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平定 20

コチニール王宮から“グレン第一王子”と“運命の姫君”宛てに正式な招待状が届いたのは1週間後のことだった。


この1週間美咲は、多少ぎこちないながらも母と普通に過ごせていた。

毎日忙しく飛び回っていたことも幸いした。

夜は疲れ切ってぐっすり眠り、昼間はバーミリオンとカイトが側に居てあれやこれやと世話してくれる。


何より・・・母は変わらなかった。


ぎこちない美咲の態度にも何も言わず今までどおりに、かまってくる。


王さまとは・・・流石に話せなかった。


王さまとの連絡が始まる前に疲れたと言って眠ってしまう娘に、母は何も言わない。


もう少し時間が欲しいと美咲は思っていた。

時間が経って、落ち着いて考えられるようになれば・・・きっと。



そう思っていた矢先に招待状は届いた。


2人の起こす奇跡はコチニール国中で、もの凄い評判となっており、ついに王宮も無視できなくなったのだ。


ブラッドやエクリュが各地で治癒魔法を使った事も、頻繁に国内に現れるようになった竜が気に入った人間と契約し、竜の恩恵を与え始めた事も、全て“グレン第一王子”と“運命の姫君”の功績となり、いまや国民からの“グレン第一王子”の復権を望む声は抑えられない程に高まっていた。


第一王子が王宮に戻って、運命の姫君を花嫁として迎え、次代の王と王妃となる。


それは長年貧困に喘いできた国民がようやく得た希望と望みになってしまっていた。


「これで正々堂々とぉ乗り込めるわよぉ。騎士や竜をどれだけ引き連れて行っても平気だわぁ。度肝を抜いてやりましょうねぇ。」


ニコニコ笑う母の顔は美しい。


『王宮の広さはどのくらいなのだ?人型になれぬ者も連れて行くとなれば、かなりのスペースがなければ我らは収まらないぞ。』


竜王の言葉にバーミリオンは顔色を悪くする。

いったいどれだけの竜を率いていくつもりなのか?


「私たちの覚醒を聞いて仲間も集いたがっている。この機会に呼び寄せたいが、かまわないか?」


光輝と虚空が聞いてくる。

光と闇の精霊王の仲間となれば、やはり精霊なのだろう。


「良いわよぉ。貴方たちの仲間は派手だものねぇ。見栄えがするわぁ。」


・・・確かに派手かもしれない。


キラキラ輝く光の精霊王と恐怖を伴う圧倒的な迫力のある闇の精霊王をバーミリオンは怖々見る。

仲間なんて呼ぶ必要はない。

2人だけで迫力満点だ。


「それなら俺たちも眷属を呼ぶ!負けていられるか!」


サラたちがわけのわからないライバル心を発揮して張り合おうと声を上げる。


「まぁ、良いわねぇ。ついでに即位の披露もやったらぁ?いつまでも玉座を空にしておくわけにもいかないでしょう?」


母の提案にサラたちは真剣に検討を始める。


「即位?」


美咲が不思議そうに首を傾げる。


「まぁ!まだ言ってないのぉ?・・・あのね、サラちゃんたちは精霊王なのよ。」


とっておきの内緒話を打ち明けるように母は言う。

美咲とバーミリオン、ヘリオトロープをはじめとした騎士たちは呆気にとられた。


「・・・精霊王!?」


「そうよぉ。王クラスでなければあんな大きな湖をポンポン作るのは無理よぉ。美咲ったら精霊王を4人も引っかけるんだもの。流石ママの娘だわぁ。」


そんなつもりのなかった美咲は口をパクパクさせる。


「ぴーちゃん、ポポ、魔獣もいっぱい集めてねぇ。」


ぴーちゃんはコクコクと頷くとはりきって母の周りを飛び始める。

ポポも控えめに頷いた。(ポポは美咲が大きな姿も可愛いと言ってからは、白い虎のような姿でいることが多くなった。こちらの方が楽だからと小さな声で主張したが、美咲にもふもふされて嬉しそうに尻尾を揺らしている姿を見れば何を狙っているかは一目瞭然だ。)


神獣が声をかけるのだ。

どれほど多くの魔獣が集まることだろう。


「おい!!」


流石に見過ごせなくなってバーミリオンが声を上げた。


「どんな大軍団を引き連れて行くつもりだ!戦争にするつもりか!?」


いくら戦いに強い魔法や召喚獣が使えないとはいっても、現実に目の前に見せつけられる恐ろしい力は相手に恐怖と警戒を与えるだろう。

護衛のためというには強すぎる力だった。


母は呆れたようにバーミリオンに目をやった。


「戦争なんかにならないと思い知らしめるために行くのでしょう?・・・逆立ちしたって勝ち目はないと、どう足掻いたって敵わないのだと徹底的に見せてやらなきゃいけないのよぉ。気力を根こそぎ削り取って戦う前に叩き潰す!私たちに逆らおうなんて気をおこす気さえおこらないくらいに捻り潰してあげなきゃね。」


・・・美しい笑みに心の底から寒気が走った。


『主に逆らう者など我が根絶やしにしてやろう。力など使わなくても殲滅する方法はいくらでもある。』


「まぁ!頼もしいわぁ、たっちゃん。」


竜王が本気を出して根絶やしにかかれば人間などあっという間に全滅するのではないだろうか?


「・・・止めてくれ。」


バーミリオンは力なく言った。


「そうよぉ。是非止めてもらわなきゃならないの。そのためにみんなで行くのよ。貴方もせいぜい着飾ってねぇ。美咲に相応しくないような王子様なんか認めませんからね。」


バーミリオンは笑みを引きつらせた。


母が自分と美咲のことをどこまで知っているのかはわからない。

自分が美咲に惚れていることは確実にわかっているだろう。

美咲も母は美咲がバーミリオンを好きだということを知っていると話していた。

ならば自分たちが両思いだということは承知しているはずだ。

しかしそれについて何かを言ってくることはない。


(何を考えている?)


わからないだけに、今回の認めない発言は聞き流せなかった。

嫌々ではあるが、気合いを入れてバーミリオンは帰還の準備をした。






その日・・・コチニール王国は戦慄した。


始まりは、空を真っ黒に塗りつぶす勢いの空飛ぶ魔獣の襲来だった。


魔鳥はあまり召喚されることのない珍しい魔獣ではなかったのかという一般常識を根底から覆すような数の魔鳥が空を一面に覆う。


セルリアンから飛来するそれらを呆気にとられて見上げるコチニールの人々の足元を小さな魔獣が走り抜けた。

慌ててそれらの来る先を見た人々の顔が驚愕に固まる。


信じられない数の魔獣が大地を震わせて迫ってきていた。


驚き急いで逃げ出す者。家に閉じこもる者。それら全てに目もくれず、整然と魔獣は行進する。

小さなモノから見上げるような大きなモノまで数多の異形が何かに従うように黙々と進んで行く。


そして、人々はその魔獣の間に精霊の姿を見る。


力そのものが具現化した存在である精霊は、王の力の少ないコチニールにはあまり寄りつかない。

だからほとんどのコチニール人にとっては精霊など見たこともない存在だった。


それでもわかる。


圧倒的な力そのものである精霊たち。

しかも力の強い4大精霊の姿が多く見受けられる。

4大精霊は何かに浮かれ踊るようにコチニールの大地に広がっていく。



しかし、どの精霊も、魔獣も魔鳥も一切人に手出しをしない。


その事実に安心し・・・愕然としていたコチニール人たちも、ようやく心を立ち直らせる。



もはや何があっても驚かないぞと決めた彼らを嘲笑うように・・・竜が飛んだ。



空を埋め尽くす勢いの巨大な竜が人々の頭上を飛んでいく。



魔鳥も魔獣も精霊も・・・そして竜も、その行き先が王都だということに気づいて、人々はようやく今日がどんな日だったかを思い出した。


今日は・・・悲運のグレン第一王子が“運命の姫君“を伴って帰還される日だ。

では、このおびただしい数の力あるモノたちはグレン第一王子と“運命の姫君“に付き従っているのだろうか?!



竜が大気を震わせ咆哮を上げる!!



一際大きな青い竜がその場に降臨した。

空の一角をそのまま切り取ったかのような青い姿。


隣に同じ青い・・・しかしその青の深さが違う竜を伴って堂々とした威厳を持って竜は飛ぶ。


竜の翼の片翼が光を纏っていた。

キラキラと眩しいまるで太陽のような陽光が片翼を彩る。


反対の翼は闇を纏いつかせていた。

日中の明るさの中全てを吸い込むような暗闇が翼の先端から巻き起こる。



光と闇を従えて竜が飛ぶ。



見上げた誰もが息をのんだ。



声もなく魅入られて、恐ろしい力が通り過ぎていくのをただ見詰める。



「・・・神だ。」



誰ともわからぬ者がようやく絞り出した声は、掠れ、震えていた。

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