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平定 28

夜分自分に割り当てられた寝室をノックする音に、美咲は緊張して応えた。


顔をのぞかせたのは、今晩の美咲の警護に当たってくれているヘリオトロープで何とも言えない微苦笑で告げられたのは、この国の正妃の訪問だった。


(凄い。ママの言ったとおり・・・)


美咲も苦笑でヘリオトロープに頷く。





母と別々に用意された寝室に向かう前に母は、今夜美咲の元に正妃が訪ねてくるだろうと言ったのだ。


「ママだったらそうするわぁ。・・・妹が先走って行動して大切な客人を泣かせてしまった。直接謝罪に訪れても何の不自然もない。その際にいろいろ聞き出せて、あわよくば、ちょっぴり仲良くなれるかもしれないチャンスなんて絶対逃がせないわぁ。」


そんな下心満載の謝罪なんてするのは母ぐらいじゃないのかとは思ったが、とりあえず素直に聞いておく。


「私、どうしたら良いの?」


そんな、一国の王妃さまと直接話すなんてことが自分にできるとは思えない。

不安に表情を曇らせる美咲を母は尚も不安に陥れる。


「そうよねぇ。両想いの彼氏の義理とはいえお母さんに会うんだもの、緊張するわよねぇ。」


「ママ!!」


そう言われればそうなのだと思って焦る美咲を母は楽しそうに見る。


「あぁ、いいわぁ。ママの夢だったのよ・・・恋に悩む娘の一挙手一投足に萌える母親になることって!美咲が可愛くって、ママ、嬉しいわ!」


人の不幸で楽しむな!と美咲は思うのだが、やっぱり頼れるのは母しかいなくて・・・


「・・・ママ、どうしよう?」


「いつもの美咲で良いのよぉ。下手に頑張っても化けの皮なんてぇ直ぐに剥がれちゃうのよぉ。バーンが本命なら猶更ありのままの美咲を見てもらわなくっちゃね。」


「でも・・・嫌われたら。」


「美咲を嫌う人なんていないわよぉ。美咲はとっても可愛いんだからぁ。」


「ママったら、そういうのは親バカっていうのよ!」


真っ赤になって怒る美咲は確かに可愛い。

母の気持ちもわからないでもないが、今この状況で、正妃の出方ではなく美咲の狼狽に興味を持つのは間違っているのではないだろうか?


「・・・違うだろう。」


呆れたように呟いたヘリオトロープは母に睨まれ、また胃を痛くする。


美咲は、ハッとした。


「そうよ!違うわ!ママ、私は王妃さまに会うのにどうしようって悩んでいたのよ!・・・それは間違いなく王妃さまはバーンのお義母さんだけど・・・今はそういう場合じゃないでしょう?!」


母はつまらなそうに肩を竦める。


「間違いないんだからぁ、いいじゃなぁい?」


「でも!」


「おんなじよぉ。」


母は焦る美咲の頭に手を置いた。


「・・・同じなのよ。王妃だろうと、何だろうと。・・・きっとママとおんなじ。子供を心配する母親だわぁ。・・・だからいつもの美咲でいいのよ。」


「ママ・・・」


頭が優しく撫でられる。


「普通に接してあげなさい。普通にお話して・・・バーンのお義母さんをよく見てあげてね。」


美咲なら大丈夫よと母は言った。


やっぱりママは親バカよと美咲は言いながら気持ちが落ち着くのを感じた。

母の言うとおりなのかもしれない。

王妃さまだからって、そんなに特別な人間であるはずがない。

きっと当たり前に悩んだり傷ついたりするはずだ。

普通に・・・は無理かもしれないけれど、あまり構えずに話そうと決心する。


「王さまだってぇ、話してみたら、たいしたことなかったでしょう?」


“王さま”という母の言葉に美咲の顔が強張る。

ぎこちなく頷いた。


母は、困ったように笑った。


「王さまも、王妃さまも・・・“神さま”だって、みんなおんなじなのよ。普通に接してあげてね。」


こくりと頷きながら、美咲は堪え切れず声を上げた。



「・・・ママ!」



美咲は・・・母に聞きたかった。


王さまとどんな関係なのかと。

王さまを愛しているのかと。


でも・・・なぁに?と聞き返した母に・・・美咲は黙って首を横に振った。


答えを聞くのが怖かった。


そうだと肯定されたら・・・何を言って良いのかわからない。

・・・自分が母に何を言ってしまうのかもわからない。


黙り込んだ美咲を母は何も言わずに撫で続けた。


美咲に1つ約束させて、母は寝室に向かわせる。

それは、“運命の姫君”について、どんな情報も与えないという約束。


「“運命の姫君”が2人いるっていう噂は知っているぅ?多分魔物の狙いは、セルリアン王の弱点となる“運命の姫君”を奪う事よぉ。誤解は誤解のままの方が良いわぁ。“本物は私です。”なんてぇ言わないでねぇ。」


「?!でも、ママ、それじゃ、ママが危険なんじゃない?」


「ママが?」


母は鼻で笑った。


人型をとっていた竜王が背後から母を抱き締める。

相変わらず、物凄い色気で思わず美咲は顔を赤らめさせた。


『危険など近寄らせはしない。』


姿を隠していた光輝と虚空も顕現した。

母の両脇に黙って佇む。


ぴーちゃんまで抗議するように美咲の周りをぴーぴー鳴いて飛びまわった。


美咲は素直に、ごめんなさいと謝った。


母の心配などする必要はなかった。

心配するべきは母に手を出してくる相手の方だ。


約束して、自分に与えられた豪華絢爛な寝室に溜息をつきつつ向かう。

一緒に白帝の姿のポポと竜王によって人型に戻れないように制限されたカイトがついて来る。

バーミリオンやエクリュは当然、他の部屋で一足先に休んでいるし、ブラッドは再びアッシュとタンに連れて行かれた。


「イヤだ!シディと一緒に寝たい!」


当然ブラッドは抵抗したのだ。

しかし・・・


「私たちだって我慢しているのに、そんな羨ましいことをさせるわけがないでしょう?!」


アッシュとタンは何を我慢しているのだろう?


(羨ましいって・・・?)


美咲は首を傾げる。


ヘリオトロープがその様子を、頭を抱えて見ていた。・・・また頭痛がするのかもしれない。



ともあれ美咲は寝室に落ち着いて・・・暫くの後に母の予想どおり正妃の訪問を受けたのだった。

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