃の後で形を残している存在を初めて見た。


「嘘だろう?!」


傷一つ負っていない魔物の姿を食い入るように見詰めてしまう。


『嘘ではない。・・・奴らは、あの程度の攻撃で傷ついてくれるような可愛い存在ではないのだ。』


竜王はつまらなそうに言った。


『聞いた事はないか?かつて竜族を滅亡寸前にまで追い込んだ魔物の話を。・・・それが奴らだ。』


カイトは、驚愕に身を強張らせた。


もちろんその話は知っている。

遥かな昔、まだ父が幼竜だった頃の話のはずだ。竜族を裏で操って内部抗争を起こし、竜同士の戦いを企んだ魔物がいたと。

それが彼らだと言うのだろうか?!


『今コチニールでやっていることと同じようなことを竜族に行ったのだ。・・・魔物とはいつの世も厄介者だ。』


「たかが人間の国ひとつで遊ぶような小物と私たちを同列に語られるのは不本意です。」


白銀が面白くなさそうに抗議する。


竜王はフンと笑った。


『規模はともかく、動機はより低俗だろう?(われ)が主のお気に入りになったのに嫉妬しただけなのだからな。』


カイトは口をポカンと開けた。


(親父に嫉妬して・・・竜を滅亡させようとしたのか?)


そんなバカなと思ってしまう。


「嫌な事を思い出させるな。おかげであの後一ヶ月もシャトルーズさまに口をきいていただけなかったのだ。・・・みんな貴様のせいだ!」


正真正銘、完全無欠な“逆恨み”だが、魔物とはそれを反省するような殊勝な心を持ち合わせない存在だ。


身勝手な言い分を言い放った黒金は、自分の体を遥かに超える大きさの剣を己の手の中に生みだすと、それを振りかぶり物凄いスピードで竜王に迫り、打ちかかった!!


「親父!!」


剣が竜王の障壁にぶつかり激しい火花を散らす!




「シャトルーズ様をエスコートするのは俺だ!!」




物凄い緊迫感のある戦闘シーンなのに・・・がっくり力の抜けるカイトと4大精霊王である。


「・・・何だ?この戦い。」


呆れたように呟くサラに罪は無い。




ここまで凄い結界を組み上げた竜王と対の魔物、光と闇の精霊王が何をしているのかと言えば・・・今夜の晩餐会での母のエスコート役をめぐって争っているのである。


何で自分たちまで巻き込むのかというのがカイトと4大精霊王の言い分だが、この争いがほんのわずかでも人間世界に影響を及ぼして母に叱られるのを恐れる彼らにしてみれば、当然の処置だった。


黒金の剣と竜王の障壁が同時に限界を迎えて砕け散り、その隙を狙って白銀が竜王に魔法攻撃をしかけ、光と闇の精霊王が黒金にそれぞれ攻撃をぶつける!


竜王も黒金も自分に向けられた攻撃を難なく打ち払ったが、竜王の鱗は小さく傷つき、黒金はその場に膝をついた。


『我の鱗は主の”お気に入り”なのだ。気を付けて扱え。』


竜王のセリフが終わらぬ内に、鱗の傷はキレイに修復される。確かに母は竜王の空の青の鱗を気に入っていたが、そのこと自体が気に入らない白銀に気を付けるつもりなど欠片も無い。


「姑息な!」


あっと言う間に大剣を復活させて光輝と虚空に斬りかかる黒金も既にダメージから回復していた。


光輝が無数の光球を間断なく黒金に叩き付ける。

虚空は全てを吸い込む闇で白銀を覆った。

黒金が光球を全て大剣で打ち返し、白銀は闇の全てを自分の白闇で打ち消しにかかる。



「始原の昔より、主の傍らにあるのは我ら光と闇だ。生意気な子供や竜は引っ込んでいろ!!」



拮抗する虚空の闇と白銀の白闇がバチバチと稲光を生む中で、虚空が怒鳴る。


「少しばかり長くシャトルーズさまと生きているからといって偉そうに!・・・貴方たちこそ永遠に眠り続けていれば良かったものを!」


自分の失態が光と闇の精霊王を起こしてしまったことを未だ悔やんでいる白銀が,怒りのままに虚空の闇を振り払う!



「常にシャトルーズ様のお側にいるのは私です!!」



白と黒の闇が、結界の中で暴れ狂う!




いや・・・戦いそのものは凄い迫力なのだが・・・


(目的が情けなさすぎるだろう?)


カイトも4大精霊王も・・・呆れる以外ない。


『光と闇の精霊王よ。まずは協力して目障りな魔物を叩かぬか?その後で我らはゆっくりと決着をつけよう。』


竜王の提案に、光輝と虚空は頷く。


この魔物たちは母に愛情込めて育てられた。


実はそれが、共に気に入らない3人だった。



要は・・・それぞれがそれぞれに相手を羨んでいるのであった。


他の精霊と違い、最初に女神に生みだされ、始原の時から側にいる光と闇の精霊王。

女神に拾われ育てられた対の魔物。

竜族によって女神に捧げられた女神のお気に入りの小さな竜。


・・・全てにふんだんに与えられる女神の愛を,それでも少しでも独占したい彼らにとって今回のエスコート役は絶対譲れないものだった。


ひとまずは共闘した光と闇と竜の力が対の魔物を狙う。


「はん!俺らを甘く見るな!」


「やり様はいくらでもあるのですよ。」


黒金と白銀が言った途端、カイトと4大精霊王は、自分たちの力が勝手に魔物に引きずり出されるのを感じた。


「!?・・・何を!!」


魔物は、他者の力を奪い取って自らの力とすることに何の遠慮もなかった。

奪われる方が悪いのである。


「絶対に傷つけないと約束したのに・・・」


「傷つけていないでしょう?力を借りているだけです。」


サラの抗議をアッシュは軽くいなす。

そういうのを詭弁と言うのではないだろうか?


4大精霊王の力の一部を奪った白銀が恐ろしい火球を生みだす。

黒金はその体に荒れ狂う風を纏わりつかせた。


「・・・何て力だ!」


力を奪われまいと必死になりながらカイトは唸る。


竜王は楽しそうに笑った。


『こうでなくては楽しめぬ。奴らは最上級の魔物だ。主の後を追って転生の輪に入らねば、奴らのどちらかが魔王となっていただろう。・・・我が子よ、せめて結界を維持する力だけは奪われるなよ。』


そう言うと竜王は嬉しそうにその巨体をひらめかせ、対の魔物めがけて突っ込んで行く!


世界など軽く吹き飛んでしまいそうな力の激突が起こる!!




「やりすぎだ!!!親父!!!!」




美咲が母に怒鳴りつけた何倍も悲壮な悲鳴が結界の中に響き渡った。





・・・その頃母は美咲と共に晩餐会のドレス選びを楽しんでいた。


「もぉう!美咲ったらどんなドレスも似合うんだから!迷っちゃうわぁ。」


物凄く上機嫌に母は美咲を着せ替え人形にして喜んでいる。


「やっぱり、バーンに合せて緑がいいかしらぁ?でも美咲は明るい色も似合うのよねぇ。」


美咲は・・・既にぐったり疲れている。

もうどうにでもしてくれというのが正直な心境である。

もちろん!着飾るのは好きだ!キレイなドレスも豪華な装飾品もうっとりとしてしまう。

ただ、こんなに何着もとっかえひっかえ着なくても良いのにと思ってしまう。


衣装選びが始まってから既にどのくらいの時間が経ったのかわからない。


(・・・疲れた。)


美咲は心の中でこぼした。


美咲から少し離れてポポが心配そうに様子を伺っている。ぴーちゃんも今日は窓際にとまっている。母に毛と羽がつくから側に近づくなと厳命されているのだ。


当然のように男性陣の姿はない。

着替えをしているのだ。姿がないのは当たり前だと美咲は思っていた。



彼らが何をしているのかなんて考えもしなかった。



母は、そんな美咲に構うことなく今度はこれを着て見てと今のバーミリオンの色を思わせる深緑の大人びたドレスを押し付けてきた。


「まだ着なきゃダメなの?」


「当然よ。・・・ほら、バーンそっくりな色でしょう?きっと似合うわ。」


そんなものかと思って、美咲は仕方なくドレスを受け取る。

確かにキレイな深緑だった。


美咲のエスコート役は当然のようにバーミリオンに決まっていた。

王妃主催の晩餐会にグレン王子以外のパートナーと出席するわけにはいかない。

カイトやエクリュたちもそこは納得してくれた。(ブラッドは竜王が無理矢理黙らせた。)

もちろん、そんな事情抜きでも美咲はバーミリオンを選んだはずだ。

パートナーの色に合せたドレスを選ぶのは有りなのかもしれないと美咲は思う。



そう言えば、母はパートナーを決めたのだろうか?



「ママ、エスコート役はどうするの?もう決めてある?」


美咲の質問に母は当たり前(・・・・)でしょうと答える。そんなもの衣装を選ぶ前に決めるものよと美咲に教えてくれた。


「え?そうなの?・・・で誰?」


アッシュ(・・・・)よ。」


実にあっさりと母は答えた。

まだアッシュには伝えていないけれどと母は話す。


「アッシュ?竜王さんじゃないの?」


「たっちゃんはぁ、派手すぎてダメよぉ。たっちゃんが側にいたら、誰もママと落ち着いてお話してくれないわぁ。」


確かにそうかもと美咲は思う。


竜王の色気は・・・殺傷レベルだ。


同じ理由で光と闇の精霊王もダメだと母は言う。


「タンでも良いんだけれどぉ、タンは警護の仕事があるでしょう?部下にばかり働かせて団長がさぼるなんて,そんな悪い子にママは育てたつもりはないわぁ。」


何時の間にタンを育てたのよと美咲は母に突っ込む。本当に育てたなんて思いもしなかった。


そう言われれば確かにアッシュが適任なのかもしれなかった。


(もちろんアッシュだって、充分人目を惹く美形だけど・・・何と言っても人間だもの!)


真実を知らない美咲は単純にそう思う。


アッシュがエスコート役だと言いながらシンプルな白いドレスと真紅の装飾品を見せて、


「これを着るのよ。ママに似合うと思う?」


と母が聞いてきた時には何を考えているのだと思ったが、確かに母にぴったり似合いそうな衣装に仕方なく良いんじゃないと美咲は賛成した。


・・・そしてまた、美咲と母は美咲の衣装選びに戻って行く。





後で、カイトと4大精霊王は、決まっていたのならさっさと言えと物凄い勢いで怒鳴った!


眼には涙が浮かんでいた。


延々と繰り返された桁外れの戦闘に体も心もボロボロになった彼らが怒るのは無理もない。


母は、「だって誰も私に聞かなかったじゃない。」と不満そうに口を尖らす。


大喜びのアッシュと、大抗議の他の面々を「私の命令に逆らうのぉ?」と脅して黙らす姿を見たカイトと4大精霊王は・・・自分たちの失敗を悟る。


まず、一番最初に母に確認するべきだったのだ・・・


(っていうか!自分たちで確認しろよ!バカ親父!!)


踊り出さんばかりのアッシュ。

母に泣いて縋って怒られているタン。

がっくり落ち込んで項垂れる光と闇の精霊王と・・・自分の父を見て・・・俺は絶対こんな大人にはならない!と固く決意するカイトだった。

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