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平定 24

「バーンは?」


休憩から戻った美咲は部屋の中にバーミリオンの姿が見えないことに気づき、カイトにたずねる。

カイトは美咲に声をかけられて嬉しい気持ちとその内容がバーミリオンに関することだったことへの不満を両方感じて複雑そうに顔を顰める。


「さっき、出て行った。」


「何処に?」


「俺が知るか。此処はあいつの育ったところなんだろう?行きたい場所があるんじゃないのか?」


カイトの言葉に美咲は、それもそうかと思う。


(・・・バーンの育った場所。)


そう思うと、この王宮が特別な場所に思えてくる。自分の座っているこの椅子や目の前の机に小さな頃のバーミリオンが座ったり触ったりしたのかもしれないと思うと何だかどきどきするのだ。


(恋って・・・不思議。)


“恋”と自分で思って自分で赤くなってしまう。

実際には、此処は賓客用の最高級貴賓室であり王子とはいえバーミリオンがこの椅子に座ったり机に触れたりしたことがあるのかは甚だ疑問だが、恋する乙女にそんな冷静なことを指摘するほどバカらしいことはない。幸いなことに此処にはそのバカらしいことを進んでやって美咲と一緒に盛り上がりたい母や、バカなこととそうでないことの区別のつかないブラッドはいなかった。


母は美咲同様休憩していた。


というよりも、母が休憩しましょうと言い出したのだ。

言われてみれば美咲も確かに疲れていた。若い美咲が疲れているのだ母は尚更かと思い美咲は母の提案に頷く。(もっとも面と向かってそんなことを言いはしなかった。美咲だって少しは気をつかうのだ。)


・・・母はベッドに横になるなり寝入ってしまった。

竜王とぴーちゃんが眠る母の両脇で丸くなる。

本当に疲れている様子の母の姿に美咲の胸は痛んだ。


(ママ、無理してなきゃいいけど。)


あの母の姿を見ながら、まだ母の心配をできる美咲は・・・やはり凄いのかもしれない。


ともあれ美咲もひと眠りし、まだ起きる気配の無い母を残して寝室から出て来たらカイトしかいなかったというのが現状だ。


(バーン、どこに行ったのかしら?)


考え込みながら美咲はドア口の方を見る。

・・・勝手に探しに出歩いたら、叱られるだろうか?


「あいつを捜しに行くのか?」


不機嫌そうにカイトがたずねてくる。


「あ!・・・ううん。別に用があるわけじゃないし、それに1人で出たら怒られちゃうわ。」


美咲はそう言いながら自分に言い聞かせていた。

この王宮には魔物がいるかも知れないのだ。危険な真似をするわけにはいかない。


だけど・・・


「一人じゃなきゃいいんだろう?俺が一緒に行ってやる。」


嫌そうにしながら、カイトは座っていたソファーから体を起こす。


「え?でも・・・」


バーミリオンを捜しに行くのにカイトについてきてもらうのは、何だか気が咎めた。


カイトは・・・美咲を好きだと言ってくれている。

美咲を愛していてずっと美咲の竜でいてくれると宣言しているが・・・美咲はその想いに応えられない。

カイトは好きだし、素敵な男の子だと思う。


でも、美咲はバーミリオンを愛している。


バーミリオンのことを思うと・・・苦しいくらい胸が痛くなるのだ。

この胸の痛みはカイトを想うほんわか暖かな気持ちの中には・・・ない。

多分、これが恋なのだと美咲は思った。


返せない想いに甘えて自分の我が儘につき合わせるだなんてダメだと思った。


カイトは・・・困ったように笑った。


美咲の側に歩み寄ると手を伸ばして美咲の頭をポンポンと撫でる。

その手を避ける素振りも見せず安心したようにされるがままに撫でられている美咲の様子に苦笑する。


「遠慮するな。俺はお前の竜だと言っただろう。お前はお前の好きなように動け。俺はそんなお前を守ってやる。・・・それが俺の喜びだ。」


「カイト・・・」


感動してちょっと瞳を潤ませる美咲を調子に乗って抱き寄せて、カイトは耳元に囁いた。


「それに・・・ひょっとしたらバーンのとんでもないところが見られるかもしれない。」


「?とんでもない・・・」


カイトはニヤリと笑う。


「此処はあいつの古巣だ。王子さまなんて身分だったんだ、昔の女の1人や2人いるだろう?・・・浮気しているかもしれないぞ。」


「浮気?!」


とんでもない言葉に美咲は驚く。


「安心しろ。バーンが浮気をしていたら俺があいつを叩きのめすから、シディはこっぴどく振ってやるといい。あんな浮気性な奴捨てて俺と番になろう。」


既に浮気をしていることを確定させてカイトは話す。


浮気性・・・と呟いて美咲は頬に手をあてた。

言われてみればその可能性は考えられないわけではなかった。


(バーン・・・ステキだもの。)


おまけに王子さまだったのだ。モテなかったはずがない。


(追い詰められて仕方なく王宮を脱出してきたんだもの・・・引き裂かれた元恋人とかいるのかもしれない・・・)


考えて美咲は青くなった。


“美人で優しい元恋人のお姫さま”が、帰ってきたバーミリオンと会っているのかもしれないと美咲は思う。

なんだか随分詳しくバーミリオンの元恋人を想像してしまい美咲は泣き出しそうになる。


そんな美咲の様子に焚きつけたカイトの方が慌ててしまう。


「お、おい、シディ?」


「どうしよう?バーンが盗られちゃう!」


「え?・・・いや、そんな!まだ浮気をしているって決まったわけじゃないし・・・」


なんで俺がバーミリオンを庇っているんだ?と疑問に思いながらカイトが宥める。


「私!そんな“キレイで優しくておしとやかなお姫さま”に敵いっこないわ!・・・私なんかキレイじゃないし優しくないし落ち着きのない平民だし・・・」


自分で言うたびに落ち込む美咲にカイトは尚更慌てる。


「そんなことない!シディは可愛いし優しいし最高だよ!」


「・・・ありがとう。慰めてくれて。でもいいの、わかっているから。」


「シディ!!」


誰か助けてくれ!とカイトは思う。


こんな時に限って、エクリュだのブラッドだのいつも来なくて良い時に出てくる奴らが誰も来ない。

エクリュはアッシュに、ブラッドはタンに連れられてそれぞれ王宮で魔物の気配を探っていた。エクリュはともかくブラッドは美咲の側を離れたくないと散々抵抗したのだが、魔物としては格が上なタンに逆らう事ができなかった。


「冗談だよ!冗談!!・・・バーンが浮気をしているかもなんて冗談だから!本気にするな!!」


「?・・・冗談?」


美咲は泣きそうな目を瞬く。


「そうだよ!バーンは俺が嫌になるほどお前が好きなんだから、浮気なんてあるもんか!悪かったよ、変な事言って。さあ早くバーンを探しに行こう!なっ!」


必死で言ってくるカイトの姿が可笑しくて・・・美咲はちょっと笑ってしまう。


カイトは美咲の笑みに、ホッと息を吐いた。


「シディが一番可愛い!シディ以上の存在なんかこの世界のどこにも存在しない!」


カイトは言い切ると、美咲の手を取って一緒にバーミリオンを探しに部屋を出る。


「カイトったら・・・」


そんなことないのにと思いながらも何となく嬉しくなって美咲は素直について行く。





・・・冗談が冗談でなくなったのは、彼らが部屋を出て10分程探した後の事だった。


部屋から暫く歩いた広い廊下の片隅で人目を憚るように男女が抱き合っている。


縋り付く、抜群のプロポーションのもの凄い美人を抱きとめているのは・・・深緑の髪をした、バーミリオンだった。

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